お別れの時3
右の足が2本になってしまったシュシュ。
それでも命があったのは過去に同じように足を犠牲にして生き残った経験があったから。
足をそのままにして逃げるなんてヤタも思いもしなかっただろう。
ショウカイの魔力が切れて見つかったことで助かったとはいえそんな大胆なことをするクモだなんて誰も想像していなかった。
流石に足2本失ってはなんてことないとは言えないけれど命には変えられない。
「ショウカイ様のところに行かなきゃいけないと思ったであるが足も切られて上手く歩けなかったである。
そんな時にこのワチカミ様が現れて助けてくれたである」
「こんだけ森で暴れてたんだ、気づかない方がおかしいだろ」
「そのままワチカミ様に事情を話してショウカイ様も助けてもらうことになったであるがその時にノワールたちに会って、なんやらかんやらヤタを撃退したである」
「あいつの部下のカラスは全部捕まえてやったけどあいつを逃しちゃったのは痛かったね」
「まあ、ここにアラクネの巣があると分かった以上もう迂闊に手を出すことはできないである」
「そうなのか、無事でよかったよ、シュシュ」
「ショウカイ様も無事でよかったである」
シュシュは足を失ったし、ショウカイも全身ぼろぼろである。
決して無事なんかではないけど命は助かった。
生きていればそれでよい。
「まあそういうわけでお前を放っておくわけにはいかなくてな。
私の巣に連れてきたんだ。
死にそうだったから昔来た冒険者の薬をかけておいたが間違いじゃなかったな」
確かに体のおおよその怪我は治っている。
深く切られた太ももだけはまだ傷が残っているけど歩く分には問題ない。
その昔の冒険者とやらがどうなったのかは言うまでもないだろう。
「そっか……ここが」
ここが探していたアラクネの巣。
「じゃあ、シュシュとミクリャともお別れ……か」
シュシュに頼まれたのはアラクネの巣を探してシュシュとミクリャをそこに連れて行くこと。
連れて行ったとは言い難いけどみんなアラクネの巣に行けたので約束は果たせた。
ということはシュシュとミクリャとはお別れということになる。
「それは……そうであるな」
シュシュも一緒に旅する時間が長くて忘れていた。
ショウカイは人間で、シュシュは魔物。
住む世界が本来は違うのだ。
相容れない存在のはずなのに楽しくてしょうがなかった。
「寂しい、であるな」
こんな気持ちになるなんて。
シュシュは困惑していた。
人に襲われて人から逃げるために、人を利用した。
それぐらいのつもりだったのにこのままでも悪くないなんて思い始めていた。
素直に気持ちを吐き出したシュシュ。
「ミクリャ?」
手のひらに乗っていたミクリャがシュシュとは逆の肩に乗っかりショウカイの頬に抱きつく。
「ミクリャ様も同じ気持ちである」
「ミクリャ……」
離れたくない。
そんな気持ちが伝わってくる。
「ず……」
「ず?」
「ずいぶんと好かれたもんじゃないかぁ〜」
号泣。
ショウカイのしんみりとした気持ちが吹き飛ぶほどのワチカミは落涙した。
「どうしてあなたが泣いているんですか……」
せっかく出かけた涙が引っ込んでしまった。
「年を取るとこういうのに弱くてな」
ワチカミの見た目は若いお姉さんに見える。
クモの部分の年齢が分かるわけないので人の部分で見るとそう見えるのだ。
人と魔物では当然寿命も違うので見た目若く見えてもそれなりに年月を重ねてきているのかもしれない。
魔物でも上半身は女性なので年齢について考えるのはやめておこう。
「そうだ!
もちっとデカくなったら一緒に行けばいい!」
「一緒に行くって……」
ミクリャは頬にくっついているので今見えるのは背中のクモの足だけ。
小さいから隠れられていたのにこれ以上大きなると隠すのも難しくなる。
ちなみにミクリャはどれぐらいの大きさになるのだろうか。
ワチカミはクモの下半身のせいか上半身は普通の大きさなのに見上げるほどの高さになっている。
「人からかけ離れた姿をした種族には難しいかもしれないけれど私たちのような人に近い姿を持った種族には完全に人の姿に擬態できる種族や個体もいる。
アラクネは知能が高く人に近い容姿を持っているので擬態スキルを持っていて人の姿になれるんだ」
ワチカミの体が光を放つ。
大きなクモの下半身が段々と縮んでいき、見知った人の形になる。
「ほら?」
「ストォォォォプ! それはいけないである!
若人には刺激が強すぎるである!」
光が収まり高さがだいぶ低くなったワチカミがおもむろにローブをめくり上げた。
ただしワチカミに人の常識や恥なんてない。
加減も知らないワチカミは下腹部が見えるほどローブをめくり上げてしまった。
ローブの下は当然裸。
白く綺麗な足の根元まで見えそうなところでシュシュがショウカイの顔面に飛びついた。
人の常識を知る唯一の良心であるシュシュがいなかったら危なかった。
多少の不快感はあるもののシュシュに張り付かれてもショウカイは平気になっていた。
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