ノワール、進化6
「何これ?」
「ちょ、血が出てるである!」
ある種混沌とした光景。
スポッと刺さったものを抜いたショウカイの頭からは血が噴き出している。
シュシュが糸を出してショウカイの頭に巻き付けて応急処置をする。
ショウカイが頭から抜いたものを見る。
何か固くて尖ったものが刺さった。
刃物だったら命はなかったろうからもっと刃物よりも鈍い。
石かとも思ったけど握った触り心地は何故だか柔らかくて温かい。
それとショウカイは目があった。
「……鳥?」
ショウカイの頭に飛んできて刺さったのは手のひらサイズぐらいの鳥だった。
「はじめまして人間!」
「はじめまして……」
「なに呑気に挨拶してんだ!」
「へっ……ぎゃああああ、クモじゃない!」
呆けたように挨拶を返すショウカイからワチカミが鳥をひったくって糸でグルグル巻きにする。
アラクネはクモ系統であり、捕食者として上位に位置する。
小型の鳥にとっては恐怖の対象であり、頭だけ出した鳥は完全にワチカミに怯えていた。
「ちょっとワチカミ……怯えてるじゃないか」
「おいおい……お前の頭に穴開けた奴だぞ?
鳥系ならもしかしたらヤタとかいう魔物の仲間かもしれないだろう」
「……それは」
言葉に詰まる。
ワチカミの言葉には一理も二理もある。
あまりの衝撃になぜか抜けてしまっていたが先手で攻撃も加えてきたのはこの鳥の方だ。
「ひぃぃー、お願いします、助けてくださいー!」
話を聞くために出した頭を振りながら必死に命乞いをする鳥。
悪い奴には見えない。
あまりにも情けない姿に怒りは湧いてこない。
話だけでも聞いてやってもいいかと思わせる弱者感が凄い。
ピィーピィーと鳴く鳥を見てワチカミも警戒心が薄れる。
本当にショウカイを襲うつもりだったら今頃トドメを刺しているはずだしやや不可解。
油断する気はないけど今は以前に確保した大量のカラスのストックもあるし、こんな小さな鳥ごとき保存しておくつもりもない。
「何にしてもお前に用事がありそうだしな。
好きにするといい」
「ありがと、ワチカミ」
「そ、そろそろあれ焼けってかなー!
あっちにいるからなんかあったら呼べよ!」
「ソーセージは多分焼けてるからミクリャにもあげて」
あれはツンデレとでもいうのか。
なかなか対等な関係で会話する相手のないワチカミは素直にお礼を言われたりするとどうしていいのか分からないのだ。
「で、君は何者?」
いまだに命乞いする鳥を拾い上げて質問する。
「ク、クモは!?」
「とりあえずあっちに行ったよ」
鳥にワチカミの様子を見せてやる。
焚き火の前でミクリャとソーセージをふーふーしながら食べている。
まだ油断ならない距離にいるけど近くにいられるよりはマシ。
ソーセージをハフハフと頬張る。
モグモグと食べてニッコリと笑う。
そんなミクリャの姿はショウカイから見ても可愛かった。
「な、なんとクモに命令まで出来るのか!」
「別に命令したわけじゃないけど……」
「このファルバラン感動いたしました!
つきましてはこの糸ほどいてはいただけませんか?」
「うーん、まだ目的も分からないからダメ」
ファルバランとはただの鳥にしてはイカした名前だな。
「人の頭にブッ刺さった目的を聞こうか?
事と次第によっちゃこのままワチカミの晩ごはんだぞ」
「せ、説明しまする!
だからお命だけはお助けください!」
「命乞いはいいから説明して」
「はいぃぃ。
まずは私、ファルバランと申します。
スポラウというチンケな魔物でございます」
見た目的にはデカめのスズメといった感じか。
「この度人間様にお願いがございまして翼を畳みに参ったのでございます」
「翼を畳むってなんだ?」
お願いがあるから翼を畳む、聞きなれない表現。
「えっ? ええと……翼を畳むっていうのは我々翼を持つものにとって最上級のお願いの仕方をするってことっていうか……
むむむ……私たちには普通のことなのでなんと言ったらいいのか」
「いや、悪かった。
話を続けてくれ」
文脈と最上級のお願いってことからすると頭を下げる的なことなのだろうとショウカイは解釈した。
こんなことで一々話を止めていては先に進まないのでファルバランに続きを促す。
「は、はい。
なぜ人間様のところに来たのかと申しますと、女王様から人間のショウカイ様なら問題を解決できるだろうと言われたからです」
「女王様……?
…………あっ!」
んな国のトップに知り合いなんていないと思ったけどすぐに思い出した。
マギナズがテラリアスナーズのことを女王様女王様と呼んでいた。
知り合いの女王様はこれぐらいしか思いつかない。
むしろ魔物と繋がりがあって女王様と呼ばれる存在なんて人の世界にいない。
「それでテラリアスナーズがなんだって?」
「女王様をお名前で!
まさか王様ですか?」
「違うし早く説明しろって……」
「ちょ……意外とこの糸キツくて……握られると苦しい…………」
軽く力を込めるとファルバランが頭を振って抵抗する。
そんなに力を入れたわけじゃないけど巻かれた糸がキツキツで少しの締め付けでも苦しかった。
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