迷い生じて1
お祭りは終わった。
1番メインのイベントである武闘大会で剣帝が個人的な事情により棄権したことは皆が残念がった。
そしてお祭りの終わりと同時に3つの犯罪組織の壊滅と多くの貴族の逮捕が公表された。
スーハッフルスのものだけでなく、スーハッフルスを囲む3国、それ以外の国の貴族すらいた。
まさしく現場を押さえて逮捕したのだから言い訳もできず色々な国に激震が走った。
それを先導したのはソリア。
武闘大会にソリアが出なかった訳だと皆納得した。
大手柄。なのにソリアは元気がなく上の空であった。
その理由は現場に突入した人は分かっている。
何があったのかは誰も話さない。
口止めされたのでもないけれど人に話せる内容でなく、話したところで頭のおかしい奴だと思われるのがオチ。
「えーと、本当にここですか?」
話すと約束したのでショウカイは単独でソリアの元を訪れていた。
どこに行ったら会えるのか分からなかったので治安維持部隊の本部に行って聞いてみたらそこにソリアがいた。
ただソリアに連れてこられたのは本部建物ではなく、その横にある広い訓練用の建物だった。
机もイスもない体を動かせる訓練スペースの真ん中で先を歩いていたソリアは立ち止まり、意を決したようにショウカイの方に振り返った。
「あなたや彼女たちが何者で、あなたたちの目的が何なのか教えてくださいますね?」
「それはいいのですが……約束してほしいことがあります」
「何でしょうか」
「少しばかり協力してほしいんです」
「何をですか?」
あれだけの力を持っていて出来ないことの方が少ない。
何をさせられるんだとソリアは身構える。
「簡単なことです。
俺たちは目立つことを好みません。
今回は結果的に目立ってしまいましたけど、あんまり話題にされたくないんです。
だから誤魔化すのを手伝ってほしいんです」
「誤魔化すとは?」
「どうにか俺たち……というかテラリアスナーズの正体を強引にでも説明してほしいんです。
魔物ということではない説明で」
やはりテラリアスナーズは魔物だったのか。
信じがたい衝撃的な話。
まだ話の一端しか聞いていないけれどこの先を聞くのが怖くなってくる。
「それは全ての話を聞いてから判断しよう」
話の内容やもしくは無理矢理従わせようとするのであれば抵抗も辞さない。
ソリアはそっと手を剣にかける。
「それじゃあ全部話しますよ」
それなりに長い話になるのでイスぐらい欲しかったなと思いながらショウカイはテラリアスナーズとマギナズのことを話し始めた。
自分のことは魔物の言葉が分かる特殊な職業だと説明して押し切り、そのためにテラリアスナーズと出会って困っていることを聞いた。
人の町の町の滅亡すらやりかねないためにショウカイは人と魔物の間に立ってテラリアスナーズの手助けをすることに決めた。
テラリアスナーズやマギナズなどの上位の魔物は人に擬態することもできる。
そう言ったこともちゃんと説明してあげる。
「人に擬態できるだと!
そんなことって……それじゃあ我々はどうやって身を守ればいいんだ……」
全てを話し終えた時、ソリアは顔面蒼白だった。
これまでの常識が音を立てて崩れていくような気分がした。
魔物は悪で人に害をなし、常に討伐しなければいけない対象だと教え込まれてソリアは生きてきた。
人にも悪い者がいるのでそれも対峙することは当然として、魔物の事情も考えたこともなければ魔物が人に擬態できるなんてことも考えたことがなかった。
テラリアスナーズとマギナズは魔物でありながら協力してくれた。
目的があってそれが合致したからではあったけれど町中で暴れたりすることもなく、今回の犯罪組織の壊滅は2人の協力が無ければ不可能であった。
絶対的な境界。
ソリアの中にあった魔物と人を隔てる線がグニャリと歪んだ。
同時に魔物が人に化られるという事実がソリアに混乱をもたらした。
滅多に人に擬態できる魔物なんていないのであるけれどもしかしたら知らず知らずのうちに魔物と接触したり、町中に潜む魔物を見逃していたのかもしれない。
信頼してたカリオロスにも裏切られ、人に対する信頼も揺らいでいるソリアは闇の中にいるような気分になった。
今回の出来事について悪いのは人だった。
巨大な犯罪組織、金で人を裏切る信念のない者たち、雇われた犯罪者たち。
ソリアを救ったのは確と信念を持った治安維持部隊や冒険者たち、そして人に擬態した魔物だった。
何を信じて、何を疑えばいいのか分からない。
「おっと、大丈夫ですか?」
目の前がぼんやりとしてきて、ソリアの体がふらついた。
ショウカイがサッとソリアの体を支えると、ソリアは震えていた。
「…………私はどうしたらいいですか」
「どうしたらとは?」
「私は魔物は悪いもので倒すべき存在、そして人は守るべき存在だと教えてこられました。
でも、今回は人が悪くて、魔物が良いものでした。
私は……私はどうしたらいいのですか」
「大丈夫ですか……?」
「私は! どうしたら!」
縋り付くようなソリアの目からはおかしな印象を受ける。
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