ノワールは考えた
この感覚は何だろうか。
水の中にいて、ふわふわとしているみたい。
あるいは遥か昔の小さい頃の記憶。
たくさんいた兄弟たちと母親のお腹の上で寝ているみたいな優しい気持ちよさ。
「あなたの望みは何ですか」
声が聞こえた気がした。
それが誰の声でなんて言っていたのかよく聞こえなかったのに、何と言っていたのかはよく分かった。
望みはご主人様とずっと一緒にいること。
どんな時もどんな場所でも一緒にいたい。
ご主人様は全てである。
大好きで、守りたい。
大好きで、もっと撫でてほしい。
ノワールはショウカイに深い感謝を持っていた。
人間と魔物は相容れないもの。
魔物は人間に怒りや恨み、恐怖などの感情を持っている。
逆に人間も魔物に対して人間に対する脅威であり、同時に魔物の素材なんかは人間の生活を豊かにする糧だと考えている。
傷ついて動けなくなっていたあの時に会っていたのがショウカイでなく他の生き物だったらノワールは生きていなかった。
人であっても魔物であってもおそらくノワールは助かっていなかった。
ショウカイだから助かったのである。
ショウカイは優しい言葉をかけてお肉を置いていった。
毒でも入っているのではないかと最初は疑った。
どうせ動けもしないのだし毒が入っていても構わないと食べた。
普通に美味しいお肉。
次の日もまた次の日もうなっても冷たい態度を取っても毎日お肉を置いて、優しい笑顔で優しい言葉をかけていった。
ある時からうなるのをやめた。
うなってもうならなくてもショウカイは変わらないし、近づかれても危害を加えないと思った。
なぜなのか近づいてきてほしいとすら思った。
それでもショウカイは不用意に近づいて来なかったし、その思いやりすらも嬉しく感じられた。
少し体力が戻ってきたかな、なんて思っていたらいきなり体調が悪くなった。
お肉に何かしたわけじゃない。
単純に傷口が悪化したのだ。
なんだか遠くにショウカイの声が聞こえて、ここで死ぬんだと思った。
鼻先になんだか変なにおいのするものを置かれた。
死ぬ時にそんな不味そうなもの食べて死ねるかと思ったけど最終的に口に流し込まれた。
今度こそ毒かと思った。
半ば朦朧とした意識の中ショウカイが去っていくことがとても心細かったのを覚えている。
このまま目を開けることがないと思っていたのに、次の日になると足の怪我はだいぶ良くなっていた。
それがショウカイのおかげだと気づくのに時間はかからなかった。
ノワールはとてもとても感謝した。
同時に湧き起こる思いがあった。
ショウカイに従ってもよい。従いたいという思いだった。
考えれば考えるほどにショウカイのことが頭を埋め尽くしていき、ショウカイのことを好きになっていく。
そしてノワールはショウカイの従属スキルを受け入れてショウカイの従魔となった。
ノワールはショウカイが好きだ。
どこまでも果てしなく、ご主人様至上主義になったのである。
「あなたの望みははご主人様と一緒にいること。
そのためにあなたはどうなりたいですか」
幸せな思い出に浸っているとまた声がした気がする。
どうなりたいか。
まず思ったのは強くなりたい。
守りたいと思ったのに守れない。
忌々しいカラス。
むしろショウカイに守られて逃げることになってしまった。
次こそは守ると意気込んだのにマギナズの一撃でやられてしまった。
ショウカイを守れるほど強くなりたい。
何者にも負けず、どんなものにでも打ち勝てる強さが欲しい。
そして同時に考えた。
ずっと一緒にいられるようになりたいと。
ノワールはよく嫉妬していた。
シュシュやミクリャはノワールと一緒にいられるのに自分はお留守番であることに。
どうすればよいのか考えた。
小さくなればいい。
そうすればシュシュやミクリャのように一緒にいられる。
ついでに大きくもなれればいい。
ショウカイはモフモフするのが好きだから、もっと大きくなればもっとモフモフしてくれる。
ショウカイが幸せならノワールも幸せなのだ。
ただもう1つ考えた。
マギナズやテラリアスナーズのことである。
彼女たちはまた別の方法でショウカイと一緒にいた。
「……あなたの願いは分かりました」
どこまでもショウカイを思う気持ちに声が呆れたように聞こえた気がした。
この空間、この時間は心地がいいけどやっぱりショウカイの側がいい。
早く……ご主人様と会いたいなとノワールはまどろみに意識を落としていった。
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