準備と襲撃5
まずは武器屋、と思っていたのだが。
「それ1つください」
「はいよ、鉄貨10枚だよ」
通る時はあまり意識もしていなかったが商店街の端付近には店舗を持たない出店が多い。
しかも軽く見た感じ食べ物系のお店がそれなりにあった。
つまり商店街に行く時、帰る時出店の食べ物の香りが鼻をくすぐり腹を刺激する。
城を出た時には朝だったのが宿でひと休みしたりギルドに行ったりしている間に日は高く昇り昼時になっていた。
そんな中で屋台形式で目の前で調理している料理の匂いを嗅がせられると忘れていた空腹も顔を出す。
幸いお金に余裕はある。
最初はどこかちゃんと食べられるお店を探そうと考えていたのに気づけば出店で料理を注文していた。
頼んだのはケバブのような薄く焼いた何かの生地でお肉を挟んだ料理。
歩きながら食べるのにもちょうど良い。
城の食堂の大衆料理とはまた違うジャンク的な食べ物。
少し心配していた味も普通に美味しい。
お店探しも見たところ大きく苦労はなさそうだ。
ギルドでもそうだったことから分かるように文字を書けない人もいて、そうなれば文字を読めない人も一定数存在する。
ガラス窓はこの世界にもあるけれど品質はピンキリで中があまり見えない程度の物もある。
図太い人間なら中に入って確認もできるだろう。
そうでない者なら窓から覗くか、他人に聞くかしかない。
それすらできなきゃ何も買えない。
だからだろう。
店の多くは店名の他に何の店なのか表す絵柄が描かれている。
店名の横だったり入り口上、別に小さい看板を下げているところもある。
それでも統一してあるわけではないようで服屋だろうが上だけ上下揃っていたり、高級な婦人服の店なのかドレス風の絵柄のところもあった。
基本は何となく分かる絵柄が多いが中には絵柄だけでは分からない店や絵柄を出していない店もあった。
いくつか見つけた武器屋も剣だったり槍だったりとそれぞれ特徴を出していた。
どの店に行ってみようか悩んだ結果、あえて武器屋の絵柄の看板を出していない店に入ってみることにした。
この誰にでも媚びて商売やるつもりはない!って感じが気に入ったのだ。
絵柄の看板すら出せないほど儲かっていないとも考えられるけれどそれなら多少安く買えるかもしれないとも心の隅でプラスに無理矢理思考を持っていく。
わずかに軋むドアを開けて入ると中は思いの外暗い。
ガラス窓はあるが品質が悪く濁っていて採光が悪い。
他に明かりをつけるつもりはないのかその窓明かりだけで店内は成り立っており、目が慣れるまでの時間を少しだけ必要とした。
慣れればなんてことはない明るさは確保されているのだが窓ぐらい開ければいいのにとは思わざるを得ない。
店員は奥のカウンターに座る老人が1人、おそらく店主。
ジロリとショウカイを見た限りいらっしゃいの一言も言わない。
これは失敗したかなと思いながらも武器に目をやるとおよそベーシックな剣が並んでいる。
当然素人なショウカイには武器の良し悪しは分からない。
「詳細鑑定」
分からないなら分かる方法を使えば良い。
店主に聞こえない小さい声で詳細鑑定のスキルを発動させる。
壁にかかった剣の情報が目の前に表示される。
『鉄の剣
ウィドリック・ベルフェア作
一般的な鉄で作られた一般的な剣
クラスF』
誰が作ったとか剣のクラスが分かるのは意外だった。
あまり使ったことがなかったので知らなかった。
誰が作ったのかどうして分かるのかとか誰がどうやって剣をランク分けしてるのか疑問が浮かぶが考えてもしょうがないことなのでショウカイはさっさと疑問を頭から追いやり剣を見ていく。
ほとんどの剣が一般的なものでクラスF、その上ウィドリック・ベルフェア作であった。
店の隅に置いてある樽に雑多に突っ込んである明らかにボロボロの剣はランクGであり、平均的品質がFであることがうかがえる。
出来るならランクは高い方がいいには決まっている。
それでもショウカイ自身そんなに武器をちゃんと扱えるかも分からないからいきなり高望みしても手に余る可能性もある。
良い品質の物はないかと一本一本見ていくけれど何本見てもFランクで特に差が出ないならランクFで適当な剣でいいかと思いながらふとナイフの方に目を向けた。
『鉄のナイフ
ウィドリック・ベルフェア作
鉄にわずかなミスリルを混ぜて造ったナイフ。ウィドリック・ベルフェアが最後に打った作品
ランクC』
見た目は他と変わりない変哲もないナイフ。
手に取ってみるとズッシリと重く柄が手に馴染むよう。
角度を変えてみたり光にさらしてみたりするもミスリル感は感じられない。
そもそもミスリルを見たことがないからミスリルがどんなものか分からない。
本当にわずかだから見た目に違いがないのか、ミスリルなるものが実はほとんど鉄と見た目が変わらないのか。
「おい」
「わっほい!」
「抜身のナイフ持って驚くんじゃねぇよ」
じろじろとナイフを見ている間に店主が音もなく後ろに立っていた。
恰幅の良い険しい顔したオッサンがいつのまにか後ろに立っていたら変な声もあげる。
「な、なんですか?」
あまりにも見ていたから万引きと疑われたのか。
確かに片っ端から剣をジッと眺めているだけでは怪しかったかもしれない。
「そいつ……」
店主がナイフを指差す。
「どうしてそいつを手にした」
「これですか? その、なんだか良いものに見えて……いや、素人だからあれなんですが、ちょっと他とは違うというか……」
鑑定スキルは希少で、かつ、他人のプライバシーを侵害する可能性がある。
気心の知れた仲間ならともかくたとえ凡庸なスキルでも何のスキルを持っているかはこの世界における重要な情報であり、他人に知られるわけにはいかない。
しどろもどろな返事。
詳細鑑定で他より良さげでしたとは言えないしどうにか誤魔化すしかない。
「素人? ほう……」
ジッと見られると悪いこともしていないのに悪いことでもして見透かされている気分になる。
「……この店に置いてある武器は俺の弟が打ったもんだ。今はもう弟の息子が跡を継いでるんだが、そのナイフはあいつが最後に打った代物でな」
ひとまず何か怒っているわけでも、万引きを疑われているわけでもなさそうである。
「俺の愛想が良くなくてな、あまり客も寄り付かん。
その中でそのありふれたように見えるナイフを手に取る奴なんて今までいなかった。
それを良いもんに見えるとは……お前さんには神がもたらした天賦の慧眼がありそうだな」
あごひげを撫でながら目を細めてショウカイを見定めるように眺める。
気まずくて微妙な愛想笑いを浮かべる。
「いえ、そんな」
「見たところお前さんの手にも馴染んでるじゃないか?」
「はあ……まあ確かに」
ナイフはまるで最初からショウカイに誂えたかのように手に吸い付いている。
不思議なものでこのナイフとは運命を感じる。
「ろくでもない奴が手に取ろうもんなら売るのは断るんだが、お前さんになら売ってもいい」
「…………」
それだけ言うと店主はまたカウンター奥に戻ってしまった。
まだ買うともなんとも言っていないのに買う雰囲気になっている。
こんな風に言われてしまっては断れないじゃないかとショウカイは思う。
ナイフも買うつもりはあったから良いナイフなら文句はないのだがなんだか納得いかないものが残る。
ナイフを買うなら剣も買ってしまおうと剣もまた見始めるが特に惹かれるものもランクが良いものもなかった。
合わせて適当に選んでカウンターに持っていく。
「剣とナイフで銅貨20枚だが、15枚に負けてやる」
ショウカイにはよく分からないがこのナイフを選んだことがよほど気に入ったらしく会計を少し負けてくれた。
さらにサービスで肩掛けで腰に剣が来る剣帯とナイフを差せるベルトも付けてもらった。
ナイフと剣で腰周りが多少ガチャガチャするけどしょうがない。
しばらく1人で旅をすることを考えると背中に荷物を背負う必要もある。
剣の上から背負っても差し支えはなさそうでも荷物で剣が押し付けられて背中に違和感を感じるのに慣れそうになかったのである。
その後防具屋によって手甲や胸当てなど動きの邪魔にならない防具を買い、道具屋で大きめのリュックや野営道具、必要なものと思われるものを揃えた。
本当はガチガチの鎧に身を包んで守りたいところなのだけど鎧は重く動きが阻害される。
全体に体力が足りていないショウカイには無用の長物であった。
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