10,ぐるぐるぐる。
わたしの要求にすっかり動揺するガーゴイル長老。
「アノ、鬼畜サマ」
「誰が鬼畜だ」
ちょっと実験のためにガーゴイルを大量に消滅させたからといって、鬼畜呼ばわりは酷い。
「せめて、そこは、『元気がいいですね』と言いなさい」
ガーゴイル長老はよりいっそう困惑した様子で言う。
「『だんじょんるーる』ヲゴ存ジデショウカ?」
「ダンジョンルール?」
ガーゴイル長老の説明では、ダンジョンにはダンジョンマスターが構築したルールがある。
モンスターもまた、このルールを逸脱することはできない。
それはダンジョン攻略者にとってのステータスのようなものだという。
そして数あるルールの中で、『自ら魔石を取り出してはならない』というルールがある。
ちなみに魔石はモンスターにとって心臓のようなもので、取り出すと死ぬそうだ。
「もう、余計なルールを作ったりして!!」
わたしは怒りのあまり〈竜殺しのドリル・ドライバー〉をもった右手を振り上げた。このとき偶然にもトリガーを引き、さらに偶然なことに──偶然とは重なるものである、名言風──
ガーゴイル長老に、少しだけ回転するドリルビットが接触してしまった。
とたん、ガーゴイル長老が跡形もなく消し飛ぶ。
「あ、ごめん…………ほんと、悪気はなかったの」
長老の背後に控えていた何百というガーゴイルたちが、おのおの武器を手に、殺意をむきだしにしてきた。
おそらく、
「我らの長老が殺された!」
的なことを言いながら、いまにも全方向から、わたしに襲いかかろうとしている。
あれ。これは困ったことになってない?
〈竜殺しのドリル・ドライバー〉は一点突破型。単体アタッカー最強の根性でできているので、全体攻撃には弱い。よって大勢で襲われると、わたしの貧弱なDEF 3が泣く。
「もう悪気はなかったんだよ。こら、数の暴力反対!」
〈突撃〉スキルで強行突破しようかな?
ところで──スキルスロットにはまだ空きがある。
初期に選択できる汎用スキルの中で、実に『平和的な解決』のできるスキルはないだろうか。
たとえばこの、〈ローリング〉。
スキル能力は、『ローリング回避が可能。ローリング可能時間は、AGI(素早さ)の影響を受ける。このスキルはほかのスキルと同時発動が可能である』
〈ローリング〉をスロットにセットしながら一考。
つまり、だ。
〈突撃〉のスキル効果が、『AGIの数値を、装備状態含めたATKの数値の10パーセント分上昇させる』。
これによって、〈竜殺しのドリ・ドラ〉のATKが∞より、AGIも∞となる。
さらに〈ローリング〉可能タイムは、AGIの影響を受けるので、先にAGIを∞にしたことで、永続的に行うことができる。
じゃ、永続ローリングで、この場を脱出だ。
わたしも、素材採取できないのに、ガーゴイルたちを無駄に殺したくはないしね。
平和・主義。
その1,〈竜殺しのドリル・ドライバー〉のトリガーを引く。これによって、〈竜殺し〉のATK∞が、わたし自身のステータスATK∞となる。
その2,〈突撃〉スキル発動。AGI∞。
その3,〈ローリング〉が永続使用可能。
いくぞ──
ローリング。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
〈竜殺しのドリ・ドラ〉のトリガーを引いたままで。
そうしないと、ATK∞からの連鎖ができなくなるからね。
ぐるぐるぐるぐる。
あれ。わたし、なんか直線じゃなくて、かなり蛇行している?
そしてガーゴイルたちの阿鼻叫喚が聞こえる。断末魔の悲鳴である。なんで?
あー。もしかして、ローリング上にいるガーゴイルたちは、〈竜殺しのドリ・ドラ〉を食らってる感じ?
がんがん消滅させられている感じ?
しばらくして、ローリングを解除してみた。
その場にいた何百体ものガーゴイルが、いまや完全に消え去っていた。肉片も残らず。
「……元気がいいから、仕方ない」