準備と襲撃4
命を狙われる可能性のある身。
そうでなくても王女様はタクミの身バレを避けたがっているわけであるし、城の連中にはタクミの名前はバレている。
タクミとそのまま名乗って後々何か不都合が生じるのではないか。
そんな考えが一瞬にして頭の中を駆け巡る。
「……ショウカイ」
「ショウカイだな」
名前を変えようと思いついても実際どんな名前にするかなんて咄嗟には思いつかない。
捻り出したのが名前の読み方を変える方法である。
これならこの世界の人には分からないはずであるが、いささか名前として変だったかもしれない。
思いついたまま口に出た名前が記入されてしまった以上は後戻りもできない。
「職業は?」
「サモナー」
「サモナー……?」
受付の青年がタチの悪い冗談でも言われたみたいな顔をしてショウカイを見た。
やはりサモナーとはどこでも歓迎を受けない職業なのをショウカイは受付の青年の視線から感じる。
その後いくつか答えられない事項は空欄のままでも構わなく、登録は滞りなく終わり、冒険者証を受け取った。
プラスチックのカードに見えるが特殊な素材を魔法で生成したものだと受付の青年は教えてくれた。
冒険者はその実力やこなした依頼によってランク分けされていてショウカイは1番下のGランク。
コツコツ依頼をこなしていけばFぐらいまでならすぐに上がるらしい。
すぐに依頼を受けるつもりはないもののどういったものがあるのか興味はあるのでギルドの壁1面を使っている依頼掲示板を軽く覗いてみる。
依頼には貼り付けられた依頼を見てやればいい通常依頼と何枚か貼り付けられた依頼書を受付に持っていきギルドが許可を出した者だけが受けられる特別依頼がある。
中でもGランクが受けられるのは薬草の収集や低ランクの魔物の討伐の中でもさらに常設依頼と呼ばれる年中貼り出されているようなものだけである。
「コムグ草の採集……ゴブリン討伐……」
常設依頼の数もさほど多くはない。
最低ランクがGとなっている依頼は数えるほどしかない。
雑用とも思える依頼もいくつかあるものの低ランクの依頼は1人でもこなせそうな依頼が大半である。
何はともあれ今日は依頼を受けるつもりはないので細かい内容の確認は後日にして冒険者ギルドを後にする。
「お前新人なんだって?」
冒険者ギルドを出てすぐ、ショウカイの後ろに付いてくるようにギルドを出た連中にいきなり話しかけられた。
振り向くとそこには薄ら笑いを浮かべる細面の男とその取り巻きらしき連中。
「そうだけど何か?」
「いや〜、俺様はデディックって言うんだが、右も左も分からない哀れな新人を導いてやろうかと思ってな」
デディックはショウカイの肩に馴れ馴れしく手を回す。
どう見ても善良そうに見えないこの男がこのように近づいてくる理由はショウカイにもすぐに分かった。
「どうやら、ちょっとばかし金持ってるみたいだからぁ……ちょーと融通利かせてくれれば俺様がお前のことを守ってやろうじゃあないか」
金。
全員が全員受付とのやり取りを見ていなかったわけではない。
どうやらやり取りを見ていた目ざとい小悪党に目をつけられてしまったようだ。
要するに金を払えば手を出さないということだろう。
もしかしたら本当に多少の庇護ぐらいはあるかもしれないが品のない笑いを見るに酷く搾取されることはまず間違いない。
ギルド前の人目がつくところなのに構わず絡んでくるのはそれなりに権力があるのか、普段から素行が良くないのを周りも分かっているのか。
そのままギルド脇まで連れていかれる。
「残念だけど守ってもらう必要はないな」
「ほー?」
デディックの手に力が入り肩に指が食い込む。
痛みにショウカイの顔がゆがむ。
デディックの取り巻きがゆっくりと広がってショウカイを逃がさないように囲む。
「人の善意を無碍にするもんじゃあないぞ?」
「善意にお金がついて回るのか?」
「いやいやいや……俺たちは善意でお前を助けてやる。そしてお前は善意で金を差し出すんだよ」
融通を利かすとか言っていたのにあっという間に本音が漏れてきた。
そろそろ抵抗でもしなきゃいけないか。
「いいのか? 新人が1人襲われたところで気にする奴は……」
「何をしている」
「あっ?」
「何をしているのか聞いているのだ」
どうにも離してくれそうにない雰囲気が漂い始めた時、誰もが見て見ぬ振りをする中で1人の女性が声をかけた。
腰まである茶色い髪をなびかせ綺麗な顔立ちをしているが剣を腰に差し武装していてショウカイから見ても冒険者だと分かった。
その女性の横にももう1人女性がいるがこちらはすっぽりとフードを被り顔は窺えない。
鋭い眼光がデディックを捉えている。
取り巻きの1人がうろたえた様にデディックに耳打ちする。
「兄貴、まずいですよ……あいつらCランクですぜ」
「……チッ。何でもねぇよ! 新人にちょっとした挨拶を教えてやってたんだ」
デディックは盛大に舌打ちするとショウカイから手を離すとショウカイが行こうとしていた方向とは逆の方に取り巻きを連れて去っていった。
ショウカイからどう見えるかはさて置いてこの女性たちはデディックよりも強いらしい。
Cランクなら上から3つ目。
AからGまでの7段階あるので中堅上位相当の実力を認められていることになる。
デディックたちチンピラもどきがGランクということはないだろうがそんなにランクが高い感じもなかった。
引いたところを見るに少なくともCランク以下ではあるはずである。
「あいつらタチが悪いので有名なんだ。けがはなかったか?」
茶色髪の女性がデディック達が十分に離れたのを確認して話しかけてくる。
デディックをにらみつけて時と違い茶色髪の女性の目は優しい。
「ありません。助かりました、ありがとうございます」
「そうか。私はラン。Cランクの冒険者で隣のユルツや他にも何人かと『セギオン』というパーティーを組んでいる」
あの程度なら何とかなったとは思わなくもないけれど助けてくれたのは事実。
素直に頭を下げるとランはニカっと笑顔を浮かべる。
ユルツと紹介されたランの一歩斜め後ろに立つ女性はやや俯いた体勢のまま動かない。
「冒険者がみなああな訳ではない。あまり悪くは思わないでほしい」
「当然です。あなたのように助けてくれる人もいるんですから」
「ふふっ、思っていたよりショックを受けていなそうで何よりだ。何か依頼したいことがあれば是非ともセギオンの名を思い出してくれ」
「えっ、あの」
「ではな!」
それだけ言うと2人は冒険者ギルドの中に入っていってしまった。
ランにはショウカイは冒険者ではなく冒険者ギルドに依頼に来て絡まれた人に見えたらしい。
名乗る暇すら無かったのだから訂正することもできない。
「…………俺はそんなに冒険者に見えないだろうか。いや、見えないか」
視線を落として自分の格好を見る。
武装らしい武装をしていないからしょうがないのかもしれない。
サモナーは魔法使い寄りの職業とみられていて、ショウカイには鎧類は支給されず装備といえば防御力があるのかも怪しいローブと鈍器として使った方が強そうな杖のみだった。
今はそのどちらも付けておらず冒険者に見えなくても仕方はなかった。
身に着けていても着慣れていなくて冒険者には見えないかもしれない。
改めて自分の格好を思い出し、それらしい見た目というか多少の装備は必要だと思い至った。
一度宿に戻り必要な分のお金以外を部屋に隠したりしてから東にある商店街に向かった。
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