魔人族の国をゆく1
製薬会という組織がある。
その名の通り薬を作る人が集まった組織で魔人族に流通する薬の承認や管理を行なっている。
人族の薬は素人でも作れるが調合士や錬金術師といった職業の人が作ったものが効果が高く、そうした人が作ったものは高価である。
魔人族はそうした職業なんかないのでどの薬も効果が一定であるように作り方などをしっかりと定めていて資格を持った人しか薬を作れないようになっている。
新しい薬の製法を作り出すと製薬会に申請をして製法の再現性や薬の効果などを実験して認められると世に新たな薬として出すことができる。
薬の売値には一部の税金が上乗せされていて製法を作り出した人にはそうした税金が特許料として還元される仕組みになっている。
治療を担当する魔法使いもいるが安定して効果の高い薬も安く手に入るのが魔人族の国である。
ヘビス族はそうした薬を作ることを生業としている一族でいくつか病気に関する特効薬を作り出した部族でもある。
カレンデスもそんな家業でやる製薬をよく学んで白点病の治療薬を研究している1人だった。
「狭くてすいません」
「いえいえ、乗せていただいてありがとうございます」
ショウカイの手助けをするついでに色々と用事もすませる。
ショウカイが持ってきたカレンデスが生み出した新しい薬の製法の申請とか作った薬の販売や特許料の受け取りとか色々やることもあった。
だからジザルデスも付いてくることになったが身一つとはいかない。
荷馬車に薬を載せてショウカイたちも余ったスペースに乗せてもらった。
行きは薬という繊細なものを運ぶので護衛の人たちも何人か付いて、馬車に乗っていることに居心地の悪さもあったけどすぐに慣れてきた。
「ノワール?
アステラ?」
「あまりスペースがありませんから」
「ノワールさんがやってるならいいでしょう?」
ノワールとアステラはショウカイにピタリとくっついて馬車に乗っている。
薬を載せている余りのスペースだから余裕はあまりないけどそんな密着しなくちゃいけないほどでもない。
フリフリと尻尾を振っているノワール。
わざと密着しているのは分かっているけど嫌でもないので強くは言わない。
最初はちゃんと少し離れていたアステラもノワールを見習っていつの間にかピタリと密着しているようになっていた。
そしてミクリャはショウカイの膝の上にいる。
もうこの大きさだとリュックの中に隠れることもできないがいつの間にか背中から生えるクモの足は隠せるようになっていたみたいである。
いつかワチカミが人に擬態できるはずだと言っていたのがそうなったようだ。
「ん……もっと触ってください」
手持ち無沙汰になってノワールのミミに手を伸ばした。
分厚くてフワフワの毛が生えているノワールのミミは触っていて気持ちが良い。
ノワールも触られて気持ちがいいのか目を細めて頭をショウカイの方に寄せる。
「……私の耳も触りますか?」
「触ってどうするんだよ?」
とか言いつつ触ってみる。
アステラは意外と耳たぶが厚くてもちもちしてる。
「あっ、意外と触ってもらうと気持ちいいです……」
「ふむ、触ってるのも悪くないな」
耳たぶをもちもちする行為はちょっと変態臭はするけど思いの外悪くない。
ノワールに乗れたらもっと速いのにとか思うけど今はのんびりと馬車に揺られて進むしかない。
大人しく馬車に乗って寝ているぐらいしかやることがない。
魔物襲撃の恐れがあるので早めに足を止めて野営の準備をする。
こうして移動するのもヘビス族は慣れたものでテントなどの設営も早い。
「ふはぁ……きゅーくつぅー」
人目があるのでスーやシュシュは出てこられずリュックの中に隠れているしかない。
シズクはショウカイの体にまとわりついているだけでハッピーらしいのでそれでいいようだけどいつもは自由に飛び回っているスーだけはストレスが多そうだ。
「しばらく我慢してくれ」
「私はバレてもいーんでないのー?」
「まあ妖精はそんなに警戒されるものじゃないからな。
でもいざという時にスーが切り札になる可能性があるからな」
誰にも知られないカードがあるのは大切だ。
職業がない魔人族はチャレンジ精神も旺盛で人族よりもさまざまなことに寛容であるけれど魔物が敵であることに変わりはない。
むしろ職業がない分魔物を使役できることに理解ができない可能性もある。
ギリギリまでスーやシズク、シュシュの存在は隠しておく。
「まあそんな風に言われちゃしょうがないね。
テントの中ならこうして出られるし我慢するよ」
「なんなら昼間は俺の服の中にいるか?」
「そーしようかな?
シズクもいーい?」
「もちろんです。
歓迎しますよ」
「やりぃ!」
「ワタクシは別に狭いところ大好きであるから大丈夫である」
他の人がいない旅と違って他人がいると制約もある。
シズクは基本的に何もしなくてもいいみたいだけどスーなんかは割と自由にしているのが好き。
小さいし妖精は他の魔物と扱いがちょっと違うので自由でもそんなに弊害はないけど逆に妖精がいると知られると妖精を狙ってくる輩も出るかもしれない。
そうした性癖の人もいるしカレンデスもヘビス族に知られると危ないかもしれないと言っていた。
スーを殺すとかじゃなくて妖精の粉は薬の材料にもなるので興奮したら過剰に妖精の粉を要求してくる人もいるかもしれないと言われたのだ。
カレンデスもショウカイが見ていないところでスーに粉をお願いしていたけど断られていた。
ショウカイが普段から飯に入れていると聞いて気絶しそうにもなっていた。
スーとしてはそれぐらいに扱ってくれるショウカイが好きだった。
時代や妖精たちによって妖精の粉の入手難易度が変わるのでどれだけヘビス族の人が興味を持つかは不明だけど外に出ても落ち着かなくなるのはスーも嫌だろう。
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