アラクネもの4
仮にシュシュを守ってサルモスと戦ったとしても勝率は1%もない。
助けて欲しい内容がそんなことならお断りだ。
「見つかったのでワタクシたちの同胞が囮になったである。
その時赤い悪魔がこう言っていたである。
『森は魔力を放つものが少ないからな、片っ端から魔力を感知して潰していけばお前らなんて探すのは難しくないんだよ!
ま、町中なんかの方が探せないかもな』
と」
なるほどサルモスは魔力を感知する能力に長けていてとりあえず魔力を感知して魔物を探し出して倒しているのか。
しかし今の話からすると助けというのは……
「つまりまさかだが」
「匿って欲しいのであーる!」
「断る!」
「なぜであるか!?
このいたいけな老グモとまだ産まれて間もない子グモを助けて欲しいのである!」
「産まれて間もない子?」
「こちらのことであーる」
シュシュは足先でちょいちょいと自分の腹の背中側を指した。
気になってはいた。シュシュの腹の背中には糸で巻き付けられた繭のようなものが乗っていたのだ。
「亡き女王が残した子である。
ワタクシたちはこの子を守るために逃げているのである」
「そうか、それは気の毒だけど……」
匿えとは単に隠せということでなく人の町中に連れて行けということなのが先ほどの言葉から分かる。
そうするとだ、ショウカイは得体の知れない魔物を町中に招き入れることになる。
もしもシュシュが非常にずる賢く、人を騙すことに抵抗もない二枚舌な魔物だった場合、ショウカイは町全体を危険に晒すことになる可能性がある。
「お願いなのである!
ご飯もちょっとお肉があればワタクシたちは満足なのである」
「何気に飯までたかるんじゃぁないよ!
それに何してるんだ?」
「人間の作法では膝を折り、頭を下げるのが最上の願い方だと聞いたのである」
ショウカイからするとただ丸まっているようにしか見えない。
どんな風にお願いされようともダメ。
ダメなのは分かっているのに何故か気になってしまって強く断りきれない自分がいる。
「………………少しでもだ」
「ほっ?」
「少しでも言うことを聞かなかったり悪いことをしたらお前らのことを赤い悪魔に引き渡すからな」
冷徹な人間なつもりはなくても冷静に判断を下せる人間なつもりはあった。
正しい判断は人間としてシュシュのお願いを断ることなのに、考えれば考えるほど何が正しいのかわからなくなってきた。
理性の内側にある本能が理性を塗り潰して助けろと言っている。
ずっとお願いポーズらしい丸まり続けていることに同情したのかもしれない。
産まれて間もない子という言葉にほだされたのかもしれない。
危険な判断の可能性もあるけれど自分で自分に逆らうことができなかった。
「ありがとうなのである。
ええと、人間様のお名前お聞きしてもよろしきであるか?」
「ショウカイだ」
「ショウカイ様! 感謝致すである!」
「はぁ……」
一層体を丸めるシュシュ。
悪い魔物でないことを祈るしかない。
奇妙なことになってしまったのだとため息が漏れる。
とりあえずサルモスが近くにいることだしショウカイは宿に戻った。
シュシュはショウカイに従属していないので召喚スキルで呼び出せない。
最初は服の中に入って付いてこようとしたのだが当然これを拒否して持っていた予備の袋の中に入ってもらった。
ちゃんと大人しくしていたので誰にもバレることなくシュシュは人間の町に進入することができた。
シュシュにはノワール用のお肉を小さく切って分け与えて夕食後、ベッドの上で今後についての会議が始まった。
ひとまず人間の町にシュシュは隠れたけれどこの先どうするのか。
「あのぅ……それについてもお願いがありまして、である」
「ほほぅ? お前らには遠慮というものがないのか?」
「もはや、このワタクシだけではどうにも出来ませんである。
食えぬ遠慮やプライドは捨てて唯一の希望にすがるしかないである!」
「もう乗っちゃった船だ。
お願いって何をさせるつもりだ?」
人を勝手に唯一の希望にするなと言いたいところだが実際シュシュにはこれ以上どうしようもないのだろう。
乗りかかった船どころか完璧に出港してだいぶ経っているぐらいのところまで来ている。
もうため息しか出てこない。
「ワタクシたちは横のつながりが強い種族なのである。
ナワバリ争いこそしたりもするのであるが基本は自分の領域を持っていてその中で狩りをして暮らし、他の領域のものとは仲良くしているのである」
「へぇ」
意外な生態。
魔物とだけ聞くと人に害なすもののイメージが先行しているけどそうではないものもいるのかもしれない。
「亡くなられた女王様には実の姉がおるのである。
そのお姉様の方も自分の領域を持っているのであって女王様はそのお姉様を訪ねてゆけとワタクシたちに言ったのである。
なのでワタクシはそこに向かうつもりだったのであるがあの赤い悪魔が追いかけ回してくるせいで逃げ続ける日々!
森以外では身を隠すこともできないので移動もできなかったのである」
魔物から悪魔悪魔と言われているのを知ったらサルモスはどんな顔をするだろうか。
案外喜びそうな気もする。
「女王様のお姉様のところにワタクシたちを連れて行って欲しいである!」
またまた体を丸めるシュシュ。
これは人でいう土下座なのだろうか、それとも両膝をついて懇願している感じなのだろうか。
シュシュが聞いたものは一体なんだったんだろうと気になるところだがシュシュにとっては必死のお願いである。
「ちなみにどこなんだ?」
「そう遠くはないと聞いているである。
人間の町……確かワダエとかいう町の近くにある森の奥深くだった、はずなのである」
「なんだかフワっとしてる情報だな」
「いきなり襲われて言葉少なに言われたのだからしょうがないのである」
「ワダエか、分かった。調べてみるよ」
そんなに遠くないなら連れて行ってやってもよい。
町中でずっと一緒にいるよりは森に返した方がずっといい。
「お前は気楽でいいな、ノワール」
お肉を食べてお腹がいっぱいになったノワールはベッドの上でひっくり返って寝ている。
野生が早くも無くなったノワールを見てショウカイはまた盛大にため息をついた。
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