卵を取り戻した
ソリアに不安な感じはあったけれど人形のような虚さが薄れて人っぽく見えるようになったから大丈夫だろうと思う。
長いこと出てこないソリアを不審に思った治安維持部隊の面々がちょうど会話の終わりかけの、ふらついたソリアを支えたまま会話をする様子を目撃していた。
だからソリアに春がきたなんて噂が立っていたのだがショウカイはそんなことも知らずにスーハッフルスを離れた。
「今回は少しだけマシだった……けど」
早くこんなところを離れたいというテラリアスナーズの希望でひとまずワダエに向かうことになった。
移動方法はのんびり徒歩でなんてとはいかない。
相変わらずのテラリアスナーズの背に乗っての爆走で移動である。
今回は前と違い巨大な卵が同席することになる。
配置としては卵とそれを支えるクマのマギナズとの間に挟まれるようにしてワダエまで耐え忍んだ。
卵のおかげで若干風は防がれていたが行きとは違う方向からくる風も中々キツかった。
卵のためか揺れは少しだけ緩かったのだけれどそれでも乗り物酔いのような気持ち悪さがある。
「大丈夫か?」
「うん……大丈夫だから下ろして……」
最初にテラリアスナーズとマギナズに会ったワダエ近郊の山岳地帯まで帰ってきた。
マギナズに抱えられてテラリアスナーズの背中から下りるショウカイは足がつかずプラプラとしている。
「マギナズ?」
「全部終わっちまったな」
テラリアスナーズはそっと背中から卵を下ろして話しかけている。
卵を取り戻して人間の街は救われた。
長いようで短い大冒険は目的を果たして終わりを迎えた。
寂しそうに聞こえるマギナズの声。
「ショウカイさん」
早く下ろしてくれないかなと思っているとテラリアスナーズが近づいてくる。
「私の子も無事取り戻すことが出来ましたし、あの子もショウカイさんに感謝しています」
「……あの状態でももう分かるんですか?」
「ちょっと前ぐらいからですがあの子の意思を感じられるようになりました。
その前からでも外の世界で何が起きていたのかは卵の中からでも分かっていたみたいです。
色々と見れて面白かった……なんて呑気なことを思っていたみたいです」
大物になりそうな気配を感じるな。
卵も実際結構巨大になっているし性格的にも大物っぽそう。
「あの子を助け出すことが出来たのはショウカイさんのおかげです。
最初はあまり期待していなかったのですがショウカイさんは最後まで私たちの期待も私たち自身も裏切ることなく助けてくださいました。
ありがとうございます」
テラリアスナーズが地面につきそうなほど頭を下げる。
終わったのだという実感が薄くぼんやりとした夢の中にいるような気分だった。
テラリアスナーズの言葉を聞いて現実に引き戻されてジワリと実感が胸の中に広がっていく。
「……実はあなたに従ってもいいのではという思いが胸のどこかあります」
「えっ?」
「何でしょうか、私にも分からないのですがこの気持ち。
きっとノワールさんやシズクさんがショウカイさんの側にいるのと何か関係があるのでしょうね」
ショウカイの職業はサモナーだ。
どう言った職業だったのか今まで分からなかったけれど少しずつその能力が分かってきた。
特にスキルとして表に出てくるものではないけれどテラリアスナーズの話を聞いてもしかしたらこの職業には魔物に対する交感能力があるのかもしれないとショウカイは思った。
良い印象を抱かせて、好感度が上がりやすくできる。
そうして一定の好感度を得られれば魔物に従いたいと思わせられる何かしらの能力。
推測にすぎない。
これまで魔物と交流しようなんてしてきた人はいないので他の人がどれぐらい魔物と仲良くできるのかも分からない。
変な能力。自分じゃ戦う能力は低く、魔物と交流を深めることに特化した職業だとしたら誰がそんなもの考えたのだ。
けれど悪くはない。
良い人も多いけど悪い人もいる。
魔物も良い魔物もいれば悪い魔物もいる。
多分こうして交流が出来る魔物は良い魔物が多い。
頭が良く、戦闘を避ける傾向にあるので話が通じる。
騙されることには気をつけなきゃいけないけどショウカイを殺そうとした王女様とか犯罪組織とかに比べればマギナズやテラリアスナーズはずっとずっと良い相手である。
「ですが私にはまだまだやることがあります。
子育てしなきゃいけませんし、森を守らなきゃいけません。
それにきっとこれを受け入れてしまってもショウカイさんが耐えられません」
幼体のアラクネのミクリャですらショウカイは限界だった。
巨大な力を持つアースドラゴンを従属させようとしたらショウカイの魔力は一瞬で枯渇して死んでしまうだろう。
「だからこのお誘いには乗ることが出来ません……が私は誇り高いアースドラゴンです。
受けた恩は忘れず、必ず返します。
今は何も持っていないので後で何か必ずお礼になることをしますので待っていてください」
「わかりました」
「……私も女王様と同じような思いがある。
だけど私も女王様と子供と森を守らなきゃいけないから、お前と行くことはできない。
でもどうだ、お前が森に来てくれるなら、私とツガイにしてやってもいいぞ」
「マギナズ……」
孤高の戦士マギナズ。
テラリアスナーズに次ぐ強さを誇る魔物で、あまりオスが好きでなく、また彼女に通ってくるオスもいなかった。
貧弱で触れれば壊れてしまいそうなオスだけど悪いやつじゃない。
力では解決できないことをショウカイは解決して見せてマギナズは感心していた。
上で寝られるという初めて体を許した相手でもあるのだしその気ならマギナズもなんて考えていた。
「マギナズ……嬉しいけど」
人と魔物、人とクマではちょっと厳しいものがある。
ツガイになったところでその先どうしたらいいのかもわからないし、人の世界を捨てるにはまだそこまで見限ってもいない。
「いや、いいんだ。
私も何か礼をしなきゃいけないな」
「そ、そうだね……まずは…………離し………………」
少しだけ力の入った腕にミシミシと体が音を立ててショウカイは息ができなくなった。
意識が遠のいていき、やはりマギナズとの夫婦生活は厳しそうだと思い知った。
人間の姿で四六時中いるなら……でもクマの姿も意外と可愛いから分からない。
モフモフ感は毛の柔らかいノワールに軍配が上がるが包み込まれるような感じは悪くないとショウカイは変態的な思考を成長させていたのであった。
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