お別れの時4
「なんだ?
男いうのはこういうのが見たいものなんだろ?」
「そのようなただれた行いには愛というものが必要なのである!
何でもかんでも見せるのはダメである!」
「いういうもんなのか?
みんなしてそんな怒るなよ……」
喜ばれると思ったのに、ノワールは牙を剥き出し、ミクリャはワチカミを睨みつけてむくれている。
ワチカミがローブを戻して頭を掻く。
見せちゃダメだからノワールやミクリャが怒っているのではないのは分かっている。
常識とやらでどうしてこんなことしちゃいけないのか納得いかなかった。
減るもんじゃないしショウカイは喜ぶし良いじゃないか。
ショウカイもショウカイで若い男子なので興味ないといえば嘘になるので何も言わない。
それにしてもローブを着てくれて助かった。
これが普通の上半身だけの服だったらと思うと、2度とワチカミのことを見られなくなるところだった。
しかし普通の足になってしまうと綺麗なお姉さんである。
「人間が知らないだけで人間の世界にはこんな風に人に擬態して生活している奴だっているんだぞ」
「えっ!」
「ふははっ、お前だって私がアラクネだって分からないだろう?
まっ、私はそんなことはしないがな」
驚きの新事実。
確かに目の前で変身したのを見たけど今こうして見ているとクモの形をしていたのが信じられなく思えてくる。
それにサルモスから逃げるのに逆に人の世界に飛び込んでいった。
人の雑多な気配の中にいると逆に分からないものなのだろう。
それを知ったところでどうしようもない。
人の世界にいる魔物が悪いことでもしない限りはショウカイも手を出す必要もない。
「その子は背足型でより人に近い形なのでもっと成長して安定してきて擬態できるようになると人と遜色なくなるだろうな」
「ふーん……」
「未熟な状態で生まれてしまったからまだ落ち着いた状況で成長する必要があるし、教えるべきことはたくさんあるがな」
「そういえばワチカミ……さんはミクリャを預かってくれるのか?」
「別に呼び捨てでいいよ。
妹が残した子なんだ、当然だろ?
私たちは同族を大事にする。
妹の子がこんなことになっていると知っていたら私から迎えにいっていたぐらいさ」
ミクリャのことを頼めるのか不安に思っていたこともあったけど心配は杞憂だった。
「どれぐらいかかるかは知らないけど一緒に連れて歩きたいってなら待ってくれればこの子はきっと連れて歩けるようになるよ。
私が言うのもなんだけどアラクネは強い種族だから足を引っ張ることもない。
まあ保護者になるのはあんただからあんた次第の話だけどね」
「一緒に、か……」
ミクリャがショウカイの手に飛び乗った。
「いっ……しょ!」
「えっ?」
ミクリャが言葉を発した。
どこかで聞いたことがある。
そういえばヤタに殺されかけた時に聞こえた声がこんな感じだった。
「いっしょ!」
あの声はミクリャのものだったのか。
「ミクリャ喋れたのか?」
「知能が高いからな。
それに人間の世界にいて日頃の会話も人の言葉でやっていたのだろ?
なら話せても不思議ではないな」
「そっか。
今はまだ無理かもしれないけどいつか一緒に旅するか?」
「いっしょ!」
『従属スキルを使いますか?』
「これは……」
ノワールの時と一緒。
「いいのか、ミクリャ」
答える代わりに無表情だったミクリャが笑った。
「スキルを使うよ」
直後、ショウカイは気を失った。
幼くてもノワールより強力な魔物であるミクリャを従属させるのに持って行かれた魔力は想像を超えていた。
そもそも従属させるのに魔力を使うなんてこと頭から抜け落ちていた。
ショウカイの限界を超えた魔力を持って行かれてショウカイは気絶してしまったのだ。
2日ほどアラクネの巣で回復を待ち、ショウカイとノワールはミクリャとシュシュをワチカミに任せて巣を出た。
イヤイヤとしてミクリャはショウカイにしがみついていたけれどいつか一緒に旅することを約束して何とか離れてくれた。
ミクリャはショウカイに従属した第二の仲間になったけれどその成長を待つことにして、今回はお別れということになった。
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