お別れの時1
ぷすーと耳に息がかかってショウカイは目が覚めた。
真っ白の天井。ぼんやりとした頭では最初病院の天井かと思った。
ぷすぷすと聞こえる方に顔を向けると隣でノワールが寝息を立てている。
そして視線を下げて自分の腹の方を見るとミクリャが乗っていた。
何が起きたのか分からないけれどノワールとミクリャが無事であることは分かった。
それはよかったのだが……
「何この状況!」
ショウカイは糸でグルグル巻きにされて首以外真っ白な繭になっていた。
意識がはっきりしてきて真っ白に見えていた天井もクモの糸だということが分かった。
体を動かしてみようとするけど全く身動きが取れない。
ノワールが全くの警戒もなく寝ているので危険性はないのだろうと推測できるのだが首の動かせる範囲しか周りが確認できなくて不安が募る。
キョロキョロと首を動かしているとショウカイが起きたことを察したノワールが目を覚ました。
「はっ……ちょっと待つんだ、ノワール……ノワ、ノワール!」
ショウカイが無事に目を覚ましたことに喜びを爆発させたノワールはいつにも増して激しくショウカイの顔を舐める。
手足を拘束されていて一切の抵抗ができないショウカイ。
声も出せずにただひたすらに舐められる。
『はっはっはっ、元気そうで何よりだ』
苦しさがピークが達する頃、聞いた事のない女性の声が聞こえてきた。
何かを言っているのは分かるのだが何を言っているのか分からない。
ヤタが人の言葉を話す前に発していた言葉のように、言葉っぽいのに何を言っているのか分からない。
誰なのか確認したいのに今は視界いっぱいノワールで何も見えない。
「ノ、ノワール、フパッ、ストップ!」
口を開いたタイミングでノワールが舐めるので舌が口の中に入ってきた。
満足したのかようやく舐めるのをやめてくれるノワール。
顔中ベチャベチャである。
「えっと……」
『こっちだ』
顎を上げて声の聞こえた方に頭を向けるとまずはクモの体が見えて、そこから視線を上げていく。
人間の上半身、白髪の綺麗なお姉さん。
『どうした? まだろくに目も合わせていないではないか』
下半身がクモなのも気になるが上半身が何も身につけていない裸だった。
すぐに視線を逸らすショウカイ。
長い髪が胸の先を隠していたものの刺激が強すぎてショウカイには直視できなかった。
見たいっちゃ見たいけど人のマナーとして見てはいけない。
上からショウカイの顔を覗き込むアラクネのお姉さん。
その体勢では完全に見えてしまう。
『むむ? そうか、私の言葉が分からないのか。
おい、お前なら話せるだろ?
通訳しろ』
「任されたである!」
「その声……まさか」
もはや馴染みとなった声。ちょっと変な話し方。
「シュシュ! シュシュなのか!」
「そうである、ショウカイ様」
胸に、そして目に熱いものが込み上げてくる。
「どうしてこちらを向かないであるか?」
「それは、その、胸が……」
「胸? ……なるほどである」
シュシュは一度自分の胸、というか胴体を見たがすぐになんのことか察した。
「ワチカミ様、その、ゴニョゴニョである」
シュシュがアラクネに耳打ちする。
それを受けて大笑いするワチカミと呼ばれたアラクネ。
『どれどれ、ちょっと待っていろ』
ワチカミは一頻り笑った後何処かに行ってすぐに戻ってきた。
チラリと見てみるとワチカミは上半身にローブをまとっていた。
『昔きた冒険者の物だ。窮屈だがしょうがない。
これでどうだ?』
「これでよいかと聞いているである」
「あ、ああこれで大丈夫……シュシュ!」
「なんであるか?」
「なんであるかってお前、足が!」
まだ頭を一瞬見た上半身の残像が残っているので大丈夫ではないけれどとりあえずワチカミの方は見られる。
ワチカミの方をちゃんと見て、その肩にシュシュが乗っていた。
未だに繭の状態で転がっているので下から逆さに見上げる形で分かりにくかった。
シュシュは無事に見えたがよく見ると足が1本足りない。
左足は出会った時から1本足りなかったのだが右足は今2本しかない。
出会った時よりもさらに1本少なくなっている。
「名誉の負傷というやつである。その話は後でするである」
『もういいか? はじめまして、人間』
「はじめまして、人間と言っているである」
『私はワチカミだ』
「私はワチカミだ」
ワチカミが何かを言い、それをシュシュが通訳して伝えてくれる。
「俺はショウカイです。えっといろいろ言いたいこと聞きたいことがありすぎて……
ワチカミ、さん?は人の言葉を話せないのか?」
『私には無理だ。
何を言っているのかそれは理解できるのだがな』
「無理だそうである。
ただショウカイ様が何を言っているのかは分かっているである」
人っぽい見た目をしたアラクネのワチカミが人の言葉を話せなくて、人の見た目をしていないシュシュやヤタが人の言葉を話せるとは不思議なものだ。
『それぞれの種族にはそれぞれの言葉があるが魔物は魔力と思念が込められていれば魔力を感知する応用で相手が別の種族であっても意味を理解することができるのだ』
何か長いことをワチカミが言って、シュシュが必死に通訳してくれる。
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