カレンデスの故郷2
「ようこそお客様。
私がイワンデス・ヘビス・ジョンジャックです
ヘビス族の族長です」
大きな弓を持っていたヘビス族の男性を老けさせて一回り体格を良くしたような中年の男性が族長であるイワンデスだった。
イワンデスを父親だと言っていたので似ていてもおかしくはない。
流石に族長ともなれば腹の中にどう思っていようと表に出してこず友好的な笑顔を浮かべているように見える。
ただ今この場でショウカイたちを心から歓迎する人などいないのは分かっている。
「のちにクレアデス……私の母にも同じことを説明していただきますので二度手間にはなりますがお客様を本当にお客様として受けれていいのか判断するため、ここにいらしたご事情をお話しいただければと思います」
いざ目的を、と言われると少し困る。
ユニシア王国が魔人族と戦争をしている理由を探り、もし仮に勇者召喚をただ戦争を優位に進める道具としたのだったら間違いを正して復讐を遂げるつもりだ。
けれどそれは素知らぬ他人に説明するにはパーソナルでセンシティブな問題。
「俺は人族が、ユニシア王国が魔人族に戦争を仕掛けていることに対して疑問を抱いています。
けれど人族の国では情報が統制されていてまるで魔人族が悪いように言われています。
だから直接魔人族の国に来て調べようと思ったんです」
少しばかり理由を表面的に語る。
「……不思議な人族だな。
他のものは例え疑問を抱いたとしても人族が悪いなどという話を掘り下げることなんかしない。
奴隷でもなさそうな獣人族を連れているのだから変わり者なのだな。
悪く思うな、褒め言葉だ」
もしスパイならば理由の説明に戦争について調べていますなんてことは言わないはず。
逆に戦争について調べているなんて口にしてみせるショウカイをイワンデスは興味深そうに眺めている。
「その過程でカレンデス……さんに関して少しお話しなければならないことがあるんです」
「戦争について調べていてか?」
「いえ、戦争で国境が封鎖されていてどうにか魔人族の国に抜ける方法がないか調べている時に知ったんです」
「なるほど。
カレンデスおばさんについてはある時急に行方不明になった。
母であるクレアデスは彼女が生きているはずだと長年探し続けている。
今でも諦めてはいない。
もう母は高齢だ。
話の内容によっては……母を傷つけることになってしまう」
ショウカイが話そうとしていることの内容によってはクレアデスは大きなショックを受けてしまう可能性がある。
もういつ逝ってもおかしくない年齢であるクレアデスの体のことを考えるとカレンデスのことであってもすぐに話してくれとは言えない。
その話が希望になるか絶望になるかはショウカイにとっても判断がつけられないことであった。
「……分かりました、お話しいたします。
この先に死の谷と呼ばれる場所があることをご存知ですか」
「もちろんだ。
長いこと人族も我々も立ち入ることができなくなっている。
母はおばがいなくなったのと同時期にあの谷に異変が起きたことからおばと関係があるのではと考えていた」
「その予想はほとんど合っています。
ここにくるのに俺たちは死の谷を抜けてきました」
「なんと!
死の谷となってからのあそこに足を踏み入れて帰ってきたはいない。
それなのにあそこを抜けてきただと?」
「そうです。
その時にカレンデスさんに会いました」
「なっ……まさか生きているのか!?」
驚愕にイワンデスの目が見開かれる。
「……あの状態を生きていると表現するのか俺には分かりません」
「どういうことですか?」
「あそこが死の谷になったこともカレンデスさんが関わっているのです」
ショウカイは説明する。
死の谷での出会いと起きた出来事を。
カレンデスの今の状態はリッチになっている。
これは死んでいるのだけどカレンデスという存在は未だにこの世界にあり続けてはいるのだとは言っていい。
カレンデスがアンデッドドラゴンとなったグオンを封じ込めるために谷に結界を張った。
そのためにカレンデスはアンデッドとなり、谷は踏み入れたものが帰ってくることができない死の谷となっていった。
今でも死の谷の中ではカレンデスとグオンが石でも投げながら首を長くして待っているだろう。
「す、少し待ってくれ……」
イワンデスの顔が青い。
どんな話でも受け入れるつもりであったが想定していたよりも話の内容は重たく受け入れ難いものであった。
こんな話をスラスラとウソで言えるならショウカイは物語を考える天才になる。
けれども長年探していたおばさんがリッチになっていてその理由が魔人族を守るためで、今でも死の谷でアンデッドドラゴンを押しとどめている。
常識ではとても捉えきれない話。
ただ言えることはその話が希望になるにしても高齢になるクレアデスにはとても大きな衝撃をもたらす話である。
イワンデスにさえ理解しきれないインパクトがあるのだ。
「そ、その証拠はあるのか?」
「カレンデスさんからのお手紙を預かっています。
リッチになった証拠にはなりませんがカレンデスさんが生きている……存在している証拠にはなるでしょう」
ショウカイはイワンデスにカレンデスが書いた手紙を渡した。
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