思わぬ出会い5
納得がいかずに声を荒らげるクマ。
「その人間は卵を盗んだ一味ではないでしょう」
「何故ですか!」
「魔物を連れて魔物の言葉を理解しています。
そのような人間は初めてですが魔物を連れた人間が我々の敵なわけがないでしょう。
その人間をこちらに」
「命拾いをしたな」
「うわっ!」
クマは爪をショウカイの服に引っ掛けて軽々とショウカイを持ち上げる。
緩やかな斜面を下りてショウカイは運ばれていく。
プラプラと空中に持ち上げられていたショウカイはアースドラゴンの前に投げ落とされた。
「マギナズ!
失礼いたしました。
私はテラリアスナーズです。
どうして私のことを覗いていたのですか?」
「寝ようとしたら泣き声が聞こえてきたから気になって眠れなくなったから声の主を探していたんです」
お尻をさすりながらショウカイは素直に答える。
後ろのマギナズというクマも怖いしとてもじゃないけど反骨心を見せる場合では無い。
ノワールやシズクのことも心配だし、さっさと答える。
「1つお聞きしますが、あなた本当に人間ですか?」
「俺ですか? 正真正銘の人間ですが?」
予想もしていなかった質問に面食らった顔をするショウカイ。
このテラリアスナーズにはショウカイが人以外のものに見えているのか。
首をもたげてじっとショウカイを観察するように見ている。
「魔物を連れ、魔物と話す人間なんて聞いたことがありません。
今も人間の言葉なんて話していないのにあなたは普通に理解して言葉を返していますね」
「そうですね、分かっています」
「てっきり魔物かとも思ったのですがそれにしてもウルフやスライムを連れている。
魔物にしても人間にしても不思議です。
まあいいでしょう。
誰にでも秘密はあるものですし。
今回のことは私が安眠を妨害してしまったようで申し訳ありません」
知性が高く理性的。話が分からない相手じゃなくて助かった。
「あなたが攻撃してしまったものたちを連れてきなさい」
マギナズというクマはテラリアスナーズに逆らえないようで、ショウカイとテラリアスナーズを2人きりにすることに不満がありそうな目をしながら命令に従った。
「申し訳ありません、人間。
こんなことをするつもりもなく、こんなことになるなんて露ほども思いませんでした」
自分の卵追いかけて途絶えた痕跡のそばに自分を監視するような怪しい人間が誰でも疑うものである。
「ノワール、シズク!
……ノワール!」
シズクは物理攻撃無効のおかげでいつも通りに元気そう。
しかしノワールはグッタリとして動かない。
最悪の事態は避けられたけれどほとんど最悪の事態と状態が変わらない。
浅く呼吸を繰り返して目も開けない。
ショウカイの声にすら反応しないことがノワールの状態の悪さを物語っている。
「ああ、なんてこと……」
「そいつが弱っちいのが悪い」
「マギナズ!」
一瞬とんでもなく重たい魔力を感じた。
その瞬間にマギナズがぶっ飛んで行った。
誰も触れてもいないのにあの巨体が岩山にめり込むほどの勢いで激突した。
原因はテラリアスナーズ。
これがドラゴンの力。
「私たちがやってしまったことなので謝罪にもなりませんが私が何とか致します。
剣で私の体を傷つけていただけますか?」
「剣で、体を?」
「そうですドラゴンの生き血は他の生物から見てものすごい力を秘めています。
私の血を飲ませればそのウルフも助かるでしょう」
そう言ってテラリアスナーズは自分の右足を差し出してきた。
「でも、これ普通の剣だし傷つけられるか……」
「私たちにも柔らかい部分というものは存在します。
関節の裏なんかは柔らかいので剣でも傷つけられるでしょう」
「関節の裏ですね」
いきなり怒りはしないかとか恐怖はあるのだがノワールの為だ。
ショウカイはテラリアスナーズの下に潜り込んで足の後ろ側に回る。
「ここら辺ですか?」
「もっと上です」
伸ばした状態ではどこが関節の裏なのか分からない。
剣を軽く当てながらテラリアスナーズに聞く。
「ここ?」
「行き過ぎです。
そう、そこです!」
「じゃ、じゃあ行きますよ……」
強く押し当てるようにして剣を引く。
柔らかいだのと言っていたのにそこそこ固く、相当力を入れる。
一息に剣を引ききるとテラリアスナーズの皮膚が浅く切れてたらりと血が垂れてきた。
それをショウカイは手ですくうと急いでノワールのところに持っていく。
「ノワール、これを飲むんだ」
目の前に血を差し出すがノワールは動かない。
「飲んでくれ、ノワール!」
なりふり構っていられない。
ノワール口に手を突っ込んでのどに血を流し込む。
「頼むよ、ノワール……」
流し込んでいるけれどちゃんと飲めているのか分からない。
辺り一面血だらけになってショウカイは項垂れる。
その時だった。
ノワールの体が淡く発光する。
それに伴って荒かった呼吸が落ち着いて深くゆっくりとしたものになっていく。
「ノワール?」
まだ顔は上げられないようだけど、ショウカイの声に尻尾が反応する。
パタパタと振られる尻尾。
ノワールは峠を乗り越えた。
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