ノワール、進化4
「うーん、やっぱこの姿だな。
キックってのもなかなか楽しかったけどな」
山岳地帯は木々が少なく焚き火のための枯れ木を集めるのに時間がかかってしまった。
ショウカイとミクリャが枯れ木を集めて戻ってくるとワチカミはアラクネの姿に戻っていた。
移動の時は人にあってもいいように人の姿に擬態していたけどやはり普通のアラクネの姿でいる方が違和感もなくて楽である。
よく人間は足が2本であんなに上手くバランスを取れるものだ。
「ご飯はとりあえずなんでも買ってきたから適当に食べて」
「おおっ! 人の飯は美味いからな。
おーい、シュシュー。
飯だってよー」
ワチカミが普通にアラクネの姿でいて人が来たらどうするのだという問題はシュシュが周りを監視する事で解決していた。
大きめの岩で囲まれていてショウカイたちのいる場所にいる場所に来ようと思ったら人が通れる岩の隙間が2箇所とあとは岩を越えてくる必要がある。
1箇所はワチカミが岩で塞いでしまったのでもう1箇所の出入りできるところを警戒しておけばよかった。
「待っていたである!」
シュシュが飛ぶようなやってくる。
とりあえず量が必要だと色々適当に買い漁ってきたので早めに食べなきゃいけないものもある。
最悪ワチカミが見ていてくれるなら食料の買い出しにも行くことはできるので好きに食べちゃう。
こうして来てくれたお礼の気持ちもあるし食料を放出する。
肉の腸詰め、つまりはソーセージなんてのもあったので棒で刺して火で炙る。
「そそ、それは何であるか!」
初めて見るソーセージにシュシュは興奮している。
キラキラとした目で焼けるソーセージを見つめるシュシュ。
お馴染みの肉屋の新商品らしいがニオイはショウカイにとってもかなり良く、見た目にもクオリティが高い。
「ほら、こないだ手伝ってくれたから一本丸々あげるよ。
熱いから気をつけてな」
「やったである!
ショウカイ様大好き!」
木の皿に乗せてシュシュに焼けたソーセージをあげる。
自分の体ほどの太さもあるソーセージに大喜びするシュシュ。
「ブワップ!
熱いである!」
シュシュが齧り付くと中から肉汁が飛び出してくる。
いいソーセージの証だ。
「だから熱いから気をつけろって言ったろ」
「あちち、あちち……でもこの水美味いであるぅ」
足で顔に飛んだ肉汁を口に流し込むとうっとりとしたご様子のシュシュ。
「いいなぁ……私も食べたいなぁ」
ムシャムシャとソーセージに食らいつくシュシュを羨ましそうな目で見るワチカミとミクリャの2人。
「2人にも焼いてやるからちょっと待っててよ」
ソーセージを棒に刺して焚き火の近くに刺す。
「じっくり焼いた方が美味しいと思うからちょっと待っててね」
「他のもんも美味いし食って待ってるよ」
「ミクリャは……待ってるのね」
ワチカミはまだまだある他の食料に手をつけて、ミクリャは座るショウカイの膝の上に移動してジッとソーセージを眺めている。
「ちなみに進化ってどれぐらいで終わるものなんだ?」
テラリアスナーズとマギナズと別れて、思い出したようにストーンリザードを倒し、ノワールが進化を始めた。
迷ったけれど食料や野営の準備をして、シュシュやワチカミに助けを求めて、またノワールのところに戻ってきた。
テントや焚き火の設営をして、食事をして、まったりとした時間が流れて、ようやく気分が落ち着いてきた。
進化が始まったことは分かったし無防備なことも理解したのだけどそもそも進化とはなんぞや。
どれぐらい守っていたらいいのかも分からない。
ショウカイは終わるまでここにいるつもりだけど何かのキッカケでバレるのではと不安はつきまとうし、あんまり長いことワチカミたちを付き合わせるのも悪い。
一旦落ち着いて進化について聞いてみようと思った。
「んー……それはそれぞれだからな。
強い魔物ほど長い傾向にはあるけど一様に短いとか長いとか目安になる長さはないんだ」
「そっか、それもそうだよな……」
チラリとノワールである毛の塊を見る。
改めて見るとすごい見た目をしている。
もっとオシャレな形はなかったのか。
せめて防御力が高いとか見つかりにくいようなものであればいいのに、フワフワとして見つかりやすく防御力も低そう。
「そもそも進化ってなんなんだ?」
前世の記憶でいくとゲーム的な感覚。
一つ上のモンスターになって形が変わって能力が上昇するのが進化のイメージになる。
しかしシュシュは進化を遂げたことがあるというのに特に見た目に変化はなさそう。
足も生えなかったって言うし。
ノワールがどうなるのか心配だ。
ベースがウルフだからそこから大きく外れることはないと思うのだけれど可愛くなく進化してしまったらどうしよう。
いや、それでもノワールはノワールに違いないのだからどんな姿であれ受け入れるつもりはある。
「進化っていうのは魔物の望みを叶える不思議な現象である」
「……んー、分からん」
「当然である。
魔物にとっても進化とは希少な現象で何なのかよく分からないのである」
進化を経験したシュシュでさえも進化というものが何であるのか完全に説明できる言葉を持ち得ない。
魔物にだけ見られる進化という現象。
魔物であってもその生涯に1度も経験もしないまま死んでいく魔物すら多い。
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