オークションの裏で7
「ふーん、行ってみようぜ」
「えっ?」
「なんだよ、ダメなのか?」
剣帝と呼ばれるほどの冒険者なのだ、もしかしたら2人が人間に擬態している事がバレてしまうかもしれない。
心配するショウカイをよそにマギナズはさっさと人が向かう方に歩き出してしまう。
テラリアスナーズも普通にマギナズに付いていってしまったので仕方なくショウカイも後を追う。
「何も見えないな」
剣帝がいると思われるところはすでに人だかりになっていて、前が見えない。
「抱きかかえてやろうか?」
「遠慮しておきます……」
「ただまあ誰もいないぜ」
背の高いマギナズには人の向こう側が見えている。
マギナズに抱きかかえられれば向こう側が見えるだろうけどショウカイだっていい歳の男なのだ。
ちょっと抱きかかえられてみたい気もするけどちっぽけでもプライドがある。
あと人が多すぎて恥ずかしい。
「おっ、誰か来たぞ。
へぇ、あの女がけんてーって奴なのか?」
見えているのはマギナズだけなのでショウカイには分からない。
マギナズの言葉によれば見える剣帝は女性の方らしい。
勝手に男だと思っていたが女性の冒険者も結構いるから女性でもなんら不思議なことはなかった。
「おっ、こっち来るぞ」
「すいません、退けてください。
ちょっとそこのお姉さん、いいですか?」
通るなら道を空けようかと言おうとした。
人の波が割れて向こう側の視界が開ける。
みんなの視線がマギナズに集中する。
「私?」
「お時間いいですか?」
人の波が割れた先にいたのは若い女性だった。
腰まである長い黒髪を揺らしてマギナズに近づいてくる。
何かしたかとマギナズが焦るが見ていただけでマギナズは何もしていない。
「私はソリア。剣帝と呼ばれている冒険者です。
もしお時間よろしいようでしたら…………そちらの方もお仲間ですか?」
ソリアの視線がマギナズからテラリアスナーズに移る。
ショウカイのことは視界にうつっていないようで明らかに魔物の2人に注目している。
「一体何の用だよ?」
「えっと……?」
バレたなんて微塵も考えないマギナズは普通に答えるけれどマギナズが発している言葉は魔物の言葉。
訳もわからない言葉をイコールで魔物の言葉なんて思う人はいないけれど聞きなれない言葉だろう。
マギナズの言葉にソリアがあっけに取られる。
まさか言葉が通じないなんて夢にも思わなかった。
「ダメよマギナズ、私たちの言葉は通じないわよ」
「ああ……そうでしたね。
おい、ショウカイ、ちゃんと伝えろ」
そういえば思ってみれば言葉通じないんだから女王様とか人間とか呼んでても構わなかったのでは?
あまりにも何も思わずに会話している時間が長くて魔物の言葉を話していることを忘れていた。
「何の用ですかって言ってます」
マギナズとテラリアスナーズが知らない言葉で会話していてソリアは困った様子をしていた。
魔物と分かったような態度には見えない。
ショウカイが通訳してやるとようやくソリアはショウカイもいたことに気づいた。
「あっ……ええと、言葉って」
困惑するソリアは普通の女性で剣帝と呼ばれているのが信じられないほど。
「言葉は分かっていますがこちらの言葉は話せなくて……」
2人があたかも外国の人であるかのように話す。
「そ、そうですか。
お時間があればで構わないのですが少しお話をさせていただきたくて……」
「その話の内容ここでは話せないものですか?」
「ええ、ちょっと……」
どうする?という視線をテラリアスナーズとマギナズに向ける。
魔物とバレた訳じゃないけど何か話したい事がある。
時間的な余裕があるわけではないから2人が嫌がるなら断るつもりだ
個人的にはどうして剣帝が話しかけてきたのか気になるところではあるが。
「私はお前の判断に任せる」
「そうね、ショウカイさんが好きにしたらいいわ」
「お2人はなんと……?」
「えーと、話を聞くだけなら、と」
結局判断の決定権はショウカイに返ってきた。
ならば話を聞こう。
聞くべきだとショウカイの勘が告げている。
それに周りの目があって断るなんてとても出来そうになかった。
ーーーーー
町の中心部にもほど近い超がつくほどの高級宿の1階に併設された高級レストラン。
剣帝の一声でレストランは貸切状態になった。
昼時も過ぎていたこともあるけど高名なSランク冒険者ともなると影響力も凄まじいものがある。
「もし食事がまだだったら好きに頼んでくれて構わない」
「やった!
…………なあ、何でもいいから肉、頼んでくんね?」
ソリアの言葉を受けて嬉しそうにメニューを開いたマギナズ。
言葉を聞き取ることはできる。
しかし話すことも出来なければ、読むことも出来なかった。
当然メニューには人の言葉しか書いていないのでマギナズはメニューが読む事ができなかった。
悲しそうにメニューを閉じてショウカイに渡す。
「何かお気に召しませんでしたか?」
「いやそうではなくて……オススメの肉料理とかありますか?」
「ああ、読めなかったんですね」
マギナズの態度に何か不満があったのか不安げだった。
ただメニューが読めなかっただけと特に問題がなくて胸を撫で下ろす。
剣帝は思っていたよりもコロコロと表情の変わる人だった。
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