ワダエを救え5
一応ヤンがいつ出てきてもいいようにジッと建物からは目を離さない。
待っていると程なくしてシュシュが帰ってきた。
「ちょうど見てしまったである」
「何を?」
「あの建物には地下に降りる隠し階段があるである。
あの男はそれを降りていったである」
ビンゴ。
この寂れた建物がきっとスパルタスの秘密の拠点に違いない。
「……逃げ道はなさそうだしあのクマ呼んできたらどうである?」
地下だと窓もないので正面突破しなきゃいけない可能性が高い。
隠し階段があると聞いても動かないショウカイの心中をシュシュは正確に看破した。
というかショウカイと2人だけで侵入するのは危険だとシュシュも思っていた。
もしショウカイに何かあったらワチカミのところに戻れないだろうし、安全策をとる方が絶対に良かった。
無言でうなずいたショウカイは一度宿に戻ってマギナズを連れてきた。
ちょっと小さいけれどショウカイのクロークを貸してフードをかぶってもらい、黙ってついてきてもらった。
シュシュによると中に見張りなどの人はいない。
こっそりと建物に入ってみると誰もいないのに明かりのついたランプが床に置いてあり、移動には困らなくなっていた。
案内をシュシュに頼んで建物の奥に進むとそこは小部屋だった。
何もない殺風景な部屋。
泥棒だって漁るものもない。
もしシュシュがいなかったら絶対に気づかなかっただろう。
部屋の隅にある小さい穴。
指を押し込むと中が押されてカチリと音がする。
「妙なところで手先が器用だよな、人間って」
小部屋の真ん中の床が開いて階段が現れる。
魔物じゃ思いつきもしない仕掛けにマギナズが感心する。
何かあったら怖いのでマギナズに先に行ってもらう。
見た目は女性だがショウカイよりも遥かに強いので仮に罠があってもマギナズには通用しないだろう。
「たく、いつまでこんなところにいりゃいいんだよ」
「お前がドジ踏んでバレなきゃ今頃俺たち他の国で贅沢してるんだよ!」
「なんだと! バレたのはテメエの方じゃねえか」
階段を降りてきたら声が聞こえてきた。
「うるさい。
アレは今上の方で鑑定中だ。
同時に買い主も探しているからもう少し待っていろ」
「へいへい。
せめてもっとマシな飯は出ねえのか?」
「後で贅沢できるんだろ?
これぐらい我慢しろ」
階段を降りた先には開け放たれたドア。
そっと中を覗き込むと数人の男たちとヤンがいた。
「アイツだ……」
「えっ?」
「あの男が卵を盗んだ犯人だ」
背中がぞわりとする。
マギナズから漏れ出る殺気のせいだ。
「なあ、やっちまっていいか?」
「ダメだ」
「どうし……」
「シー! 声が大きい!
殺すのはダメってこと。
卵のありかを聞かなきゃなんないだろ?」
卵のことを思い出してマギナズが冷静になる。
ここに卵があるとは限らない。
何人かいるのでたまたま死に至ってしまう人がいても大丈夫だけど全員死んでしまったらまたゼロからのやり直しになってしまう。
「やってもいいから手加減して、出来るだけ殺さないで。
分かった?」
コクリとマギナズがうなずく。
とりあえずマギナズを信じることにして行かせてみる。
「なんだこの女……」
「デケェな、まさかお前が用意してくれ……」
「何しやがる!」
「おい、こいつ何者だ」
「誰かこの女を止めろ!」
「人が一発で……」
「た、助け…………」
響き渡る鈍い音と断末魔の悲鳴。
マギナズが手加減出来ていると信じたいけれど段々と少なくなっていく声に部屋の中を覗き込むのが怖くなってきた。
「終わったぞ」
ポタリと手から血を垂らしているマギナズ。
それは彼女の血ではない。
貸したクロークは返り血で赤く染まっている。
もう着ることは出来ないだろう。
「ううっ……」
殺してはいないのかもしれないけれどひどいものだ。
鼻が完全に潰れたような人や手足があらぬ方向に曲がっている人もいる。
「お、お前ら、一体な何者だ……」
1番軽症の男が痛みに脂汗をかきながらこうなった原因を探る。
「俺はお前らが盗んだ卵を探しにきたんだ」
「卵だと?
何のことだか……」
「マギナズ」
マギナズが擬態スキルを解いてクマの姿に戻る。
あっという間に男の顔から血の気が引いていき、マギナズの化け物じみた強さの原因を理解する。
「ま、魔物がどうやってこんなところに……そいつさっきまで女だっただろうが!」
「そんなことどうでもいいだろ?
いいか、質問するのは俺たちだ」
「なんだと? 何が言いたい?」
「俺たちの目的は卵だと言ったろう。
他のことに答えるつもりはないしお前の戯言に付き合っている暇はない。
答えたくないならそう言え。
お前の代わりはまだいくらでもいる」
マギナズの魔力と殺気に当てられて男が無意識に後ずさる。
「た、卵だな、ここにはない。
他のところにあるんだ」
「どこだ?」
「それは……俺は知らないんだ。
ウソじゃない、鑑定するとかで上の連中が持って行っちゃって…………」
「知っている奴は?」
「え、ええと、それは、あっ、あいつ、ヤンなら知っている奴の居場所を知ってるはずだ!」
「じゃあお前は知らないんだな?」
「そうだけど、でもちゃんと質問には答えたろ!」
「別に質問に答えたら生かすとか一言も言ってないだろ?」
男の目に絶望が写る。
スパルタスは犯罪者組織である。
つまりこの男も大なり小なり犯罪を犯している。
卵を盗んだこともそうだし、きっともっといろいろやっている。
裁きを下すのは神様でもショウカイでもない。
「好きにしていいぞ」
マギナズの怒りは痛めつけたぐらいじゃ収まらないはずだ。
後ろから聞こえる悲鳴に耳を傾けないようにして、ショウカイはヤンと思われる男の元に行った。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。