ワダエを救え4
「おうっ、帰ってきたか」
マギナズは宿のベッドでダラダラしていた。
ショウカイが頼んで宿に大人しくいてもらったのだ。
何も考えずに戦力になるかもとマギナズを連れてきたのだけれど間違いだった。
まずマギナズは目立つ。
高身長で顔も強気な性格が出ているけど美人。
立っているだけで人の目を引いてしまっていた。
次に言葉。
普通に話しているから忘れがちだがマギナズは人の言葉を話していない。
話せもしないのである。
目立つマギナズをナンパなんてしようとした人もいたのだがマギナズの言葉が分からずに困惑していた。
まさか魔物の言葉なんて思わずに褐色肌なので異国美人的な扱いっぽかったけど何が原因でバレるか分かったもんじゃない。
最後に態度である。
マギナズを見ていたら分かるけど基本的に人嫌い。
特にオスはイヤなようでナンパしてきた男を殴り殺す寸前だった。
少し離れていたショウカイが気づかなきゃあたりは血の海だったかもしれない。
なのでマギナズはどうしても武力介入が必要そうでない限り待機してもらうことになった。
「何か分かったか?」
「まだ分かってはいませんがヒントになりそうな人はいました」
帰ってきたのは進歩報告のためではない。
ショウカイは起き上がりもしないマギナズには目もくれず自分の荷物を漁る。
「なあなあ、私も一緒に……」
「ダメです」
「待ってるだけってのは暇だし性に合わねぇんだよ」
「もう最初の最初で暴れかけたじゃないですか」
「だってありゃよ、あいつ前足に口付けやがったんだぜ!
体に触らせるのは一生を誓い合ったつがいだけって……なんだテメェ、その顔はよ?
女王様もんな顔してたけど」
意外と乙女チックな考えをお持ちで。
相手の男からすると挨拶程度のつもりで手の甲にキスをしたのだろう。
それによってマギナズは男に殴りかかろうとしたのだ。
とんでもない話だ。
大人しくしていたとしてもだ、立ってるだけで目立ってしまうのでどの道連れてはいけない。
「とりあえずもうちょっと大人しくしていてください」
カフェに行くぐらいなら連れて行っても良かったかな。
「ちぇー、分かったよ、ここはお前に任せると決めたからな。
でも早くしないと我慢できなくなっちゃうぞ」
「はいはい」
ショウカイは宿を出るともう一度カフェに向かった。
今度は店内には入らず外から観察する。
もちろんただ眺めているだけでは怪しまれてしまうので例のマントを持ってきていた。
魔力を込めると魔法が発動する感覚に包まれる。
殺し屋の口を割らせるのは難しいと考えたショウカイはまず観察して、尾行することから始めた。
残された時間は少ないけれど下手に手を出してにげられたり、察されたりしてしまえば終わりになる。
お宝を持ってきた奴らが気に入らないという事はその奴らにあったか、そうした話をどこかで聞いたはず。
カフェに誰かスパルタスのメンバーが来るか、ヤンがスパルタスのアジトに行くのかは分からないけれど接触はどこかである。
マギナズはただ待ってるのは暇だと言ったが、結局付いてきても待っているのに変わりはなかった。
目立っちゃダメなので張り込みにはマギナズは連れてこないけど。
ワダエの人たちの命がかかっているんだ。
そう時々思うことで退屈な張り込みに耐える。
カフェの中で長々と過ごしたマダムが1人店から出てきた。
「偵察完了である」
離れて見ていたショウカイだから分かった。
ドアを開けて出てくるマダムの足元からサッとシュシュも一緒に出てきていたことを。
最初にカフェに潜入した時にショウカイはこっそりとシュシュを置いてきていた。
心配だったけれど店の奥まで探すにはシュシュにどうにかしてもらうしかないと思った。
張り込みで誰か来ないかと待っていたこともあったけどシュシュを待っていたということもあったのだ。
「どうだった?」
「一通り見たであるが怪しいところはないであるな。
地下への入り口とか秘密の壁の入り口とかそういうのもなさそうである」
「そっか……」
やはり単なる表向きの場所で本拠地は他にある。
もうこの際我慢比べである。
当然ながらカフェには閉店時間がある。
高級店でもないので日が落ちてくると経営は難しく、店は閉められる。
ヤンも店を閉じて出てくると何事もなく歩き始める。
気配に敏感であろう殺し屋を追いかけるなんて普段なら自殺行為だけどマントの効果で気配は消えているのでよほどのことがなければ見つからない。
ヤンは人の多い通りはあまり通らず段々と人気のないところに向かっていた。
見られると見つかる可能性があるので距離を空けてちゃんと隠れるようにしながら追跡していく。
通りの人が減るたびに少しずつ緊張が高まっていく。
「ワタクシが先に行くである」
「ああ、頼むぞ」
ヤンはとある寂れた建物の中に入っていった。
何かのお店とかそんなものではない。
町外れの、人が住まなくなってしばらく放置されていたような建物だった。
中に何があるか分からず危険なのでシュシュが自ら率先して様子を見にいってくれた。
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