ワダエを救え3
とんでもないことを言ってしまった自覚はある。
ジッとテラリアスナーズの目がショウカイを見つめる。
射抜かれるような視線だけど不思議と怖さのようなものは感じない。
「いいでしょう、チャンスをあげます」
「ほ、本当ですか!」
「ただし、期限は5日。
それを過ぎたら私はどうなってしまってもかまわなくなってしまうと思ってください」
5日。それが十分な時間であるのかどうか分からない。
ワダエ滅亡のカウントダウンと思うと非常に短く感じられる。
本当に探せるか不安になってきた。
「マギナズ」
「はい」
マギナズの体が発光し、小さくなっていく。
巨大なクマの姿をしていたマギナズはあっという間に人間の形になってしまった。
「服を、着てください!」
サッと視線を逸らす。
ワチカミの時もそうだったのだが人間の姿に擬態したマギナズも服を着ていなかった。
「あ? そういえばお前たちはそんな面倒なもん身に付けてんな。
これでいいか?」
マギナズがパチンと指を鳴らすと一瞬でマギナズが服に身を包む。
これも一つの擬態スキルの応用であった。
身長の高い体つきのいい褐色肌の女性。
それがマギナズの人間の姿だった。
ボディービルダーとはいかなくてもかなり筋肉質な体をしていて何となくイメージ通りな感じ。
「あんまり良くありません」
しかし今は真っ白なドレス。
似合ってないとは言わないけれどこれで結婚式に行ったらぶっ飛ばされるぐらいの格好である。
いかにファンタジーな世界観でもこのようなドレスを着ている人を見た事は未だにない。
その後何回か紆余曲折を経てようやく普通に見える格好に辿り着いた。
人間的常識がないと思っていたワチカミの方がまだ人間的常識があった。
「私それまでここにいましょう。
何か分かったり卵を取り戻せたら教えてください」
「はい、分かりました」
「見つけられなかったら、分かってんだろうな?」
「……はい」
こうしてワダエの市民の命はショウカイに意図せず託されることになってしまったのであった。
ーーーーー
「じゃじゃーん!
呼ばれたであーる!」
町中ではノワールやシズクは出せない。
1人ではどうしても厳しい側面があるので助っ人を呼んだ。
ノワールにひとっ走りしてもらってワチカミの森からシュシュを連れてきてもらった。
町中も連れて歩けるし小さくて隠密活動も出来る。
戦闘能力はあまり高くないけどクモの糸で相手を妨害することもできる。
「ショウカイ様には返しても返しきれない恩があるである。
困っているアースドラゴンもいるであるしもちろん協力するである」
事情を話すとシュシュは二つ返事で協力を引き受けてくれた。
そういうことでショウカイとシュシュはとあるカフェを訪れていた。
なぜカフェになんか訪れているのかというと、もちろんオシャレにお茶しに来たのではない。
詳細鑑定でより知りたいことに注目すると知れることが分かったショウカイは男がどこに向かっていたのかを意識してもう一度詳細鑑定をした。
それによると男は最終的にここに向かっていたらしい。
目的は男も知らなかったので詳細鑑定でも分からなかったが生きていたら仲間との合流地点がカフェだったのだ。
「いくぞ、シュシュ」
「任せるである」
まだ何をするかも決まっていないので任せようもない。
けれどやる気は伝わってくるので何かあったらシュシュを頼ることにして、ゆっくりとカフェのドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
来客を知らせるドアベルが鳴り感じの良い細い目をした青年が奥から顔を覗かせる。
落ち着いた雰囲気のカフェ。
席に座ると目の前にメニューが置かれる。
「その角パンのシロップがけ美味そうであるな」
メニューの中身は割と豊富で悪いことに使われそうな隠語的なメニューもない。
近くにあったら通ってもいいと思えるような優良店。
店内には普通にマダムのようなお客もいる。
詳細鑑定で名前がでなきゃ来ることもなかった。
お昼も兼ねて適当に注文をして店内を見回す。
見れば見るほどいいお店。
「詳細鑑定」
『ヤン
性別:男
スパルタス所属の殺し屋。
仕事のない時はこうしてカフェに扮したアジトで働いている。
お客が来るたびにどうやって殺すのがいいか考える異常者。
最近お宝を持ってきたという連中が気に食わない。』
ただ詳細鑑定によると間違いではなかった。
感じの良いと思っていたカフェの雰囲気が一変した気がした。
何も変わらないのだけど店員がヤバい奴だと知っただけで店内の気温が下がったような気すらしてくる。
この『最近お宝を持ってきた連中』というのがテラリアスナーズの卵を持ってきた奴らではないかとショウカイは読んでいる。
注文した品物が来るまでの間に手持ち無沙汰だったので詳細鑑定してしまったがやめておけばよかったと思った。
「これ、うんまいであるな」
出てきた料理は意外とクオリティが高くシュシュは美味しいと言って食べていた。
しかしショウカイは店の奥に殺し屋がいる状況に味を感じている場合では無くなってしまったのであった。
店員が殺し屋じゃなきゃ是非とももう一度行きたいカフェを後にして宿に戻る。
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