11,先走る将来設計。
──桜島二奈──
芦ノ湖ダンジョンの近くには、ダンジョン攻略局の支部がある。
夜も更けたころ、桜島二奈は慌てて支部内に駆け込んだ。ある発見をしたためだ。
「あ。五藤さん、いいところに!」
重傷を負った仲間がドクターヘリで運ばれるのを見届けて、軽傷だった五藤はここで手当てを受けていた。
「どうしたんだ、桜島?」
「はい。実は、あたしの将来の夫となるに違いない斗亜くんがですね」
五藤が理解不能という顔で、
「なんだって?」
「あ。いえ、申し訳ございません。いまのは忘れてください。将来設計が先走りました。こほん。先ほどあたしと同行していた初心者のことです。志廼斗亜という男子ですが」
と、二奈はすっかり、志廼沙良の性別の『勘違い』を続けつつ言った。
「男子だったのか? おれはてっきり、ボーイッシュな女子かと……それよりも、その彼がどうかしたのか?」
「はい。どうやら再度、単身で芦ノ湖ダンジョンに潜ったようなのです」
なぜ斗亜は自分との連絡先交換を断ったのか、二奈はずっと考えていた。
その1,自分が拒否されるはずがない。
その2,斗亜は自らの命をかえりみず、二奈を助けたほどに──すでに一目惚れしている。
結論。
──恥ずかしがり屋だからに違いない!
(女の子との連絡先交換が恥ずかしいなんて、初心なんだからぁ)
そんな恥ずかしがりな将来設計の中ではすでに夫第一候補の斗亜を探していたところ、芦ノ湖ダンジョン入口に、新しい足跡を見つけた。
どうやら斗亜のものらしく、足跡の方向はダンジョン内を示していたのだ。
五藤は、そんな報告を聞いて青ざめる。
「なんということだ。いまさっき、ダンジョン攻略局より正式に、芦ノ湖ダンジョンに封鎖令が敷かれたというのに」
絶句する二奈。
「そんな……」
封鎖令──といっても人間側でダンジョンを封鎖などはできないので、ようは立ち入り禁止。
「もともと芦ノ湖ダンジョンは高レベルダンジョンのひとつだったが、それでも第1層~第30層までの、いわば上層エリアは、まだ中級攻略者ならば攻略は可能だった。ところが最下層に鎮座しているはずのダンジョンボス百眼鬼が、あろうことか第3層に現れたのだ。封鎖令が出るのも無理はない」
「だけど、志廼くんがまだ芦ノ湖ダンジョン内に」
「残念だが、諦めるしかないだろうな。百眼鬼は、かつてSランク攻略者による四人パーティを壊滅に追いやった。この事件によって、国内に七人いたSランクは、一夜にして三人となってしまった。それほどの化け物だ。おれたちができることは、奴が最下層に戻るのを待つことだけだ」
「……分かりました」
その場では納得したフリをしたが、二奈はすでに覚悟を決めていた。
五藤に隠したのは、止められるとは分かっていたからだ。
二奈は芦ノ湖ダンジョン入口へと戻る。
いまから急げば、まだ上層部で、斗亜を見つけられるだろう。
百眼鬼と遭遇さえしていなければ。
「まっていて、斗亜くん。いま助けにいくからね」