狙うもの6
階段を上がり借りている部屋の前。
この宿は珍しく部屋に入室不可の札をかけられるようになっている。
前の世界のホテルみたいなやり方をしている。
中にノワールやシュシュがいても宿の人間は入らないから安心である。
こっそりと、ゆっくりと、音が鳴らないようにドアを開けて中に入る。
仮に他の人が入ってきてもすぐにはバレないようにベッド向こうにいるように言ってある。
パッと見ても姿は見えないのでちゃんと言うことを聞いているようだ。
「なに? どうしたであるか?
主人のニオイといいニオイがするであるか?
いきなり何を言っているである。
ワタクシには何も感じられないである」
シュシュの声が聞こえる。
ノワールと会話をしている。
シュシュは何も感じられていないみたいだけどどうやらノワールの鼻までは誤魔化せないようだ。
まあ、気配を消しているだけでニオイは消せないからしょうがない。
けれど顔を上げて確認はしないので気配はやはり感じられていない。
ノワールは不思議とニオイがしていると思っている。
そろりそろりと2匹に近づいていく。
ミシリッ。
気をつけていたけれど床板が鳴ってしまった。
音に反応して顔を上げたノワールと目が合った。
パァッとノワールの目が輝き、次の瞬間会いたかった!とノワールがショウカイに飛びつく。
「うわっ! ちょ、ノワール、まっ……」
犬が人の顔を舐めることは親愛の証。
どこかで見たようなそんな話を思い出しながらショウカイはノワールのベロベロ攻撃を耐える。
「む? む?」
ベッドに飛び乗ったシュシュがノワールに押し倒されたショウカイを発見した。
同じ部屋にまで来られたのに全然気づかなかった。
ノワールがニオイ云々言っていたことは本当だった。
シュシュの感知能力はノワールほどでなくてもそれなりに自信があったというのに。
ニオイを感じることはあってもシュシュは嗅覚が優れていない。
なのでニオイで相手を感じるということに疑問があった。
ノワールは気配は感じられなくてもニオイでショウカイに気づいていた。
嬉しそうにショウカイを舐めるノワールを見てシュシュはニオイについて見直したのであった。
「美味い! 美味いである!」
さらにシュシュは人間についても見直した。
人間の作るご飯とやらは非常に美味である。
肉を新鮮なうちに食べるのが1番だと考えていた。
人間の料理を食べてシュシュの価値観が大きく変わった。
今では買ってくるなら生肉よりも焼いて味付けした肉の方がいい!なんて言うようになった。
ケローペを食べながらシュシュは喜びに震える。
シュシュとノワールはお食事系、ミクリャは甘い系がお気に召したようだ。
ミクリャに至ってはよほどケローペが気に入ったのか、シュシュとミクリャで分けてもらうつもりだった甘い系ケローペの4分の3ほどを食べてしまった。
半分でも自分の体より大きいのにどこに消えてしまったのか。
「わ、ワタクシの分が……」
「また買ってきてやるから元気出せよ」
「お願いするである……」
自分の分が少なくなってしまいショックを受けるシュシュだったが珍しく満足げにニッコリとするミクリャに文句はつけられないのであった。
そういえば笑うの初めて見たな。
「しかし言ったのはワタクシであるが本当に凄いものであるな」
おやつタイムも終わってまったりとした時間が流れる中シュシュが隠し身のマントをツンツンとつつく。
シュシュは隠し身のマントの性能に驚いていた。
ショウカイがマントを使うと目の前にいるのに気配が希薄になる。
これなら魔物を騙すこともできる。
食べ物だけでなく人間の技術にも改めて舌を巻く。
しかしボロ切れにしか見えない布を良く見つけ出したものだとショウカイの目利きにも驚く。
シュシュならこんな布要らないし、あっても洗ってミクリャの服にでもしていた。
見つけたのはミクリャだとショウカイは言った。
例えそうでもただの布だと思わなかったのだからすごい。
シュシュには間近で見ていてもこのマントの真価を見出せない。
「ともあれこれで探索を再開できるであるな」
「そうだな」
むしろ性能を試してみたいぐらいまで思う。
森の奥まで探索するのだから当然朝からの方が時間的にいい。
魔道具屋で散々詳細鑑定して目が疲れているしその日は休んで次の日にアラクネの巣探しをすることにした。
「もっとケローペなるもの食べたかったであるな……」
ーーーーー
ショウカイはアラクネの巣を探しにチェイの森を訪れていた。
薄曇りの天気で森の中はこれまで以上に肌寒く感じられる。
マントの効果をゴブリンで試してみる。
近くまで寄ってみてもゴブリンは一切ショウカイに気づかない。
そのまま襲いかかってもショウカイを認識するのに時間がかかって楽々とゴブリンを倒すことができた。
シュシュとノワールにも通じたのだからゴブリンには通じるだろうと思っていたから意外性も何もないが、凄まじい性能の高さは野生の魔物に通じることを確認できた。
マントは魔力を使うので常時発動はさせない。
敵よりもシュシュやノワールの方が感知するのが早いので敵を見つけてから使った方が効率が良い。
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