ウルフ洗い4
「何ですか、ご主人様」
テンションが高くなってまたノワールが何を言っているのか分かるようになる。
「ノワール、今からお前を洗うから」
「洗う? 洗うとは何ですか?」
「覚悟!
ノワール、伏せ!」
「はい」
スッとノワールがショウカイの言うことを聞いて伏せる。
良い子だ。
石鹸を水に濡らしてこする。
泡立ててからと思ったけれど泡立てに使えそうな物もなく、ノワールのサイズもデカいので泡立ててからやるのは諦める。
ショウカイが直接石鹸をノワールの体に擦り付ける。
そしてワチカミがちょっと水をかけたりしながらノワールの毛で泡立てていく。
ミクリャもワチカミのマネをしてノワールの体を小さい手で擦って泡立てる。
シュシュは濡れるのを嫌がって応援係である。
「ああ〜」
嫌がることもなくノワールは洗うことを受け入れている。
むしろ気持ちよさそうに声を出している。
「これ使って」
ワチカミにやわらかいブラシを渡す。
「ワフゥ〜」
意味が分かっているのか分かっていないのかよく分からない。
言葉っぽく聞こえる気もするけど普通に漏れた鳴き声にも聞こえる。
ただただ気持ちがいいようだ。
「うーん、こうしたほうがいいんじゃないか?」
ワチカミがブラシを置いて糸を出し始める。
クルクルと糸を巻いて塊にする。
ブラシぐらいの大きさになったそれに水をつけ、石鹸を擦り付けて、少し揉む。
するときめ細やかな泡が出来る。
細かく巻いた糸がスポンジのような役割を果たしていた。
粘着度もワチカミでコントロール出来るのでペタペタとくっつくこともない。
ブラシよりも糸スポンジの方が好きのようで腹を見せて転がるノワールを糸スポンジで洗ってやると後ろ足が勝手に動き出す。
ミクリャもワチカミのマネをして糸スポンジを作って細かいところを洗ってくれたりしていた。
あっという間にノワールは全身泡だらけになる。
「ノワール? …………ノワール?」
順調だと思ったのにこれまでにない抵抗を見せるノワール。
首に力を入れて顔を逸らす。
どうしても顔を洗うことだけは嫌なようだ。
「あとは顔だけだから、頼むよ〜」
クゥーンと情けなく鳴くノワールだけど首の力は緩めない。
ブラシを避け続け、下から懇願するようにショウカイを見上げる。
「そんな目で見ないでおくれ……」
ウルウルとした(ショウカイにはそう見える)瞳で見られてショウカイはそれ以上無理強いはできない。
「隙あり!」
「りー!」
ショウカイは無理でもノワールにはまだ敵がいた。
ワチカミとミクリャである。
糸スポンジで泡を大量に発生させたワチカミとミクリャがノワールの頭に後ろから急襲する。
「許せノワール!」
「わぁー、助けてー!」
こんな時だけ言葉の意味が理解できるのはずるいぞ。
とりあえずワチカミとミクリャの助けもあってノワールを丸洗いすることに成功した。
「よしこれでいいな。
水に入って泡を流すんだ」
「ワフ……」
テンションただ下がりで川の中に入っていくノワール。
これじゃあこっちがノワールをいじめているみたいじゃないか。
川にノワールの泡が流れていく。
自然環境には良くないかもしれないけど他にどうしようもないのでしょうがない。
川の中におすわりするノワールには哀愁すら漂っている。
「ノワール!」
このままではかわいそうだし、顔の泡も落ちない。
洗われるのが嫌になってもダメなのでショウカイもズボンの裾を捲り上げて川に入る。
手をお椀のようにしてノワールに水をかける。
驚いたような顔をするノワール。
もう一度水をかけるような仕草をするとノワールが腰を上げる。
フリフリと尻尾を振って何かを期待する目。
「そらっ!」
パシャリと水をかけるとノワールが華麗なサイドステップでそれをかわす。
そんな感じで遊んでいると興奮してきたノワールが反撃に出る。
前足を叩きつけるようにしてショウカイに水をかけてきたのだ。
すっかりごきげんも元通りになって、ノワールとショウカイは遊ぶ。
頭の泡も落ちたしノワールも楽しそうだ。
「お前もちょっと入ってみるかい?」
ミクリャはワチカミの肩に乗っていた。
まだまだ小さいミクリャでは流されるかもしれない心配がある。
それでも入りたそうにしているのを感じたワチカミはミクリャの背中に糸をつけて流されても大丈夫なようにした。
そっとミクリャを水辺に下ろす。
恐る恐るといった感じでミクリャが水に足をつけた。
冷たくて気持ちがいい。
ショウカイがやっていたようにミクリャも両手で水を掬い、投げ出してみる。
空中に投げ出された水が光を反射してキラキラと輝いてみえる。
綺麗だった。
出来るなら、次があるならミクリャはノワールみたいに、ショウカイとあんな風に笑顔で遊んでみたい。
そう思っていた。
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