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アラクネもの6

 人間1人、ウルフ1匹、クモ2匹の奇妙な旅が始まった。


 道を外れて森を歩く。

 道に沿って歩いていくよりもちょっとだけショートカットになるし、ノワールも寂しがらずに済む。


 シュシュたちにとっても森の方が良いみたいで上機嫌のシュシュはどこかで聞き齧った吟遊詩人の真似事をして歌を歌ったりしていた。


 森の中は歩きにくいという点以外ショウカイにとっても問題はなかった。


 時々森を出て道の位置を確認して自分たちがちゃんと進んでいるのか見つつ進行する。


 道ではなく森を通る以上時折魔物に遭遇する。

 大口を叩いていたシュシュよりもノワールの方が感知するのが早く、そこは問題といえば問題だったけれど大きな問題はなく進むことができた。


 避けられるものは避けて、そうでないものも先行をこちらが取って戦えた。

 ゴブリン相手ぐらいなら手慣れたものであっさりと片付けられた。


 戦えないと言っていた割にはシュシュもクモの糸を使って相手の動きを妨害したりしてサポートしてくれていた。


「思っていたほど嫌な感じでもなかったな」


 ショウカイは剣を振って血を払う。

 倒したのはコボルト。犬頭人体の姿をした魔物。


 獣人のなり損ないなんて言われ方をすることもあるそうだけれど知能レベルは完全にケモノで人と呼ぶにははるかに及ばない。

 ノワールと重なって戦いにくいかもなんて考えていたのに全くそんなことはなかった。


 顔は確かに犬っぽい感じはするのだがどこか犬とは違う感じがする。

 やはり魔物は魔物の顔つきなのである。


 何かを切ること自体への躊躇いはあってもコボルトだから躊躇うといったことは思わなかった。


 ノワールの方が何倍も可愛い。


 コボルトも一応耳を持っていけば討伐証明にはなるのだが血で濡れた袋を持って旅をするのは嫌なので耳を取ることはしなかった。


「さて、ちょっと気を引き締めないとな」


 森が途切れて草原が広がる。

 見渡しがよく、魔物はあまりいなさそうなのだが代わりに人と遭遇しそうである。


 早めに見つければノワールは離れて潜伏スキルで隠れるので問題にはならないと思う。

 だから少しでも人影が見えたら警戒しなきゃいけない。


 魔物よりも人を警戒する時が来るなんて。


 しかしそんな見通しの良い草原も日が暮れてくると森と変わらない。

 街灯なんてものもないので森だろうが草原だろうが真っ暗になるので見通しが立たなくなるのはどちらも同じなのだ。


「ここがいいかな?」


 どうしようか悩みながら歩いていたら大きめの岩があった。

 近くに焚き火跡もあるし足を止めるにはちょうどよい場所である。


 岩をうまく使えばそんなに逃げなくても視界から外れて隠れることができる。


「なあ、シュシュ。1つ聞いてもいいか?」


「何であるか?」


「話したくないならいいんだけどさ、お前どうして足が少ないんだ?」


 シュシュは本来あるはずの数から左右一対の足が少ない。

 聞いて良い話なのか迷ったので触れてこなかったのだが思い切って聞いてみた。


 人ならどれぐらいの感覚になるのか。

 指なのか、手足なのか、腕なのか。


 どれにしても、何の理由があるにしても、気になっている以上詳細鑑定してしまうとシュシュの意思に関係なく知ってしまうかもしれない。

 勝手にシュシュの過去を詳細鑑定で知るくらいなら聞いた方がいいと思った。


「なんてことはないのである。

 逃げるために切り捨てたのである」


 シュシュは若い頃から相当体の小さいクモだった。

 なので自然と素早く逃げることに長け、そのために他のクモよりも長生きすることになった。


 獲物は確実なものを狙い、危険は徹底的に避けた。

 そうしてシュシュは進化を遂げたが体は相変わらず小さいままだった。


 しかしシュシュはある時冒険者に見つかった。


 長く生きた強力な魔物の体内には魔力が凝縮された魔石が生み出されることがあり、多くの魔力を含み高値で取引される魔石はどの冒険者も狙っているものだった。


 シュシュは強力な魔物には程遠いが長く生き、魔力を体内に溜めていたので魔石を持っていると考えられた。

 サルモスのような魔力感知に長けた冒険者を先頭にしてシュシュはしつこく冒険者に追いかけ回された。


 とうとう逃げ切れなくなった時、苦渋の選択でシュシュは左右の足を一つずつ切り落として相手の目を欺き逃げた。

 冒険者はそれを魔法で消し飛んだシュシュの残りカスだと思い、魔石を探し回った。


 互いが互いに魔石を持っているのではないかと疑い、争い、シュシュのことは忘れられた。

 そのおかげでシュシュは逃げ切ることができて、今は亡きアラクネに拾われたのだそうだ。


「進化すればまた生えてくると思ったのであるがそう上手くはいかなかったである。

 不便なことはないし、問題もないである」


 なんてことはない。

 最初にそう言った通り、シュシュは割と重たい話をサラリとしてみせた。

 軽く語る内容ではなかったのに。


「むしろ特徴付いて良いぐらいに……あぁ! 熱いである!」


「ど、どうした!?」


 なんだかしんみりした空気になっているとシュシュがいきなり悶えはじめた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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