逃避行1
ショウカイとノワールは森を駆ける。
「本当に良かったであるか?」
今はシュシュもショウカイのマントの中にいる。
こうすればシュシュも服の中にいるミクリャも含めてマントの効果を受けて気配を消すことができる。
「俺がお前らのこと渡すわけないだろ!
それにあいつ言ったろ、俺のことも逃すつもりないって。
あんな信用出来ないやつの言うことなんて聞くつもりない」
「そうであるか。
でも渡せば満足して案外助けてくれたかもであるぞ」
「知るか!
あんなのにお前は渡さないさ」
「か、感動である……ワタクシがメスだったら惚れているである!」
「ヤメロ!
そんなことよりどうやって逃げ切るか考えろ!」
「そ、そうであるな」
隠し身のマントでは姿までは消えないので空から探されると見つかる危険がある。
今は森の中にいて視認性が悪いから可能性は低いけどそれでも安心はできない。
そして安全なところまで逃げようと思えばやはり人の町に行くのがいいけど森から町までの間は草原で身を隠せそうな場所もない。
空を飛べるヤタからは丸見えに森なるのでを出たら確実に見つかってしまう。
町に入って諦めてくれればいいけどそのまま襲撃してくるなんてこともあり得ない話ではない。
人を見下したサイコパスならそんな可能性だってある。
今現在は方向も分からず走っている。
とりあえずヤタから離れていくしかない。
「隠れるである!」
シュシュの声に反応して大きな木の根元に身を寄せる。
「あれは……」
「ヤタとかいうやつの部下であるな」
空を見上げると枝の間を黒い何かが高速で通り過ぎていく。
よく見ると普通サイズのカラスが3羽1組になって空を巡回している。
下から見ていても首を動かして地上を探している様がよく分かる。
この様子では森の中も満足に移動できない。
「どうしよう……」
「……逆をいくのはどうであるか?」
「逆?」
「今ショウカイ様は森を出て人里に逃げようとしているである。
きっとそれは簡単に予想できるのでヤタにもバレているである。
だから逆をついて森の奥に逃げてしまうである」
「それでどうするんだ?」
結局森から出て来なければしらみつぶしに探されるだけである。
「もう1つの森に向かってしまうである」
「どういうこと?」
「ここにアラクネの巣がないならきっともう1つの森にあるである。
ヤタは我々の天敵であるがあいつらにとって我々も天敵になりうるである」
地上に巣を張り、糸で絡め取られては空を飛べなくなるのでカラスたちにとってもアラクネは厄介な敵になる。
アラクネの巣は相手にとっても簡単に手を出せない場所。
ワダエの町からもう1つの森は遠いところにある。
しかしこの森を奥まで行ってそこから目指せばワダエの町から行くよりも近い。
悪くない考えだ。
「じゃあ……どっちだ?」
ちょうどヤタが降り立っていた方向が森の奥に向かう方だった。
そこから逆方向に真っ直ぐ逃げてきた。
もう一度ヤタのいる方に戻ることになる。
まだヤタがいる可能性もあるので森の奥に真っ直ぐ向かうことは止めてやや斜めに森の奥に向かうことにした。
いざという時走れるように息を整えながら早歩きで移動する。
出来るだけ姿が隠れるように日陰になっているところを選んでいく。
森の中は涼しくて比較的早く息は整ってきたのに心臓の音がうるさい。
走ったからではない。
緊張感のために激しく心臓が鼓動しているのだ。
「どうだ、ノワール」
どれほど歩き続けたのか、森の反対側の端までやってきた。
森は薄暗く緊迫した状況が続いていたので気づかなかったがすでに日は落ちてきて森でなくても薄暗くなっている。
ここまで日なんか気にしている場合ではなかった。
体勢を低くしたノワールが森から少し体を出して五感を集中させて周りの様子を確かめる。
周りにカラスはいない。ノワールがショウカイに振り返り大丈夫なことを伝える。
鳥の目は夜目が効かないと聞いたことがある。
もしかしたら遮るものがない草原を通るなら日が暮れた今がチャンスがあるかもしれない。
草原の草は背が低く全く身を隠せない。
シュシュならともかくノワールも丸見えになっている。
地図もなく進んでいる方向も定かではないので勘で進んでいる。
地球なら日の方向とかで方角を予想できるの方法もあるけどこの世界で天体が昇る方向が同じかどうかは知らない。
そういえば朝は薄曇りだった空がいつの間にか晴れて綺麗な夜空が広がっている。
この世界では神の瞳なんて言われている、いわゆる月のような星が日の代わりに空に昇っていて夜にしては歩くに困らないぐらいの光量を与えてくれている。
体はまだ興奮状態にあるのか全く眠くならない。
最近明かりがないので日が暮れたら眠る生活をしていて夜になるとすぐに眠くなっていたのに。
この状況で眠くなっては困るのでいいのだがやはり冷静なつもりでも不安が体の調子を狂わせている。
いつカラスに見つかってしまうかとか、本当にこの方向であっているのかとか考えが止まらない。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。