逃避行2
「シュシュとミクリャは大丈夫か?」
「ただくっついているだけなので大丈夫である。
ミクリャ様も怖がってはいるけど大丈夫そうなのである」
少し服を引っ張って中を見てみる。
ミクリャと目が合う。
毎日見ているとただの無表情に見えている中に感情の変化によって微妙な表情の変化があることに気づいた。
今はかなり不安そうだ。
大丈夫だよ、と笑いかけてやる。
「ノワールはどうだ?」
「ワフ」
短く簡潔にノワールが鳴いてみせる。
平気という意味。
ノワールももう長いこと一緒にいる。
シュシュのように話すことはできなくてもノワールは感情表現が豊かで分かりやすく、段々と意思の疎通が取れるようになってきた。
神の瞳が上から見下ろす頃、ようやくもう1つの森が見えてきた。
確か森の名前はナニャウの森と書かれていたはずだ。
「ようやくついた……」
何にも出会うことがなかったので体の興奮は自然と冷めてくる。
そうすると今まで自覚していなかった疲労がじわりと顔を覗かせる。
「まずいのである!」
気づいたのはシュシュだった。
木の上に光る目に気づいたのだが身を隠せない草原では気づいたところで無駄だった。
「ショウカイ様、引っ張るである!」
マントの中から飛び出したシュシュが飛び立とうとするカラスに糸を飛ばした。
糸はカラスにくっつき、ショウカイがそれを思いっきり引っ張る。
普通サイズのカラスなので人間の力に適うはずもなく、バランスを崩して地面に落下する。
「ノワール、頼むである!」
落ちてきたところをノワールが爪で切り裂く。
しかしノワールに切り裂かれる前にカラスが声を出した。
カーなんて可愛らしいものではなくヒドイ叫び声のような耳障りな大きな声。
「やられたである……!」
呼応するように森にいるカラスが同じような叫び声を上げる。
見つかった。
「早く森に入るである!」
シュシュの言葉に従って森に駆け込む。
「ついてきているな……」
低い位置を飛ぶようにしてカラスたちが上空からショウカイたちについてきている。
いくら気配を消していても視界に捉えられていては効果がない。
「もう1度煙爆弾を使うか……」
視界から外れればチャンスはある。
煙爆弾は5個あったので、1個使い、今は4個。
ここで1個さらに使ったところで痛くはないし、こんな時のためのものだから使おうかと思い、ポケットに手を入れる。
「きっと無駄である。
奴ら頭がいいので同じ手は通じないのである。
きっと、煙の範囲外から見張るなんかするである」
「じゃあどうすれば……」
ヤタが来るのは時間の問題。
カラスならともかくヤタからは逃げられる気がしない。
「……いや、良い方法を思いついたである。
煙爆弾を使うである」
「方法ってなんだよ?」
「いいから使うである」
「分かったよ」
煙爆弾に魔力を込める。
前回ほどは込めないけれどそれなりに魔力は込めた。
これでも結構な規模の煙が拡散されるはず。
地面に煙爆弾を投げつけると煙が広がっていく。
上空を飛んでいたカラスたちは1度距離を取って煙の範囲外を飛び始める。
どこから出てきてもいいように多くのカラスが白い煙の上を旋回してわずかな煙の動きに目を凝らす。
「これでどうする……シュシュ?
シュシュ、どこ行くんだ!」
マントの中から出てくるシュシュ。
「ワタクシは逃げ足には自信があるである。
ショウカイ様……ミクリャ様を頼むである!
また後で会おうである!」
「待てシュシュ……シュシュ!」
煙の中に溶けていくシュシュ。
煙から飛び出すと同時に煙の外の木に止まっているカラスに糸を飛ばす。
「とりゃりゃりゃ!
カラスの1匹ぐらいちょろいのである!」
あっという間にカラスが糸巻きにされて地面に落ちる。
仲間がやられたことを察知し、動きがあったとカラスたちは一斉にシュシュの方に向かった。
「どうして……」
シュシュの言う良い方法とは己が囮になることだった。
ショウカイの足では本気のシュシュの速さに追いつけない。
「……行こう、ノワール」
不安そうに見上げるノワールに指示を出す。
敵はもうすぐそこまで迫っているのだ、シュシュの犠牲を無駄にはできない。
シュシュしかいないことに気づくのもさほど時間はかからないはずだ。
シュシュが行った方向とは違う方向にショウカイは走り出した。
どうか無事でいてほしいと願いながら。
煙を抜けてもカラスの姿はない。
全てシュシュの方に行ったのか上手く監視の目からすり抜けられた。
素早くミクリャの叔母であるアラクネを見つければシュシュを救えるかもしれない。
思考を切り替えてショウカイはひたすらに走る。
どこが森の奥かも分からない。
どこに巣があるのかも分からない。
追いつかれるのが怖かったし、アラクネの巣を見つけなきゃいけないという思いがショウカイの体を突き動かしている。
しかし限界はある。
煙爆弾も使った。
気配を消すためにずっとマントも使っていた。
ショウカイの魔力は本人も気付かないうちに底をついていてしまっていた。
今やショウカイは気配も消さずに走っていたのであった。
「見つけた」
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