アラクネもの5
「ワダエという、まち?について調べたいんですけどどこにあるのか分かりますか?」
この世界にも地図はある。
やや高価にはなるけど買おうと思えば冒険者ギルドにも置いてある。
けれども買える地図は大体国内図である。
多くの冒険者は活動しても1国内、もっと狭いことも普通である。
なので広い範囲の地図を必要とする人は多くないためにそうした地図は置いていない。
何も何がなんでも地図を買わなきゃいけないこともない。
ほとんどの人は地図を買わない。
ならどうしているのかと言うと見せてもらい、手製の写しをもらうのである。
見るだけなら料金も高くなく気軽に利用できる。
しかも場所がわからなくても言えば専門のスタッフが調べてもくれる。
ショウカイはこれを利用してワダエの場所を調べようと思った。
そんなに遠くはないと言っていたが調べなきゃ分からない。
近いならさっさと行ってもいいし、遠いなら断念することも視野に入れて方法を考える必要がある。
「お待たせいたしました。
ワダエですと隣の国の都市の名前になります。
地図を閲覧なさいますか?」
「お願いします」
地図は一応高級書籍扱いなので別室保管になっている。
大きなテーブルの上にはすでに地図が広げてある。
「今いるのがここ、タウモーズでこちらがワダエになります」
冒険者ギルドの職員が地図の中の1つの都市を指差す。
今ショウカイがいるタウモーズでそこから指を動かしていき、別の都市で止まる。
職員の指先を目で追う。
タウモーズから南西の方角、国境を越えて隣の国に入ってすぐにあるのがワダエの町であった。
北側がユニウス王国になり、そこからなんかしてきて今タウモーズにいる。
チラリと地図上で見るとユニウス・タウモーズ間よりもタウモーズ・ワダエ間の方が短かく半分ほどの長さである。
道も大きめな道が通っていて迷うこともなさそう。
「ではここからワダエまでの地図の写しをお願いします」
しかし近いと行っても半分くらいの距離なら10日ほど。
1日2日の距離ではない。
ノワールを連れては道を堂々と歩くわけにもいかないしどうしたものやら。
地図の写しは早くても明日になると言うのでショウカイは依頼でも確認して帰ることにした。
軽く見ただけでサルモスが暴れ回っていることが分かる。
いくつもの依頼が取り下げられて依頼の紙で埋め尽くされていた壁が穴あきだらけになっている。
シュシュが逃げ回っていたせいなのか色んなところで被害というか影響があるようだが、細かく見ると東の森系の依頼が激減している。
浅いところの依頼はもちろん、奥まで行くと言ったので高ランクの依頼も無くなっていた。
この状況なら低ランクの冒険者は非常に困ることになるだろう。
冒険者として生活したいなら拠点を移すことも視野に入れなきゃいけないレベル。
ショウカイとしても厳しく、とりあえずワダエ行きとなる理由が1つ出来た。
別に魔物を倒して回ることは悪いことではないし、むしろ賞賛されることなのかもしれない。
けれどもこれで生活している人もいるのだし低ランクの依頼は一掃されてしまっては死活問題になる人もいるだろう。
魔物が減ってよかったね、だけじゃ済まない問題があるのだと思った。
今は依頼を受けるつもりはないからショウカイに問題は生じないけれど人でも赤い悪魔なんて言いたい人もいるだろうな。
現在の状況は分かったので冒険者ギルドを出る。
ノワールのためのお肉を買っていくのでもはや顔馴染みの客になってしまった肉屋さんで肉を買って帰る。
「お任せくださいである。このサバイバルマスターシュシュが付いておりましたらなんの心配もないである!」
ワダエの場所が分かったこととおよそ人の足で10日ほどかかることを伝えたシュシュの第一声。
こんなに信用できないこと他にあるだろうか。
「このワタクシ、敵を察知することに関しては長けておりますので戦いはからっきしですが戦わないようにするならお任せくださいである」
じゃあ夜の不寝番は任せられそうだな。
実際に行けなくもなさそう。
地図を見た感じ小規模な町が2つほど間にあるので10日間全て野宿ということにもならないし補給も問題ない。
「どうしようかな……」
行けなくもなさそうという微妙さ。
悩みどころな微妙さである。
「ん? はい。
みんな隠れてろ」
ノック音。ドアを誰かが叩いた。
「お休みのところ申し訳ございません。宿の者ですが」
ドアを開けて対応するけれど中に入れない。
今入られるとクモとオオカミがお出迎えしちゃう。
「何か御用でしょうか?」
「その、大変申し訳ないのですが、お客様の、おニオイが……」
「ニオイ?」
「少しばかり野生的なおニオイと申しますか、それが客室係がどうしても気になるようでして……」
とても言いにくそうに切り出した従業員。
下手すると怒られる話。最悪の場合こんな臭いをさせている人なら殺されるかもしれない。
賭けに負けて送り出された宿の従業員はどうにか言葉を選びながら要件を伝えた。
「は、はは、すいません……ここのところちょっと忙しかったので」
ひきつった笑いと曖昧な返事でどうにか誤魔化そうとするショウカイ。
もうすっかり慣れてしまっていて気づいていなかったがノワールのワイルドな香りがベッドなどについてしまっていた。
ワダエに行こう。
この宿にもういられないと思ったショウカイは出発することに決めたのであった。
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