狙うもの7
少し進んで森の中ぐらい。
今度はオーク相手にマントの威力を試してみる。
オークは目が悪いのか、感覚が鈍いのか分からないが気配が消えたショウカイをなぜか捉えきれず、ものすごく戦うのが楽になった。
巨体で腹が出ているので足元にこられると見えないのかもしれない。
本当に銀貨一枚で買ってよかったのか不安になるほど高性能。
返せなんて言われても、もう返すつもりもないが。
真っ直ぐに森の奥へ奥へと進んできたので早くに中ぐらいゾーンを大体抜けた。
切れ目があるわけじゃないので本当に大体。
中ぐらいと奥の間の奥寄りぐらいに来ている。
しかしこれまでよりも奥深くに足を踏み入れている。
「……あれは、カメ?」
歩くたびに足からバチバチと電気がほとばしっている。
まるで雷でも走っているかのような白いジグザグしたラインが入った甲羅を持つ巨大なカメ。
ゆっくりとショウカイの前を通り過ぎている。
「ライコウキであるな。普段は大人しいので手を出さなきゃ大丈夫である。
触るとシビれるので気をつけるである」
確かに近い距離にいるのにカメもノワールも警戒したような様子がない。
互いに敵意がないことが分かっているからだ。
このライコウキなるカメ、戦えば相当な強敵だけど気性が大人しく人だろうと魔物だろうと積極的に襲うものではない。
大人しい性格なら仲間にできないか詳細鑑定してはみたが襲わないけど人は好きでないらしい。
のんびりと進むカメを眺めていても何にもならないので森の散策を再開する。
「どうだ、シュシュ?」
ショウカイにはクモの糸1本ですら見つけられていない。
近づけば分かると言ってたシュシュなら何かを見つけられたかもと聞いてみる。
「同輩らしい気配はないである。
時折感じることもあるけどそれはきっと野良の同輩なのである。
巣がある、という感じは今のところないであるな」
「ふ〜ん、じゃあやっぱりこの森にはアラクネの巣はないのかな?」
「そうかもしれないであるな」
なんとなくそんな感じもしていたのでショックもない。
「とりあえずもうちょっと探してみてなんの気配もなさそうなら今日はアレだけど明日にでも次の森に行ってみようか?」
見切るのが早いような気がしないでもない。
でもシュシュとなさそうだなと感じているので肯定する。
「そうであるな」
その時ノワールの耳が反応した。
ショウカイもシュシュも気づいておらず、ノワールだけが気づいていた。
「うっ!」
ノワールがショウカイを押し倒す。
「……ててっ……ノワール、どうした…………」
うち受けた腰をさすりながら上体を起こすとまず目に入ってきたのは一変した周りの惨状だった。
うっそうと茂り日を遮っていた木々が切り倒されていた。
範囲は相当広く、ショウカイの周りがポッカリと空いて明るくなっている。
切り倒された木々の切り口は綺麗で同じ高さのところで切れている。
ノワールが押し倒してくれなきゃショウカイも胴体が真っ二つになっていた。
そのショウカイを助けてくれたノワールの視線の先には1羽のカラスがいた。
普通のカラスではない。
離れているのに羽ばたく風が強くあたるほどの大きさのカラス。
切れ長の目が左右2つずつあり外観も普通と異なっている。
強い魔力を放っていてショウカイは圧倒されて息が詰まりそうになっている。
ヤバい相手なのは明らか。
カラスが降りてきて一際強い風に体を持っていかれそうになる。
「〜。〜〜?」
カラスが何かの言葉を発する。
とりあえず言葉っぽいのだがショウカイにはなんて言っているのか分からない。
「〜〜、〜、あーあー、これでいいか?
良さそうだな。
どれが人間の言葉か忘れてしまったよ」
カラスは笑うように4つの目を細めた。
ショウカイの反応を見てカラスは自分が人の言葉を話せていると察した。
「私はヤタ。誇り高きハイクロウだ。
ウルフとアラクネを連れているとは不思議な人間だな」
ヤタは少し頭をもたげてショウカイに顔を近づけた。
今もノワールは噛み付かんばかりに唸り続けているがあまり刺激しない方がいいと思いショウカイは動かない。
「ふふふ、賢明だ、人間。
私が来たのは他でもない、その懐にいるアラクネが目的だ」
胸元のミクリャがビクッと震える。
4つの目は見えているのかショウカイの目ではなく服の中のミクリャを見ているように思えた。
「だから用があるのはそのアラクネの方だけだ。
どうだ、それともう1匹のクモを私に引き渡せば人間とウルフの命は助けてやる」
腕を広げるように翼を広げて、自分の尊大さを表す。
スッと視線を落とすとミクリャと目が合う。
どことなく不安そうに見える瞳がショウカイを見上げていた。
「……この子たちをどうするつもりだ?」
声が裏がえらなかっただけ偉いと思う。
ヤタがミクリャたちを平穏無事に届けますなんていうなら引き渡さないこともない。
「悪いようにはしないさ。
アラクネとそのクモを食ろうてやるだけよ。
この偉大なるヤタの血肉となれる。
これほど光栄なことなぞ他にはあるまい?」
ある意味予想通りの返事。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。