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アラクネもの7

「ま、待つである!」


 シュシュが慌てて腹に巻き付けた糸を切り、繭を優しく地面に置いた。


「あ、危なかったである……」


「一体どうしたんだよ?」


「産まれるのである」


「産まれる? 何が」


「見ていれば分かるである」


 そう言われてショウカイとノワールはシュシュと共に繭の様子を見守る。

 グッと繭が膨らみ真ん中に裂け目が出来る。


 繭の中から手が飛び出して裂け目を掴む。

 手に力が入って裂け目を広げていく。


「……女の子?」


「とう、である!」


「グァッ!」


 ショウカイの目に繭の中が見えたのは一瞬だけ。

 シュシュの顔面への体当たりにより碌に確認することもできなかった。


「待つである、見ちゃだめである!」


「何すんだ!


 見てろって言ったのお前だろ!」


「ちょ、ちょっと待つである」


 シュシュは繭に近づき、体で隠すようにして何かをしている。


「これでいいである。

 では待たせたである。


 こちらが新たなる女王、アラクネのミクリャ様である!」


 ババーンとシュシュが紹介したのはシュシュよりもさらに小さいサイズの女の子。

 繭から出てきた女の子は一瞬見えた時と違って胸と下半身に糸がグルグル巻かれていた。


 魔物に恥じらいがあるのかは知らないがシュシュがなぜ焦ったのかは分かった。


 ミクリャと呼ばれたアラクネはほとんど人間ような見た目をしている。

 小さいことと、背中からクモの足が生えていることを除けばである。


「まさか背足型アラクネのお姿で産まれるとは思ってもなかったである」


「アラクネにも種類があるのか?」


 ミクリャに穴が開くほど見つめられてショウカイは気まずさを誤魔化すように視線をシュシュに向けた。


「このように人間の形に近い姿は珍しいアラクネなのである。

 本来は人間に近いのは上半身の形だけで下半身は我々と同じような形なのである」


「へぇ〜……どうしてこの子は俺のことをずっと見てるんだ?」


 繭から出てきてからというもの、ミクリャはずっとショウカイを見つめている。

 ノワールが鼻を近づけてにおいを嗅いでもミクリャは微動だにせずショウカイから目を離さない。


「知らないのである」


「うーん、えっ? おっ?」


 ちょっと見つめ返してみよう。

 どうしたらいいのか分からないからそうしてみたらミクリャが消えた。


 次の瞬間にはショウカイの肩に乗り、手を広げてショウカイの頬に抱きついて自分の頬をくっつけた。


「ミミ、ミクリャ様!


 そのようなこといけませんである!」


 ショウカイには自分の肩の上のことなので良く見えていない。

 何かが触れている感覚があるぐらいで見ようとするとミクリャを顎で潰してしまうので見ることもできない。


 なぜなのかノワールがうなってこちらを、正確にはミクリャを見ている。


『ミクリャ

 性別:メス


 アラクネの幼体。

 未熟な状態で産まれることになったために繭の中で安定するのを待っていた。

 近くにいたあなたの魔力を得て成長して安定したので繭の外に出てきた。

 会話も聞こえていてあなたが守ってくれていたこと知っている。

 赤い悪魔は嫌いだがあなたのことは好き。

 人間であるあなたの影響を受けて背足型になった。』


 相手のために髪型を変えるなんて話聞いたこともあるが姿形を変えるなんて初めて聞いた。

 ミクリャに詳細鑑定を使って情報を見てみてショウカイはどうリアクションしていいか分からない。


 いつの間にやら魔力を取られていたようで全く気が付かなかった。

 この態度も魔力を分け与えたことによって親のように思ってくれているのか。


『ノワールが嫉妬しています!』


 見知った表示のようで見たことのない表示が現れた。


「んっ?」


 ノワールを見るとお座りをして少し頭を下げて恨めしそうにミクリャを見ている。

 わざわざ表示が出なくても何を考えいるのか丸わかりである。


「……おいで」


 ポンポンと膝を叩いてノワールを呼び寄せる。

 そろりと寄ってきたノワールはショウカイの横で丸くなり、顎を座っているショウカイの足の上に乗せる。


 頭を撫でてやると尻尾が振れて地面をパシパシと叩く。


 嫉妬深いなんて性格ノワールの中には無かったはずなのにな。

 マスター至上主義とかいう訳の分からない性格のせいだろうか。


 撫でていると嫉妬云々の表示も消えたので、ミクリャに手に乗ってもらって姿を確認する。


 小さいので分かりにくかったものの、よく見ると美少女である。

 背中のクモの足が非常にミスマッチなのに美少女な見た目をしているせいなのか不快感や気持ち悪さは感じない。


 手のひらサイズなのにちゃんと人の形をしていて不思議。

 あまりにも普通に人のような造形なので見ていると悪いことをしている気分になってきた。


 ほとんど裸の格好の女の子をマジマジと眺めているのは変態チック。

 シュシュが糸で体を隠してくれなかった完全なる変態であった。


 ミクリャはずっと無表情でショウカイのことを見つめている。


「シュシュ?」


「なんであるか?」


「これはどうしたらいいんだ?」


「ワタクシは知らないである」


「アラクネってみんなこんななのか?」


「それぞれ性格は違うである」


 撫でられて安心したのかプスプスと寝息を立てて寝始めたノワール。

 寝てしまったので良いだろうと撫でることやめて指先でミクリャを触ってみようとする。


 ミクリャは近づいてきた指先をじっと見ている。指先がミクリャのほっぺたに触れる。

 柔らかい。


「あっ……」


 声を出したのはショウカイ。

 ミクリャが触れたショウカイの指に抱き着いて顔を押し付けてきた。


 突然の行動にショウカイはいとおしさを感じて胸がきゅんとしてしまった。


「わたくしが守っていたのであるのに……」


 自分の方にミクリャが来てくれなくてシュシュはちょっとだけショックを受けていたのであった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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