心優しきリッチの心残り6
ショウカイにはショウカイのやることがある。
魔人族と人族との戦争の状態がどこまで行っているのか知らないけれど永遠に続く戦争なんてない。
どこかで終わりを迎える。
その終わりがどういったものになるかが問題である。
もしショウカイが私利私欲のために呼び出されて魔人族を倒すために利用されていたのだとしたらショウカイは他の勇者を止めねばならないと思う。
少なくともただ指を咥えて見ていては一生後悔するという確信めいた予感がしている。
「まずは魔人族の国に向かわれるのですね」
グオンのことも気になるけれどカレンデスとしては魔人族の国が戦争状態であることも当然に無視できないこと。
仮にショウカイが戦争を止めてくれるなり良くさせてくれるならまだ時間があるグオンよりも優先度が高い。
戦争を止めてくれなど1人に背負わせるべきお願いじゃないけど止めてくれるならその方がいい。
「そのつもりだけど」
「ショウカイさんの従属することにはなりましたが私はこのままグオンさんの監視と結界の維持を続けたいと思っています。
一緒に行きたい気持ちもありますけど擬態スキルもないこの見た目ではご同行出来ませんから」
「うん、グオンの方もどうなるか分からない以上カレンデスが見ていてくれるとありがたいよ」
内心としては一緒に行きたいという気持ちはある。
共に行き、側にいたい。
久々に外の世界に行きたいし同族に会いたいという思いもあった。
でもグオンのことも放っておけないしリッチの姿で人には会えない。
散々待ってきた。
もうちょっと待つぐらい、なんてことはない。
「ま、全部終わって落ち着いたら一緒に旅でもしようよ」
「ショウカイさん……」
従属してるから。
そう思い込もうとしていた。
でもショウカイはリッチであるカレンデスにも引かずに普通に人と同じく接してくれる。
優しくてステキな人。
心臓があったらきっとうるさいほどに跳ねていた。
顔があったら赤くなっていた。
この邪な思いがバレなくて助かったとカレンデスは思った。
「魔人族のところに行くのでしたら私の一族を探してください。
自慢じゃないですが私は族長の娘だったんです。
それなりに能力もありましたし私の名前を出せば協力を得られるかもしれません」
「谷からは近いの?」
「ええ、それなりに近いところに住んでいました。
私が生きていた時の話ですけど」
「じゃあそうさせてもらうよ」
「それと1つお願いがあります」
「お願い?」
「ちょっと待っててください」
カレンデスは走って地下に向かった。
そこそこ距離があるので走ってもそこそこ時間がかかる。
「あんなに楽しそうなカレンは久々に見たな」
「いつもあんな感じじゃないのか?」
「長らくここに2人きりだからな。
塞ぎ込む訳ではないが話すこともなかったのだ。
ああして明るく話しているのもいつ以来だろうな……」
「そうなんですか」
ずっと一緒にいては話すこともなくなる。
食べることも寝ることもしないのでいる時間は普通よりも長い。
いつしかカレンデスとグオンの間にも会話はなくなっていた。
「元々は明るい娘なのだ。
感謝するぞ、ショウカイ。
お前になら従属しても良い」
「いつかお願いします」
ちょっとした会話をしている間にカレンデスが走って戻ってきた。
「それはなんだ?」
「薬とその製法です。
これを私の一族に渡してほしいんです」
カレンデスが持ってきたのはいくつかの小瓶と古ぼけた一枚の紙。
「薬?」
「……私がこの谷に来ていたのには目的があったんです」
薬草が欲しいだけならわざわざ若い娘が1人でこんなところに来る必要はない。
カレンデスがたびたびここを訪れていたのには大きなわけがあった。
「白点病という魔人族にかかる伝染病があります。
それは致死率が高く感染力も強くて魔人族の間では死の病と言われています」
カレンデスは白点病を治すための治療薬を研究していた。
この谷には珍しい薬草も生えている。
白点病に効く薬草はないかと研究するために薬草を探しにここによく来ていたのだ。
「私が生きていた時も白点病が流行り始めていました。
どうにか治療薬を作ってみんなを救いたい、そんな思いでいっぱいでした。
こうなったのは幸いだったかもしれません。
私には研究を続ける場所と永遠にも近い時間が与えられましたから」
研究のための設備を整えるのは大変だったがなんとかあるものを使い、薬草を集めて研究を続けた。
「この谷は薬草を取ることも出来ますがもう一つ恐ろしい顔があります。
それは病人の追い出し先なんです」
白点病は感染力が強い。
隔離しても危険はあるし白点病の人が出た時には早く対処する必要がある。
そうなった時に白点病の人を隔離するのではなく追い出してしまうことがあった。
その追い出し先がこの谷であった。
「そのために被験者となる人が時々流れてきて実験には困らなかったです。
そしてとうとうこの薬が完成しました。
まだ生きた人に使って効くのか分かりませんがどうか……これで魔人族の苦しみが少しでも減れば」
白点病の治療法を見つけたい。
当時カレンデスの姉に子供が産まれたばかりの時に白点病が流行り始めていたのでどうにかしたいとカレンデスは強く思った。
カレンデスの心残りは白点病であり、自分の家族が無事であるかどうか。
死してなお実験を続けたカレンデスの思いが詰まった薬とその製法が書かれた紙。
きっとこの薬が効かないことないだろうとショウカイは思った。
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