表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者を轢いたトラック運転手は私です。

作者: BPUG



 あの日は、午後から夕方の配達が続いていました。


 なんなんでしょうね。続く日は続くんですよね。

 時間指定しているのにいなかったり、そういうお宅に限って置き配許してくれないとか。


 それで、本当に疲れていたんです。


 ああ、うちの会社は規定はちゃんと守ってます。

 そこは厳しいところでしたから。

 他の同僚に迷惑かけて申し訳ないです。



 それで……学校が……いや、違う。学校じゃなくって……そう、住宅街に入る道を探していた時でした。


 幼稚園が近くて、昼間なら絶対に注意して走る道です。

 もうお迎えの時間も過ぎて、周囲に車もなくて、安心して運転をしていました。


 そこに……突然だったんです。

 横の家から、彼が飛び出してきました。



 彼が誰か?



 知ってるでしょう?

 彼です。



 僕が、僕が……轢いてしまった、あの、高校生の子です。


 どんな様子だったか?


 ……よく覚えていないです。

 何しろ、突然だったので。



 夜、でしたし。



 ヘッドライトに浮かび上がった彼は、驚いていました。

 清潔感のある感じの顔つきで、モテそうな子でしたね。


 でも、あの時は焦っていたのか、恐怖で引き攣っていたようにも見えました。

 口角がこう、ギュッと上がって……


 え? ええ……そうですね、

 笑顔にも見え無くもないですけど。

 


 でも、本当に、僕も必死に避けようとしたんです。

 ハンドルを切って、なんとか、彼を轢かないようにって……


 住宅街なので、速度も出てなかったはずです。

 車に記録が残っていると思います。



 いえ! 知りません!

 本当に! 

 ハンドルを切って避けて、すぐにトラックから降りて、その場を調べたんです。

 道路も、トラックの下も、もしかしたら跳ね飛ばしてしまったのかって、あちこち付近を探し回って。



 でも、本当にあの高校生はどこにも見当たらなかったんです!

 信じてください!



 でもそのままには出来なくて、警察を呼びました。

 もしかしたら、警察が何か見つけてくれるんじゃないかって……そう思ったんです。


 なのに、来た警察官は全然僕の言うことを信じてくれなくて……


 何度も何度も、「高校生がいたはずだ」って言ったんです。

 それで、そのうち、近くの家の人が何か知らないか聞きに行くってなって。



 その時点で、僕はもう疲れてしまって、何が起きているのかうろ覚えなんです。


 何か、警察の人が騒ぎ出して。


 あれって、僕のせいなんですか?

 違いますよね?



 そ、そうですよね。

 僕は、あの家の前に偶然いただけなので……



 え? ええ、高校生以外は誰も見ていません。

 見たら覚えていると思います。




 僕、どうなるんでしょうか?

 ここの病院で検査してもらって、事故の影響はないって分かってもらえましたよね?


 必要なら、警察に行って取り調べを受けます。

 あの日から、すごく夢見が悪くて……寝れてないんです。


 人を轢いた罪悪感からかもしれないんですけど。




 ――ちょっとだけ、夢の内容を聞いてもらっていいです?


 すみません,ありがとうございます。




 ……夢に、あの高校生の子が出てくるんです。


 ほんの一瞬、車のライトに照らされた顔しか見てないはずなのに、すごい鮮明な映画みたいに、彼が動くのが見えるんです。



 夢の中だと、彼はどこか違う世界で立派な勇者になってるんです。


 ははは、おかしいでしょ?

 日本とは違う世界だなんて、そんな映画や小説じゃあるまいし。


 馬鹿みたいだって、自分でも思うんです。

 体動かす方が好きだし、全然そう言う話も読んだことがないのに、勇者が出る夢なんて見るのがそもそも不思議なんです。

 


 夢の中だと、彼は、すごい力を手に入れるんです。


 すごい力は、すごい力です。


 うーん、僕、そういうのは詳しくなくて。

 こう、剣でバーン!

 とか、魔法でドッカーン!

 とか、そう言う感じです。

 説明が下手で申し訳ないです。



 それで……あの、本当に、あの子には悪いと思ってるんですよ? 信じてくださいね?


 夢の中だと、勇者だった彼は、どんどん正気を無くしていくんです。

 敵を切って、殺して、戦いを繰り返していくうちに、力に溺れていくんです。


 その姿が本当に怖くて……


 僕、ダメなんですよ、そう言う話。

 血とか人が死ぬの。

 だから、本当に毎晩怖くて。


 何でこんな夢見るんだろうって。

 あの高校生の子に恨まれているんでしょうか。



 償いだったらどんなことでもします。

 

 ごめんなさい。


 本当に、ごめんなさい。


 どうか,許してください。

 僕を捕まえてください。



 もう、人が死ぬのを何度も見たくないんです。


 毎日毎日、数千っていう人が切り刻まれるのを見せられて、気が狂いそうなんです!


 本当に!


 僕は、なんて事を!




 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!




 ◆ ◆ ◆ ◆



 

 2023年2月某日21時ごろ。

 きっかけは、住宅街を走行していたトラックドライバーからの通報。


 人を轢いてしまったというその通報を受け、警察官が現場に急行。


 しかし、トラックの周囲には被害者の姿はなく、ドライバーの証言も要領を得ない。

 薬物もしくはアルコール摂取の疑いを抱いた警察官は、応援を要請。


 

 警察官は応援に来た別の警察官と共に、付近の捜索を開始。

 同時に他の数名も、近所の民家に聞き込みを実施。


 だが、その中の一軒、八十代女性が惨殺死体で発見されたことから、事態は急変した。



 発見されたのは、この家に一人で住んでいた八十三歳の女性。


 死因は、胸や腹を鋭利な刃物で十箇所以上刺されたことによる失血死。


 室内に争った後はなく、金品を持ち去った形跡もない。



 現場近くにある幼稚園の正門に設置された防犯カメラの映像から、事件時刻前後にその道路を通ったのは高校生だけと判明。

 20時半過ぎに、トラックドライバーの運転する車両が通過する以外、何も残されていなかった。


 この事から、警察は高校生が何かしら事件に関わっていると見てその行方を探している。

 だが事件から一ヶ月以上経った今も、依然としてその行方をつかめていない。



 なお、2023年に入ってから、県内では同様の一人暮らしの高齢者が惨殺される事件が五件発生しており、今回の事件との関連性を調べている。



 高校生が通っていた学校からの発表によれば、男子生徒は授業態度も良く、部活動や生徒会の活動に積極的に参加し、校内でも人気があった。


 一方、家族からのコメントは何も出ておらず、取材も拒否を続けている。



 事件前までの高校生の足取りは不明。

 今後もこの事件の詳細の取材を計測する予定。



 補足: トラックドライバーは心神耗弱の状態として、現在は精神科病院にて治療中





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この視点は初めてでした。 確かに、刺したり轢いたりしちゃった人らの恐怖たるや。 ヤッたという実感はあれどブツがなくて、でもって失踪とか。 身内が黙秘するようなクズならまだしも、愛され系な…
[良い点]  あっ‥‥‥やったな?こいつ。  ある意味転生勇者として斬りまくるのは天職か?  キ◯ガイ勇者「幸せだなあ‥‥‥そうだ転生の原因二なったク◯ネコの人に僕は元気にやってますって思念伝達して…
[良い点]  超短編として読み手にいかようにも読後の妄想を委ねる潔さ。  さらに主人公たるトラックドライバー観点で語られる転生勇者のその後(夢にて報告される神の後始末として押し付け映像?)が後段の事情…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ