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可愛い根っこを追いかけて1

 こんなことなら隠し身のマントは自分で身につけときゃよかったと思ってしまうのはしょうがない。

 ショウカイも聖人君子でないのだから。


「出ろ」


 牢屋が開けられて魔人族に槍を突きつけられるショウカイ。

 手を鎖で拘束されたショウカイはノソノソと立ち上がって言われた通りに牢屋から出る。


 ほとんど当たりそうなぐらいに槍を突きつけられながらショウカイは歩いていく。

 いや、時々背中がチクッとしているから当たっている。


「ショウカイさん……!


 すいません、こんなことに。


 クッ……」


 ついた部屋ではジザルデスを含めたみんながいた。

 隠し身のマントを身につけたアステラもいてその胸元からスーやシュシュも心配そうに顔を覗かせていた。


 その部屋には武装した魔人族の男性もいた。

 ジザルデスはその男性を睨みつけている。


「もういいでしょう?


 持っていないことは確認されたはずだ」


「今持っていないことが確認されただけだ」


 視線だけで人が殺せてしまいそうなほどに睨みつけられても魔人族の男性はどこ吹く風。

 ノワールはショウカイに槍を向けている魔人族を睨みつけていて、今にも襲いかかりそうなので目で制する。


 ーーーーー


 こうなったのは少し前のこと。

 さまざまな視線は向けられながらもなんとか旅を続けていた。


 実際に手を出してくる輩は酔って絡んでくるようなやつぐらいだった。

 ほとんどの場合ジザルデスで矢面に立って物事を進めてくれたので問題も起きなかった。


 宿屋に拒否されたとか食料買うのにぼったくり価格を提示されたとかはあったけど。

 そしてだいぶ北上してきてマンドラゴラの生息地一帯を支配している部族の領域に入った。


 他の部族を吸収して大きくなった部族で支配域が広く権力も強い。

 戦闘部族であって吸収した部族も戦闘部族が多い。


 マンドラゴラの生息地は元々は狩猟系の部族がいた土地のものだがその部族に吸収されたという経緯がある。


「北側にある国とヨーキラ族は仲が悪くて……


 それに戦闘部族の中でも気性が荒い人が多い。

 なので人族に対してもあまり態度は良くないかもしれません」


 戦争になっている都合上戦闘部族の人が多く戦場に動員されている。

 残された人たちの不満は非常に大きなものになっている。


 特に北のヨーキラ族はさらに北にある国と仲が良くなく、こうした事態になると緊張は他とは比べものにならない。

 アステラは隠し身のマントの上からクロークを羽織って深くフードを被る。


 ショウカイも同じくフードを被って顔を隠して町に入った。

 一見何事もないように見える街だけどよく見ると若い人が少なくて活気が少ない。


 街の治安を維持するためか巡回している警備兵のような人が歩いている姿が頻繁に見られた。

 製薬会で持っている宿屋に宿泊することになった。


 薬や薬剤の入手や流通の都合から多少の営利も目的として大きな都市には製薬会で宿泊施設を持っていることがある。

 ショウカイたちが訪れたのはキーヨラ族の領域にある中でも大きな中心都市で製薬会も宿屋を設けていた。


 マンドラゴラを取りに行くのは製薬会からの依頼扱いなので便宜を図ってくれる。

 少なくとも宿泊を拒絶されることはない。


「ええと……ちょっと場所が分からないので聞いてきます」


 来たことなくて正確な場所もわからないのでパッと案内することもできない。

 ジザルデスが人に宿の場所を聞きに少し離れた時だった。


「あっ、ごめんな……」


 ショウカイの足元をボールが転がっていき、それを子供が追いかけてきた。

 ボールだけを見ていた子供は走ってきてショウカイにぶつかった。


 衝撃はあったけれど互いに転ぶようなこともなく子供は謝罪しようとショウカイを見上げた。

 いかにフードを深く被っていようと下から覗かれては顔は丸見えだ。


「……ひ、人族だ!」


 ここでむしろ顔を隠していたのがアダとなった。

 町中に佇む怪しい人族。


 子供はとっさにショウカイを指差して大きく叫んでしまった。

 顔を隠した人族がいたらショウカイが魔人族でもスパイを疑う。


 子供に声をかける間も無く周りの魔人族の注目が集まる。

 ヤバいと思ったが逃げるのも怪しいしどうしたらいいのか迷っている間に巡回していた警備兵が飛んでくる。


「ノワール、アステラ、何があっても大人しくしてるんだぞ」


「ですが……」


「いいから!


 危なくなったら暴れさせてあげるから」


 ショウカイはスーとシュシュの入ったリュックをアステラに投げ渡す。

 もう騒ぎになっているけどこれを暴力事件に発展させてはならない。


 ノワールとアステラから少し離れるショウカイ。

 2人の警備兵に槍を突きつけられて大きく両手を上げて敵意のないことをアピールする。


「人族……このようなところで何をしている!」


「何と言われましても……強いて言うなら仕事……」


 どのような目的だと伝えても怪しい。

 こんな時期に観光はまずあり得ないし仕事だってのも結局同じこと。


 相手を納得させられる正当な理由など説明のしようがない。


「怪しい奴め!


 どうせ連中の一員だろ!」


「取り調べを受けてもらう!」


 事態に気がついたジザルデスが走ってくるがもう遅い。

 ショウカイは槍を突きつけられ両手を上げたまま連行されていった。


 我慢してくれたノワールはよくやってくれた方だとショウカイは思った。


 ーーーーー

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