卵を取り戻せ2
「なんだ、あの女!」
うっすらと笑みを浮かべて剣を持つ男たちに素手でかかっていくマギナズ。
剣に比べて圧倒的なリーチの差があるのに誰もマギナズを傷つけられない。
一陣の風のように敵の間を動き回りながら敵を殴り倒していく。
よくよく見ると剣はマギナズに当たっているのだけれど傷つけられていないのである。
「あっちの女の魔法もヤバいぞ!」
テラリアスナーズは魔法で攻撃をしていた。
まるで楽器を指揮するかのように手を振ると水がテラリアスナーズの周りを渦巻き、敵が切り裂かれ、射抜かれる。
魔法使いだと接近しようとしてもその前にやられるか、テラリアスナーズの周りを渦巻く水に阻まれる。
頭数は男たちの方が圧倒的に多いのに2人の前では人数差なんて意味を成していない。
テラリアスナーズはショウカイのことも気にしてくれているのか危ない場面では水が守ってくれる。
「オラァ!」
最後の1人がマギナズに殴られて血を噴き出しながらぶっ飛んでいく。
状況を指揮する敵はいなかった。
リーダーのようなものがおらず情報が見込めないのでショウカイは2人を止めず最後まで戦闘を継続した。
途中不利を悟った何人かが逃げ出そうとしていたけれどテラリアスナーズの魔法から逃れることはできなかった。
しかし人数差があったために状況は限りなく悪かった。
「終わり……ましたね……」
残っていたのはショウカイ、テラリアスナーズ、マギナズ、それにカリオロスだけだった。
治安維持部隊の人たちは血みどろに倒れる男たちと一緒になっていてもはやどれが治安維持部隊の人たちの死体なのかも分からない。
「ここではなかったようですね。
怪我がないかの確認をして他の部隊と合流しましょうか」
4人で他の候補地に行くのは危険だ。
男たちが待ち受けていたことから調査していたことがバレていると見るのが通常の考えで他の部隊も襲われているかもしれない。
出来るなら早く合流するのがいい。
カリオロスの提案にみんながうなずく。
「マギナズさんは前線で戦っていたのでお怪我ないか入念に見たほうがいいですね。
女性相手ですので私が確認しますのでショウカイさんはあちらを向いていてください」
怪我なんかしているようには見えないけど万が一があるので確認だけはしておく。
マギナズは大人しくにカリオロスに見られている。
何かがおかしい。
その違和感の正体にカリオロスはすぐに気づいた。
マギナズは怪我どころか服すら傷ついていない。
いや、血すらついていない。
「……背中側を見せてください」
あれだけ派手に戦っていたのに血もついていない。
その奇妙さに不気味な印象を持ちながら背中を向けたマギナズにカリオロスは剣を突き立てた。
「……何しやがる」
しかし剣は刺さらなかった。
カリオロスはBランク冒険者。
剣に魔力をまとい、強化して戦う術を持っていて固い魔物でも簡単に切り裂いてきた。
服にすら穴が開かない。
「な……っ!」
驚愕するカリオロス。
平然と振り返ってみせたマギナズと目が合った。
逃げるべきだと頭では思ったのだが体がついてこなかった。
その時にはすでにマギナズの拳がカリオロスの腹にめり込んでいたからである。
骨が砕ける音が聞こえる。
視線がマギナズの背よりも高くなって自分が空中に投げ出されていることが分かった。
カリオロスは全く動くこともできずに地面に激突する。
ビシャリと音を立てて着地の衝撃で血溜まりの血が跳ね上がる。
調査の途中で起きた問題。
それは裏切り者がいることが判明したのである。
治安維持部隊の中にも犯罪組織に買収された者やそもそも潜入目的で入ってきた者がいた。
治安維持部隊が雇った冒険者の中にも金に釣られて情報を横流ししたり調査を撹乱している者がいることが分かった。
カリオロスもその1人だった。
ソリアとは昔組んでいた仲でソリアが信頼を置いている、正義感のある冒険者だったカリオロス。
ソリアは秘密裏に進めた裏切り者の内偵の報告を聞いてそれがウソであってほしいと願った。
自分が相手では尻尾を出してこないかもしれない。
かといって他の人に任せると裏切り者だった時に被害が出るかもしれない。
そこでソリアは事情を伝えて、圧倒的な強さを誇るマギナズとテラリアスナーズなら大丈夫だろうとカリオロスと組ませた。
全滅した治安維持部隊も何人かはカリオロスが手をかけていた。
信頼して共に戦う仲間が後ろから刺してくる。
対応できるわけもなく、また気づけなかった人すらもいた。
マギナズとテラリアスナーズの活躍を見てカリオロスはマズイと思った。
手練れの冒険者だとソリアから聞いていたが予想をはるかに超える強さをしていた。
ここで1人は消しておかなきゃいけない。
怪我を見ることを口実にしてカリオロスはマギナズの後ろを取って殺そうとした。
「ぐ……ふっ」
喉から血が上がってきて口から溢れてくる。
起きた出来事は単純なのに何があってこんなことになったのか理解ができなかった。
強い相手なのは分かっていたから手を抜きはしなかったのに。
近づいてきたマギナズが冷たくカリオロスを見下ろす。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。