12,フロアボス阿修羅王。
──阿修羅王──
第20階層にて。
芦ノ湖ダンジョンの攻略難易度を跳ね上げているのは、20層ごとに存在する中ボス。
いま玉座に腰かける、身の丈10メートルを超す三対の腕をもつモンスターこそが、はじめの中ボス。
その名も阿修羅王である。
手下のスケルトンが、骸骨に似合わぬ流暢な言葉で報告する。
「阿修羅王さま。先ほど百眼鬼さまが最下層に戻られたそうです」
「そうか。百眼鬼さまの気まぐれにも困ったものだ。しかし最下層に戻られたのならば、これで芦ノ湖ダンジョンも通常運転となる──」
そこに別のスケルトンが駆けこんできた。
「た、た、大変でございます、阿修羅王さま!!」
「えぇい、なんだ騒がしい奴」
「に、人間が、ダンジョン攻略者が、目前まで迫っております!!」
この階層までたどり着くとは、その人間の攻略者はSランクに違いない。
またはAランクの中の有望株か。
だが阿修羅王は納得せずに答える。
「なんだと? 第10階層のラミアや、第18階層の破戒ゴーレムからは、なんの報告も来ていないぞ。何かの間違いではないのか?」
それほどの上位ランカーが攻略にやってきたのならば、阿修羅王自慢の手下たちから、バトル前に報告があったはずだ。
スケルトンは、骸骨でありながら、なんだか青ざめ顔色で。
「そ、それが、ラミア様、破戒ゴーレムさま、すでに討ち死にでございます!!!」
阿修羅王は玉座から立ち上がる。
「なんだと! それは、歴史に刻まれる激しいバトルだったのであろう」
「あ、いえ、瞬殺されました」
「瞬殺だとぉぉぉぉ!! バカ者がぁぁぁ!!あやつらが、そのような無様な死に方をするはずがあるまい!!」
「ひぃぃ。で、ですが、これは真実でございます。その攻略者は、なぜか、なぜか……回転しております」
「回転、だと?」
「はい。いえ厳密には、ローリングでございます」
「ローリング……攻略者どもが回避のために使う、アレか」
「はい。そのローリングをずっと続けております。第1階層から、ずっと──そして、ああもう間近まで迫ってきているのです!!」
「謎のチートスキルでも使っているのか? ならば、このわしが直々に相手をしてやろう。そして破戒ゴーレムたちの仇を討ってくれようぞ!!」
阿修羅王は、バフスキル《肉体超化》を自身にかける。
《肉体超化》は攻撃力と防御力の数値を15パーセントUPする効果があり、さらに3層まで重ねがけ可能。
中ボスとしての特権で、ダンジョン攻略者と戦闘に入る前に、この《肉体超化》を3層まで重ねがけしておくことができる。
「さぁ、わしが相手だ! この百戦錬磨、かつてSランク攻略者であった安曇良一の片腕を奪った、この阿修羅王がな!!」
そして、『それ』がボス部屋に突撃してきた。
確かに、ローリングしている人間が。
よく見ると、そのローリング攻略者は『少女』と呼ばれる年齢のようだ。
「馬鹿め! そのようなローリングスキルで、このわしを斃せると思ったか? さぁ跳ね返してくれようぞ! がははははははァァァァァァァァァァァァアア!」
後半、悲鳴に変わる。
ローリングの直撃を受けたところ。
木っ端微塵になったので。
「ァァァァァァアア!!…………………」
そして断末魔の悲鳴も、無に帰った。
──主人公──
1階層からずっと《ローリング》スキルを使ってきたけど──さすがに、ここでいったんスキル解除しておこう。
「さすがに、20階層まで一気にローリングしていると、スキル補助があるとしても、目がまわるものだよ。ところでいま、なんか巨大なモンスターを通過したような」
ちらっと見ると、誰も座していない玉座がある。
「まぁ、なんでもいいか。最下層まで、先は長いぞ。頑張ろう」