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準備と襲撃1

 準備といってもすることはほとんどない。


 城の外に出たこともないのだから買い物をしたこともなく、与えられたもの以外に自分の物はない。


 さすがにこれぐらいはいいだろうとこの世界に来てから貰った服を袋に詰め込んで、他はといえばこちらの世界に来る時に来ていた入院着のパジャマだけ。


 捨ててもいいのだけれどちょっとお高めの自然素材のパジャマはこの世界基準で見ても珍しく仕立てもしっかりしているからもしかしたらどこかで売れるかもしれない。


 唯一の自己の財産なのだから念のために持って行こうと思い袋に雑に詰め込んだ。


 パジャマだし普段から使ってもよいのだがなんかもったいなくて使えないでもいた。


 本格的な準備は城を出てからになる。


 これからのことを考えると何も手につかないタクミはかなり早めに眠りについて、日が昇るより前に目が覚めた。


 一晩を過ごし頭が冷静になったタクミはユキコとアイシャのことを思い出していた。


「せめてちゃんと別れの挨拶ぐらいしなきゃな」


 他の勇者も悪い奴らではなかったがタクミは馴染めないでいたし、いなくなってもしばらくは気付きはしないだろうと思えるほど関係は薄かった。


「ただこの時間じゃ……」


 外はまだ薄暗い。


 もうすでに働き始めている者もいるが2人はまだ寝ているはずである。


 二度寝でもすることを考えたが早くに寝たせいなのか全く眠くもなくもう一度眠れる気もしない。


 ならばと軽く散歩でもしようと部屋を出た。


 時折会う巡回の兵士に頭を下げながら朝の少しひんやりとした空気の廊下を進み城の裏に向かう。

 そこは広い庭園となっていて綺麗に整備されている。


 静かで空気が澄んでいてタクミはこの庭園がお気に入りの場所であった。

 訪れる人も少なく心落ち着ける場所。


「だーれだ」


 立ち止まり空気を味わうように深呼吸していると突如視界が真っ暗になった。


 定番の言葉が聞こえてきたおかげでそれが目を手で覆われたために暗くなったのだと分かり、すぐさま声の主も予想がついた。


「……ユキコだろ」


「えー、どうして分かったの?」


 手が離れたので振り返ると悪戯っぽい笑顔を浮かべたユキコがいた。


「俺にこんなことするのはユキコぐらいだしな」


「何それ」


「こんな子供みたいなことをするのはユキコだけってことさ」


「ひどーい」


 こんな風に笑いながら会話出来るのなんて城の中で他にはいない。


「それにしてもこんな時間にどうしたの?」


「早くに目が覚めちゃってな……ユキコこそ早いな?」


「なんだか眠れなくて」


「そうか……ユキコ」


「ん?」


「俺、城を出て行くことになった」


「えっ? ほんとに?」


「ほんと」


「……いつ?」


「今日」


「今日!? 急すぎない?」


 確かに昨日話して今日出発では早急過ぎると言われるのもしょうがない。

 ユキコにとってしてみればもうすぐいきなり出発すると言われているのだから。


 驚いた表情を見せたユキコだがすぐに悲しそうに目を伏せた。


「思ってたよりいきなりだね」


「……そうだな」


 タクミ自身焦っていたし女王様と話した時もすぐ出て行くことに違和感もなかったが確かに急すぎる話である。


「また会えるよね?」


「ああ、会えるさ」


「約束だよ?」


「約束するよ」


「はい」


「うっ……ちょっと、恥ずかしいな」


 ユキコが小指をたてた手を差し出した。その意図することはすぐに分かった。


 タクミも手を伸ばしてユキコの小指に自分の小指を絡ませる。

 互いに小指を絡ませ約束を交わす。


 小さな子供がやる誓いをこの年でやることになるとは思わず照れ臭くなる。


「えへへっ」


 ちょうど日が昇り始めユキコの後ろが白み始める。


「まっ、こういうのも……悪くないな」


 ーーーーー


 冷たいものだとタクミは思う。


 部屋の戻った時にちょうどアイシャにもあったので挨拶を済ませ部屋でくつろいでいると財務担当の役人が来てお金の入った袋を渡されてた。


 シェランが言う支援というやつなのだろうがお金を渡してはい終わりとはなんともあっけない

 荷物の確認も意思の確認もそこそこに城から締め出される形で出発する。


 城門ではなく来客用の小さい扉がバタンと閉められ無表情の門番が立ちはだかりもう城に戻ることは許されない。


「しかし……自由は自由だ!」


 外を自由に歩くだけでも気分が軽くテンションが上がる。


 まずはどうするべきかと考えながら歩いていると城周りの貴族が住んでいる高級住宅街っぽい静かなところを抜けてザワザワと人が増えてきて普通の町の賑わいになっていた。


 いわゆる城下町。高級感はなくなり庶民の生活感を感じる。


「まずは拠点の確保かな」


 すぐさま町を出ていくわけにもいかない。

 旅路に必要なものを買うにしても全部手に持っていくことも現実的ではない。


 どう行動するにせよ、その基本となる拠点を定めておいた方が安心である。


 当然準備をするための間の仮の住まいなのだから家を買うつもりはない。


 となれば宿に泊まることになるわけなのだが問題がある。


 お金の価値がタクミには分からない。


 お金を渡しにきた役人が何かぶつぶつと文句を言っていたことから察するとそれなりに高額な金額を渡してくれたようなのではあるが、それがいかほどの値打ちのものなのか知らないのである。


 盗まれにくいように荷物に入れた服の間に差し込むように隠したお金の入った袋の中には金でできた貨幣が20枚。


 役人が文句を言うほどの価値があることと、常識で考えて金貨が高額貨幣に当たりそうなことはタクミにもわかる。


 ただ市井の一般物価や金貨以外にも貨幣があるかなど知っていて当然のはずの知識がタクミには備わっていない。


 悪目立ちは避けたい。

 金貨をほいとそこらの店で使ってしまえば目立ってしまう可能性がある。


 目立つだけではない。

 下手をするとぼったくられてしまう可能性も大きい。


 おそらく金貨が最小貨幣なって事はないと思うので下の小さい価値の貨幣もあるだろう。

 上手く金貨を崩して目立たぬように買い物がしたい。


 最悪多少のぼったくりは許容するしかない。

 堂々としていれば金遣いが荒いとか気風が良いとか思ってもらえて世間知らずなことは隠せる。


「高級宿ぉ?」


「はい、臨時収入があってちょっとした贅沢したいなと思いまして」


「ほぉーん……なら、あそこだ、ゲロッカ。最高級とは言えないが結構良い値のするところだ」


「ゲロッカですか」


「あぁ、忙しいから案内まではできやしないが北側の宿場街に行って聞きゃ分かんだろうよ」


 そこで思いついたのが拠点とお金の価値を知ることを両立する作戦である。


 最高級とまではいかなくてもそこそこの高級宿に泊まれば何となくその宿泊料からお金の価値も分かり、かつ大きな額を出してもおかしくなく、お釣りを用意することもできる。


 高級宿ならぼったくりの心配も少なくセキュリティーも信頼ができる。

 よけなこと聞いてきそうな客層でもないだろうし唯一宿代の高さだけが心配だけれど。


 道行く身なりのいいおじさんに宿を探していると話しかけた。


 少々口が悪く話しかける相手を間違えたかと思ったけどおじさんはタクミの望む答えを出してくれた。


 最後に北側の宿場街への行き方を聞いてお礼を言って離れる。


 どうやらこの王都は城を囲むように町が形成されていて、城に近い内側は貴族やお金持ちが住んでいる高級住宅街でその外縁が一般の町になっていて西と南は住宅街。


 タクミがいるのは東側のお店が集中している商店街で宿は北側に多くあるらしい。


 とりあえず北側に向かいながらいろいろお店を見てみる。


 普通に店舗を構えているお店もあれば露店形式や馬車みたいなものでやっているキッチンカーみたいなお店もある。


 料理を出しているお店も割と多く露店の多い通りではお祭りのような雰囲気すらある。


 迷わないように大きな通りを選びながら歩いたら段々と周りの感じも変わってきた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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