叫べ!4
ほんと、まあまあ不思議な生き物だ。
「ここです」
案内してくれる魔人族が立ち止まる。
木に布が結んであって近くにマンドラゴラの群生地があることを示している。
マンドラゴラが怯えてしまうので魔人族はそこから先には入れない。
大きな袋を渡されて魔人族ではないショウカイたちはそのまま進んでいく。
「仲間の気配を感じますー」
ついでにパナノはマンドラゴラに対する交渉役でもある。
いきなり知らない人が現れて場所を移ってくれと言われても受け入れられない。
同族であるパナノの言葉ならマンドラゴラたちも大人しくいうことを聞いてくれるかもしれない。
マンドラゴラは日の光を好むのでしっかりと日が当たるところに生えている。
小規模と聞いていただけあって見えたマンドラゴラたちの数は多くない。
これまで見てきた群生地は穴からするとかなり多かったので比べると少ないなと思ってしまう。
ショウカイたちが近づいてくるとマンドラゴラたちがざわつき出す。
少し動きを止めてマンドラゴラが落ち着くのを待つ。
いくらスキルで気に入られるとしても急接近してはその前に叫ばれてしまうかもしれない。
ざわつきが止んできたらショウカイはパナノを袋から出して手のひらに乗せる。
「みなさーん、この人はだいじょーぶでーす!」
敵意を持って叫ばなきゃパナノの声はとても綺麗だ。
「近づいても大丈夫ですかー?」
「良いわよ、こっちにおいで。
そっちの人間さん……人間さん?
もどうぞ」
若い女性のような声で返事が返ってくる。
ショウカイではなくノワールやアステラを見て微妙に人らしくない気配を感じたが敵意もないので接近を許可してくれた。
「はじめまして」
「はじめ……まして。
あらぁ?
私の言葉分かって?」
「はい。
ちょっとした秘密があって」
「そうなの」
近づいてみるとマンドラゴラの真ん中にやたらセクシーな形をした個体がいた。
そのマンドラゴラがリーダーらしく答えてくれた。
てっきりパナノがジェスチャー的なものをして簡単な意思を伝えているのだと思っていたら普通に会話が通じていることに驚いた。
不思議には思ったけどマンドラゴラが一緒にいるし怪しいことはないのでサラッと受け入れてしまった。
そもそも魔物の言っていることの意味が分かるということは人がそれをやらないだけで、出来ないことでもないというのが魔物の中での認識であったからだ。
パナノをマンドラゴラたちの中に下ろして説明をお願いする。
小さくて子供っぽいパナノだけど意外と頭はいい。
他のマンドラゴラの群生地で起きたことと場所を移って守らせてほしいというお願いをしっかりと伝えてくれる。
住み良いからここにいるわけで移動してくれ、その上他のマンドラゴラと一緒に暮らしてほしいと言われてもすぐにはハイと言えない。
パナノの説明を受けてマンドラゴラたちがザワザワと相談し出す。
もしダメだったらどうしようかなと考えながらマンドラゴラの会議を待つ。
セクシーマンドラゴラが意見の取りまとめを行なって話を進めていて、漏れ聞こえる感じでは肯定的だった。
「……分かったわ。
ただし条件があるの」
「条件?」
「私たちしばらく根っこのお手入れしてないの。
だからお兄さんにお手入れしてほしいわぁ」
「それならもちろん。
こちらからもお願いしたいぐらいです」
「あら。
それはステキなお誘いね」
「……光栄です」
セクシーマンドラゴラにちょっとドギマギしながらもマンドラゴラの移住の許可は貰った。
「じゃあ掘っていって袋に入ってもらいます」
「優しくお願いね」
「みんなもお願い」
小さいスコップを出してみんなにも渡す。
マンドラゴラの機嫌を損ねないように丁寧に掘っていく。
「くっ……この姿じゃなきゃ楽なのに」
ちまちまと掘っていく作業は根気がいる。
ノワールはウルフ姿になって前足で掘れれば簡単に掘っていけるのにと口を尖らせる。
「こんにちわ」
「こんにちは」
ミクリャは意外と土彫りを楽しんでいる。
ただマンドラゴラに対しては丁寧だけど自分に対してはちょっと雑なので土だらけになっていた。
後で綺麗にしてやらねば。
ニコニコとミクリャが挨拶するとマンドラゴラも優しく返してくれる。
「根っこは後で取るのでひとまず袋の中に入れますね」
「はぁーい」
そうしてショウカイはマンドラゴラを掘り終えると多少ずっしりとなった袋をノワールに持ってもらって、みんなのところに戻った。
ーーーーー
ショウカイたちは何ヵ所か小規模なマンドラゴラの群生地を巡ってマンドラゴラたちを集めた。
掘ってマンドラゴラを回収して、一度戻って根っこを切り取って、残っている大規模群生地に移し替える。
よほど良い土地でもなければ意外とあっさりと移住を受け入れてくれて助かった。
作業は魔人族にはやれない。
ショウカイたちにしかできないのでロドラレアは申し訳なさそうにしていた。
魔人族は人を集めて群生地を囲むように配置して常に距離を空けながらも見張れるようにして守っていた。
2つ目の群生地を襲われて以来黒いローブの連中は見かけていない。
相手も諦めてくれたらいいのだけどとショウカイは思っていた。