ノワール、進化8
ファルバランが来てから3日が経った。
時折近くを近づく魔物をシュシュが見つけてはワチカミが倒しに行くせいか3日目にして魔物が近づいてくる気配は皆無になった。
日々ノワールの側で飯を食い寝るだけ。
「進化って結構時間がかかるんだな」
暇を潰す何かがあるわけじゃない世界なので時間が長く感じられる。
「ワタクシの時はもっと早かったである……」
「そうなの」
「やはりドラゴンの血が影響しているであるな」
正直ウルフのノワールはそれほど強い魔物であるとは言えない。
なので進化の長さも順当ならそれほど長くはないはず。
数日もかかるということはテラリアスナーズの血が関係していると考えられる。
シュシュも戦闘力に関しては最弱に近い魔物なので進化は早かった。
「ショウカイ様ー!」
平和な時間に昼寝でもしようかと思っているとショウカイを呼ぶ声がする。
キョロキョロと周りを見渡してみるけど声の主は見えない。
ワチカミやシュシュの声ではないその声は近くから聞こえたのに何処にいるのか。
「ショウカイ様、上である」
「上?
あっ、あー……」
3日も経つとすっかり忘れていた。
シュシュに言われて空を見上げるとファルバランと思わしき鳥が多くの鳥を連れて戻ってきていた。
どれがファルバランが分からない。
どこに話しかけたらいいか困っていると鳥の中の1匹がスーッと降りてくる。
ちょっとだけ頭に飛んでくることを警戒していると肩にちょこんと着地する。
「お久しぶりです、ショウカイ様」
「久しぶりだけど何この鳥たち?」
鳥たちは皆ワチカミから距離を取るようにして思い思いのところに着地している。
よくみるとカラフルな鳥とか真っ白な鳥とスズメじゃなさそうな鳥もチラチラと見える。
なんか持っている鳥もいるし嫌な予感がする。
「先日の件女王様とマギナズ様にご相談してみたら素敵な解決法をマギナズ様が提案してくださいました。
うゔん……『進化途中のノワールが心配でこれねぇってならノワールごと持ってくりゃいいだろ』
そうおっしゃっておりました」
突然のマギナズの声真似に驚く。
そっくりだったけど内容はとんでもないことを言っている。
まさしくマギナズが言いそうなこと。
「テラリアスナーズは?」
「女王様も同意なされました」
「……それで?」
「前にお見かけしたノワール様?の進化の繭は結構大きく見えましたので私1人では持っていけません。
なのでみんなに協力を頼み、ショウカイ様とノワール様を森へとお連れしようと思いました!」
思いました、ではない。
人の同意も無しに何勝手にしようとしている。
何か持っていると思っていたけれどそれはロープのようなツタの塊だった。
それでノワールの毛の塊をぐるぐる巻きにして持っていこうというのである。
力技にも程がある。
「どうでしょう!」
「どうでしょうったって……」
そもそもまだオーガの件も引き受けたつもりもない。
ノワールのことが終わったら考えるぐらいで言ったのに。
「とりあえず行ってみましょう。
それから考えるといいと思います」
行ったらもう終わりではないか。
「行ってきたらどうだ?」
「ワチカミ?」
「進化には魔力が濃い場所の方がいい。
ここはそんなに魔力が濃くないからその森の方がいいかもしれないぞ」
「そうなんだ……」
「それにそろそろ私も一度巣に帰らなきゃいけないしな」
「あっ……」
なんだかんだとワチカミを長々と付き合わせてしまった。
ワチカミにはちゃんと巣があるのだしあまり長期間付き合わせるのも悪い。
「そうだね、オーガの件は別としてここじゃいつ人が来るかも分からないし、移動できるならしたほうがいいかもな」
安全を考えるとこの山岳地帯は目立ちすぎる。
「分かった。
とりあえずそのテラリアスナーズたちのいる森に向かってみるよ」
「助かります!」
心配ごとは色々ある。
けれどこのまま何もしないでもいられない気もしたので移動することを決心した。
ショウカイとワチカミも手伝ってノワールの毛の塊をツタでぐるぐる巻きにする。
いくつもあるツタの端を鳥たちが持って羽ばたくとフワリとノワールが浮き上がる。
「そんじゃ、ミクリャのこと頼むぞ」
ワチカミは巣があるのでついてこられない。
代わりにミクリャとシュシュが付いてくることになった。
「ノワールのこと守ってくれてありがとう」
「無事進化してから礼は言うんだな」
「分かった。
帰ってきたら絶対お礼するよ」
「じゃあなー」
ショウカイはぐるぐる巻きにされたノワールの上に乗って一緒に移動する。
ワチカミに手を振り、ショウカイたちは空へと旅立ったのであった。
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