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閑話・カラスへの復讐

「私のしもべも貸してやったというのに幼体のアラクネ1匹捕まえられなかったのか」


「申し訳ございません……」


 ヤタは頭を下げる。

 自分よりも小さいカラスの小言にも一切何も言えない。


 プライドの高いヤタがなぜそんな態度を取っているのかというと、小さくても目の前にいるカラスの方が格が上だからだ。


 目が6つあるこのカラスはヤタよりも1つ上の進化種でありヤタが適う相手ではない。


「まさか成体のアラクネを人間と共に探しているとは思いませんでした。


 キシ様のお力添えがあったのにアラクネを捕らえられなかったのは私の力不足でございます」


 キシはヤタを目にかけていた。

 今回アラクネの幼体の話を聞きつけたのもキシであり、ヤタの強化の手助けになるだろうとヤタに向かわせたのだ。


 多くのカラスもヤタにつけて素早いアラクネを逃がさないように万全の体制を整えてやった。

 なのに、ヤタはアラクネを捕まえるどころかカラスを全て失っておめおめと帰ってきた。


 本当はヤタを八つ裂きにしてやりたい気分なのだけれどそんなことをしてはそれこそ何も残らなくなってしまう。


「これ以上お前の面を見ていたら殺してしまいそうだ。


 しばらく大人しくしていろ」


「分かりました」


 ヤタはトボトボと去っていく。

 この失敗を糧に成長してくれればいいのだけれど。


「にしても成体のアラクネか……」


狩るのは難しい相手。

 しかし事前にしっかり準備をして戦えば勝てない相手でもない。


 幼体のアラクネもおそらくそこにいる。


「ふふふっ、久々にご馳走様といこうか……」


 ドンッ。


カラスも大量に倒してくれたアラクネをどうするのか考えていると巣穴にしている岩山が振動した。


「何事だ!」


カラスが慌てて飛んでくる。


「何、人間が攻めてきただと?」


 カラスの報告を聞いてキシが目を細める。

 キシは人間にバレないように鉱脈が枯れて打ち捨てられた鉱山を魔法で掘り進めて巣穴にしていた。


 長いこと人間は立ち寄らずバレたこともなかった。


 なのにいきなり人間が攻めてくるとはなぜなのか。


「くそっ何者なのだ」


 感じる魔力はカラスどもでは相手にならない。

 キシが慌てて音のした方に向かう。


「これは……」


 鉱山の一部が消し飛んでいる。

 そのまま外に出る形になったキシが消し飛んだ鉱山の真ん中に1人の男を見た。


 燃えるような赤い瞳の男。

 サルモスであった。


「この魔力……貴様が魔物のリーダーだな」


サルモスが手を振るとキシの周りが爆発する。


『なんなんだ、あの赤い奴』


 黒い煙の中から無傷のキシが飛び出す。


「やわな魔物じゃなそうだな」


 みるみるとサルモスの周りの温度が上がっていき、放たれた魔力が圧力となってキシにのしかかってくる。


『あんなものが一体どこから来たのだ!』


 向かうのではなく、別の道を通って逃げるべきだった。


 その日廃鉱山が一つ消し飛んだ。

 S級冒険者が最高ランクの魔物と戦ったためである。


 その結末がどうなったのか、サルモスが語ろうとはしなかったので知るものはいなかった。


 ーーーーー


「あのカラスに来られると厄介だな」


 ワチカミは糸にぶら下がりながら考えた。

 ヤタに負ける気はしないのだがカラスは知恵を巡らせてくる。


 簡単に手を出してくるわけがないがあのまま諦めるとも思えない。


 せっかく落ち着いて生活できる巣なのにここを捨てるのはもったいない。

 だからといって防衛拠点にもなる巣の利点を捨ててカラスを襲いに行くなんてことももっての外。


 「うーん」


 倒せなくてもいい。

 できれば他に視線を向けるとか、痛打を与えて遠くに追いやるとかそんなでもいい。


「人間……人間か」


 そんな時チラリとショウカイの姿が目に入った。

 人間は基本的に弱い。


 弱いのだが中には上級の魔物にも匹敵するような化け物じみた人間も現れることがある。


「おっ、帰ってきたか」


 悩んでいると1匹のクモがやってきた。


 シュシュよりもさらに小さい、言われなきゃ気付かないようなサイズのクモ。


「ふーん……意外と遠くないね」


 そのクモはひっそりとヤタに付けていたクモであった。

 長く細く糸を出せ、気づかれにくいそのクモは隠密活動に特化したクモだった。


 ヤタに引っ付いていたそのクモは糸を出して帰りがわからなくしないようにしながらヤタの巣の場所まで引っ付いて場所を特定した。


 大量のカラスを連れていて目立つのでそんなに巣の位置が離れているとは考えにくかった。

 距離は結構あるけれど行けなくもない距離、そこにヤタが降り立っていた。


「良くやってくれたね、お疲れさん」


 そこから走ってクモは帰ってきた。

 小さいクモからしたらかなりの距離だっただろうに昼も夜もなく走って帰ってきてくれた。


「場所がわかったなら人間を使うってのも手だよな」


 助けてやったんだ、助けてもらってもいいだろう。


「おーい、ショウカイ」


 ワチカミはショウカイを呼び出した。

 何かのスキルを使っていきなり気を失ったのには驚いたが元気そうでよかった。


「1つ頼まれてくれないか?」


「何をだ?」


「ふふっ、あのカラスを追い払いたくてね」


 ーーーーー


 ワチカミの巣を離れてショウカイは町に戻ってきていた。


 まずはワチカミの頼みを実行する。


「いらっしゃいませ、今日は何の御用ですか?」


「えっとギルドに報告したいことがあるんですが……」


 ショウカイはワチカミから渡された大きなカラスの羽を持って冒険者ギルドを訪れた。


 ワチカミは自分でヤタを倒しに行けないなら人間を利用してしまえばいいと考えた。

 場所を伝えればきっと人間が調べて倒しに行ってくれる。


 仮な人間がヤタを倒せなくてももうそこに住むことはできないだろう。


 ショウカイは羽を受付に渡しながらたまたまカラスの巣となっている鉱山を見つけたと報告した。


 受付は驚いたような顔をしていたけれど尋常な大きさではない羽を見て信じてくれた。


「青年、久しぶりだな。


 その話聞かせてもらってもいいか?」


 1度会うだけでもう2度と会うことがないと思っていたのにもう3回目。

 魔物にとっての赤い悪魔。


 ショウカイはもう1度同じ話をサルモスにしたのであった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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