迷い生じて2
目がうつろで何を考えているのか分からず、みていると不安になった。
「私は……私は魔物を倒す。
それだけがわたしの存在意義……
でも、ワカラナイ」
目の前にいるのが誰なのかショウカイにも分からなくなる。
短い付き合いだけどソリアの印象は凛としてして真面目な出来る女性なイメージだった。
今はか弱くて、震えていて、なのにどこを見ているのか分からない目をしていて、どことなく人形をショウカイに思わせた。
知っているソリアがどこかに行ってしまったような気すらした。
「何を信じたらいいのか」
パッと話して逃げるように帰るつもりだったのにソリアを放っておけない、放っておいてはいけない気がした。
目の奥で助けを求めてるように見えて仕方がないのだ。
「しっかりしてください!」
ソリアの肩を掴んで揺すってみるけれどソリアが正気を取り戻したような様子はない。
「……ソリアさんが信じたいものを信じたらいいんじゃないですか」
「私の……信じたいもの?」
「そうです。
今まで誰に言われて魔物は悪で倒さなきゃいけないものだと言われてきたのかは知りませんが今はもうあなたも大人でしょう?
自分で見て、自分で感じたものの中で自分が信じられるものを信じればいいじゃないですか」
少し前まで自分も魔物って怖くて人とは敵対するしかないものだと思っていた。
ノワールに会って、シュシュ、ミクリャ、ワチカミ、テラリアスナーズ、マギナズと色々な魔物にあって、常識は壊れた。
壊れたと言ってもそれについてマイナスなことはない。
むしろこれまでよりも世界が広がったと感じてすらいる。
ソリアに何があってこんなことになったのか全く分からない。
アドバイス出来るような経験も立場にもない。
とりあえず思ったことを口にした。
「でも、信じてたものは無くなった。
カリオロスは裏切り者で、魔物は全てが悪ではなかった……
私には今信じられるものがない……」
「少なくとも今回一緒に戦った治安維持部隊と冒険者の方々は信じられるんじゃないですか?
それに実際に見たこと、魔物がただ人を傷つけるだけじゃないってことも自分の目で見たんですから信じてもいい。
何かを信じることも大切ですけどその上で何をするか、どう考えるか、それが大事ですよ」
「何をするか、どう考えるか……」
「魔物にも良い魔物がいると知った上でもやはり多くの魔物は人に害をなすものですから悪としてもいいと思います。
でも人に害をなさない魔物もいると思っても別に悪いことじゃないでしょう?
全部が悪いとか、全部が良いとか極端に考えなくてもいいんです」
「私はどう考えたら……」
「今答えを出すこともないんですよ」
ほんの少し、ソリアの目に感情が戻ってきて、ショウカイの目を見る。
「ゆっくり考えたらいいんです。
悩んで、それでも答えは出ないかもしれません。
でもそれでもいいんです。
また信じられるものを見つけて答えを探すんです」
「……私はお前の言葉を信じていいのか?」
「……俺も説明しないで逃げることもウソをついて説明することもできました。
ソリアさんだから信じて、本当のことを話しました。
俺を信じるかどうかはソリアさん次第ですけど、信じてくれたら嬉しいですね」
「うれ、しい……」
すっかりソリアの体は震えが止まって虚ろだった瞳はただ不安げな感情を映すだけになっていた。
なんだか複雑な家庭環境にでもあったのだなとショウカイは思った。
自分が言った言葉がソリアにとって正しいものなのか自信がない。
良いアドバイスであると言える自信もなく少しの気恥ずかしさともっといい言葉があったのではと反省がじわりと胸を襲う。
「……ありがとう。
話を聞いてくれて……話をしてくれて。
まだ答えは出ないけど答えを探しにはいけそうだ」
弱々しく、ふわりと笑うソリア。
まだ出会って日の浅い青年で信じられるとは言えないはずの関係性の相手なのに、誠心誠意付き合ってくれていると感じられたソリアはショウカイを信じることにした。
全ての考えが根底から覆されたようなあの日の出来事。
少しずつでもいいから考えていこうとソリアは思うようになった。
この日以来、剣帝は変わったと言われた。
必要以上の人付き合いを避け、他人に興味を示さなかったソリアは少しだけ人に心を開くようになった。
言葉に表現もしにくい変化だった。
けれど日常の変化は剣帝の剣の腕をも変化させた。
固く無機質で見ている人も圧倒する戦い方だった剣がどことなく柔らかく、柔軟なものへと変容していた。
ほとんどの人が見てもそんなことは分からないだろう。
しかしソリアは新たなる高みへ一歩進んだのであった。
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