オークションの裏で5
マギナズの時のように勝手しないことを念押ししてスーハッフルスに向かう。
ノワールが恨めしそうな目で見ていたがオオカミ100%の見た目では連れて行けないんだ。
「姉だぁ?」
「はい、この町のお祭りに来てみたいというので」
「ふーん……」
「うふふっ、お疲れ様です」
「あっ、はい、どうも……」
顔を赤くして兵士がテラリアスナーズに頭を下げる。
魔物の言葉なので意味は分かっていないが手を振るテラリアスナーズに悪意がないことは伝わる。
「どうぞお通りください。
あっ、君はちょっと待って」
「えっとなんでしょう?」
呼び止められて少しだけ慌てる。
「あの、君のお姉さん……恋人とかいる?」
「……あっと、います」
「そっか、そうだよな、あんな美人……」
落ち込んだ様子の兵士を置いて町の中に入る。
テラリアスナーズの夫の話を聞いたことはないけど子供がいるなら相手もいるはずだ。
「なんだって?」
「いえ、ちょっとだけ聞かれただけです」
「ふーん」
ともあれスーハッフルスにマギナズとテラリアスナーズは進入成功した。
とりあえず宿に向かうことにする。
『ノワールが寂しがっています!』
ノワールを早く呼んでやらないと表示で前が見えなくなりそうだ。
心なしか表示もノワールの心を反映するかのように大きく出ている気がする。
宿は4人部屋を取っているので問題はない。
宿の店員に遅れて合流したのだと説明するとむしろ腑に落ちたような顔をしていた。
慌てて大部屋を取った変な客だったのが連れがいたことが分かった。
関係性まで説明はしなかったけれど美人2人を連れていれば安宿に泊まるわけにもいかない。
手を振るテラリアスナーズに店員はデレデレと手を振りかえしているしバレる心配はなさそうだ。
「これこれー、はぁ〜草の上でなんかもう寝らんねぇぜ」
部屋に入ってすぐにマギナズはベッドにダイブする。
「うっわー前よりもいいなこれ」
「マギナズ?」
「はっ……こ、これは違いまして、姉貴……」
「あなた人間の宿なんか泊まれたものじゃないなんて言ってませんでした?」
「それは……その、言ってました?」
「マ〜ギ〜ナ〜ズ〜?」
「は、ははっ、姉貴も寝てみてくださいよ!
ささ、とりあえず寝る転がるだけでいいんで」
「はぁ……ほんとにこの子は……」
マギナズはショウカイがワダエで奔走している間もずっとベッドの上にいた。
固い地面の上とは違う寝るための道具にマギナズは心奪われた。
楽しんでいたことがバレてはいけないとテラリアスナーズに聞かれた時にマギナズは咄嗟にウソをついた。
人の町に行くのはもう2度とごめんだぐらいまで貶めてテラリアスナーズに伝えていたのだ。
真っ先にベッドに倒れ込むマギナズを見てテラリアスナーズはそれがウソだったことに気づいた。
そう言えば不満があるにしては口数が少なかった。
「あら、あら……」
ベッドの上で横になるテラリアスナーズ。
高級宿なのでベッドの質も高く包み込まれるような感触にテラリアスナーズは驚いていた。
(ここのところ走り通して疲れているからかしら。
なんだかとても眠くなってきてしまいました……)
地面で寝ていて不満に思ったことなど一度もなかったのに、そんなところで寝ていたことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
ずっと卵のことを追っていて内心では気を張り続けていたテラリアスナーズはお布団の魔力に飲み込まれてしまい、スッと目を閉じて寝息を立て始めた。
「セーフ……」
怒られを回避してマギナズがかいてもいない汗を拭う。
「結果として、女王様も少しは休めるしよかったんじゃねえか」
確かにそうなのかもしれないがどことなく釈然としない気持ちを抱えながらショウカイはノワールとシズクを呼んだ。
「ほぇーそんなこともできんのか」
マギナズが驚いたような声を出す。
ワダエでもやっていたはずなのに、ベッドに夢中だったのか記憶に残っていなかった。
お馴染みのベロベロ攻撃を受けた後、ショウカイはお昼を買ってきた。
お祭り前でも人でごった返しているのですでに屋台を出しているようなところがあり、色々と持ち帰ってきた。
「相変わらず人間の作る食べ物は美味いであるなー!」
例によって生肉も買ってきておいてあるのだが調理済みの方が美味しいのか、みな買ってきた料理しか食べない。
かなり多めに買ってきて正解だった。
テラリアスナーズの分も残しつつ食事を一通り終えたショウカイはパンフレットを開いた。
食事を買い出ししている途中に貰ったお祭りの内容が書かれたパンフレットだった。
普通にどこでどんな屋台があるかの紹介や催し物の説明などが書かれている。
演劇や武道大会、ミスコンのようなものもあり、数日にわたってお祭りは開催される。
表のオークションは最終日の3日前に開催される。
オークションが終わると武道大会が開かれるようで、武道大会が1番のイベントでオークションは2番手のイベントのようであった。
お祭りの期限としてはおよそ7日。
それを過ぎたらきっと卵はどこか移動して行方を追うことは難しくなる。
これがスーハッフルスの破滅へのカウントダウンになるかもしれない。
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