ノワール、進化5
進化に関して進化前と比べると強くなる。
この認識に関しては魔物も同じ意見を持っている。
しかしシュシュは言う。
「どうなる、どう強くなるかはその魔物の望み次第である。
進化する時というのは、こう……なんて言ったらいいのかどうなりたいのかを聞かれている気分になるである。
こうなりたい、ああなりたいと強く願っているといつのまにか体が熱くなって、気づいたら進化しているである」
「なんだか不思議なもんだな、進化って」
「そうである。
だからきっとノワールもあの中でどうなりたいのかを自分自身に問いただして心の奥底にある願いを、どう進化したいかを今見つけているのだと思うのである」
進化経験者は語る。
「ノワールの願いかぁ……」
ノワールは何を願うだろうか。
例えば従属を辞めて自由になりたいなんて考えたらどうなるだろう。
そんなことを考えるノワールじゃないけどノワールが何を望むのかはショウカイにも分からない。
お肉いっぱい食べたい!とかそんな浅い願いではないことは承知の上。
きっとほとんどの魔物は強くなりたいと願うが故に進化でも強くなる。
ノワールも強くなりたいと思っているのだろうか。
毛の塊を眺めていても未だに変化はない。
「私みたいな上位種だと進化なんかほとんどすることはないからな」
「進化って何があると起こるもんなんだ?」
「進化は……なんだ?」
「進化は魔力が貯まると起きるである」
「魔力が貯まるってどこに?」
「魔物はそれぞれ人間が魔石と呼ぶものが体内にあるである。
弱い魔物なんかではほとんど目に見えないようなものであるが長く魔力を貯め込んでいくとでっかくなっていくである。
あとは他の魔物を倒して魔力を摂取したりしても魔力は貯まるである。
そうして時間をかけて魔力を貯めていくとある時に進化できるとなんとなく感じるである」
「ほぇー」
「進化しようと思ってできるので場所とタイミングを選べるはずであるがどうしてノワールがこのようなタイミングで進化したのかはワタクシには分からないである」
もっといい条件で進化できる場所があったはずだ。
それこそワチカミのところで進化させて貰えばわざわざここまでみんなで来ることもなかった。
進化は本能的なもので誰に教えられるものでもない。
安全そうな場所を選んで進化することも本能的に分かる。
「なんでこのようなところで進化を始めたのか……
もしかしたら一気に強い魔力を摂取するようなことがあったのかもしれないである。
進化を抑えられないぐらいに魔力を得てしまったら我慢しきれずに進化を始めてしまう、なんてこともあるのかもしれないのである」
「…………んん〜」
「何であるか?」
一気に魔力を摂取するような出来事なんて、あった。
何かあったかと記憶を辿ってみたショウカイには思い当たる節が1つあった。
あれはテラリアスナーズとマギナズと初めて出会った時のこと。
マギナズによって瀕死の危機に陥ったノワールを助けるためにアースドラゴンであるテラリアスナーズの血をノワールに飲ませた。
テラリアスナーズの力は凄まじかった。
ノワールは即治ったしその後もテラリアスナーズに勝てそうな人もいないぐらいに強かった。
テラリアスナーズの血は人間にとっても魔法の薬のようなものであると言っていた。
魔物にとっても傷があっという間に治るぐらいのものだった。
つまり魔力的なものも凄いのではないか。
凄まじい魔力を秘めたドラゴンの血を飲んだことが原因でノワールが進化を我慢できないのだとしたら辻褄は合う。
突然遠い目をするショウカイを不思議そうにシュシュが見る。
まさかあの時のことが巡り巡ってこんなことになるとは誰が予想できただろうか。
「何かあったであるな?」
「うん……シュシュもあったことがあるテラリアスナーズだよ」
「ぬぬ?
何があったであるか?」
テラリアスナーズとマギナズによる圧倒的な力で解決を見てしまった出来事だったので目立たなかったけれどシュシュも大部分は一緒にいた。
けれど出会った時にはシュシュはいなかったので何があったのかは知らなかった。
実はシュシュを呼びにいく前にノワールがテラリアスナーズの血を飲んだことを伝える。
「なんと!
それなら進化を始めたことも納得であるな!」
ドラゴンは世の中で最も強く清い魔力を持つ。
例え1滴の血であっても通常の魔物にはものすごい魔力である。
シュシュとしても、横で聞いているワチカミですら羨ましいと思う。
ワチカミクラスなら1滴では足りないけどシュシュなら1滴でも簡単に進化できるほどの魔力を得られる。
別に天敵がいる今ではないが魔物の世界は強くて損のない世界。
ワチカミだって進化までいかなくても多少の強化は望める可能性がある。
「とりあえずなんで進化が始まったかは分かったな。
しかしあれだな。
進化が始まった理由がそれならそれこそすぐには進化が終わらなそうな気がすんな」
「なんで?」
「通常の進化とは違うからな。
相当量の魔力を得て進化するんだからノワールよりも上の魔物の進化と同等クラスになるかもしれん。
どれぐらいになるかはドラゴンでも分からんけどな」
「うーん……見つかる危険もあるから短い方がいいけどな」
そっと毛の塊に触れてみる。
表面の毛はノワールと似たようなフワフワした手触りだけど内側は硬くてノワールのような柔らかさや温かさはない。
「どんな姿でもいいから早く出てきてくれ……」
進化するのに危険なことはないと思うけどショウカイはノワールに会いたい、そんな気持ちになっていた。
「見つけたー!」
「えっ?
いっ……!
痛ったいんですけど!」
「な、なんであるか!」
しっとりとした時間が流れているとショウカイが攻撃された。
攻撃なのかどうか分からないけれどとりあえずショウカイが被害を受けた。
頭に衝撃があって倒れ込むショウカイ。
何かが頭に突き刺さっていることが分かってそれを慌てて引き抜く。
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