不審な影1
擬態スキルが解けてノワールがテントの中でウルフに戻っちゃったりしたけどバレることもなく何とかやり過ごせた。
ジザルデスもノワールも後遺症もなく、多少頭が痛むぐらいで済んだ。
みんなと相談した結果マンドラゴラのパナノはどこか他の群生地に移した方がいいだろうということになった。
けれどマンドラゴラは魔人族をなぜなのか恐れている。
このままでは運べないと思っていたけど袋か何かに入れて直接接触するようなことがなければ大丈夫らしいと管理の魔人族が教えてくれたのでそうすることにした。
パナノは小さいので袋のサイズにも困らない。
土の中にいたから暗い袋の中にいても特にパナノは苦にならない。
むしろ暗い方が落ち着く。
「くっ……頭が痛む……」
「大丈夫?」
「ああ……ほんと死んだと思ったよ」
濡れたタオルを渡してやるロドラレア。
状況が状況だからロドラレアが近くにいてもジザルデスは気にしていない。
「イブシュレアさんは2人をくっつけたいんですか?」
2人の様子を見てニンマリとしているイブシュレア。
ゴツいおじさんがニンマリしているのはなんかちょっと可愛らしい。
イブシュレアは昔からロドラレアの父親である族長に仕えている人でロドラレアが生まれてからはずっとロドラレアの側にいる。
未婚のイブシュレアにとってはロドラレアは娘みたいなもので幸せになってほしいと思っている。
昔はロドラレアがジザルデスを好きということでジザルデスに厳しく当たったこともあるが、ジザルデスは悪い子ではなく真面目で非常に自分の一族を大切にする男なので今は認めてくっついてほしいとすら思っている。
「……お嬢本人には言えない話だがな」
ロドラレア本人は族長になると言っているが正直な話ロドラレアが族長になることは難しい。
ロドラレアの能力が族長という座に対して足りないものであるとはイブシュレアは思っていない。
けれどロドラレアの2人の兄も優秀なのだ。
戦闘部族であるので戦いにおける強さももちろん求められる。
2番目の兄とは良いところ。
1番目の兄はロドラレアでは敵わない。
族長としての政務能力や人格も2人の兄はロドラレアに勝るとも劣らない。
3番目になるロドラレアが現実的に族長になるのは難しい話なのである。
族長になれなかったとしてもそこで終わりではない。
ちゃんと能力があれば職責が与えられて路頭に困ることはない。
でもどうせなら幸せになってほしいと思うのも親心である。
ジザルデスはほぼ間違いなく将来ヘビス族の族長となる。
ヘビス族は小規模ながら薬を作り安定していて一族の繋がりも強い。
ロドラレアならすぐに馴染めることだろう。
どちらが良いとも言えない話だけど将来隣にいたいと思える伴侶が隣にいる方が良いはずだとイブシュレアの個人の考え。
「なんだかんだジザルデスもお嬢を嫌っているのではないからな」
男女の仲ではないにしろ気の置けない関係であることは確か。
このまま発展してくれればいい。
「そうなれば俺がお嬢に振り回されることも減るかもしれないしな……」
ちょっとだけ落ち着いてほしいという思いもある。
「その点ショウカイ殿は……羨ましい限りだ」
ちらりとノワールやアステラに目を向ける。
若い美人と旅をしているのだから何もないと言う方がおかしい。
ミクリャもいるのでちょっとそこら辺は気になる。
けれどショウカイが近くにいない時のミクリャを見ていてゾクリとする目で見返される時がある。
ショウカイ自身不思議な人で底が見えないのでミクリャも只者ではないとイブシュレアは思っている。
もしかしたら小さい子供に見えて大人な種族な可能性、ドワーフなどの血が入っていることだってあるのであまりそこには触れない。
「もう少しで次の群生地に着きます」
パナノを移すために次の群生地に向かう。
生息地の中でも3つ目に大きい群生地で出来るならここでもマンドラゴラの根っこを切ってほしいなんてこともお願いされていた。
「……どうかしましたか?」
案内してくれている管理の魔人族が突然立ち止まった。
「おかしい……」
「あっ!
ちょっと!」
動揺したように目を泳がせた管理の魔人族が走り出す。
みんなも慌ててそれを追いかける。
「な……そんな!」
「こりゃあ……」
3つ目に大きな群生地。
当然そこには多くのマンドラゴラがいるはず。
しかし目の前にはマンドラゴラはおらず、穴だらけになった地面が広がっているだけであった。
管理の魔人族が走り出したのは異変を感じたから。
マンドラゴラを保護するために侵入者を検知しようと魔法を設置していた。
そのはずなのに魔法が無くなっていた。
異常が起きていることを察して走り出したのである。
「クソッ!」
悔しがるロドラレア。
他の群生地まで被害に遭ってしまった。
パナノがいた群生地と同じようにただただ掘り返された跡があるだけで他には何かの痕跡もない。
「お嬢!
あっちです!」
目に魔力を集めて視力を上げて周りを警戒していたイブシュレアの目が不審者の姿を捉えた。