心優しきリッチの心残り3
「ふふふふ……まだ誰のものにもなったことがない私ですが従属とやらさせられるならしてごらんなさい!」
『従属スキルを使いますか?』
どうやら従属は出来そうだ。
「本当にいいのか?」
「ええ、やれるもんなら!」
これまでの経験上受け入れるつもりがない相手を従属させることはできない。
アルダラインの時のようなケースもあるけど今のところ相手が従ってもいいと思って初めて従属スキルを使うかどうか問われる。
つまりはカレンデスはショウカイに従属してもいいとは思っていることになる。
従属させたからと言って何かをさせるつもりもない。
カレンデスの挑発に乗るようにショウカイは心の中で使うと表示に応える。
『従属に成功しました!』
「うっ……」
体から魔力がゴッソリ抜けていく。
けれど気絶まではしない。
ノワールがスッとショウカイの体に巻きつくようにして支えてくれる。
倒れるほどじゃないけどモフモフした毛が気持ち良くてそのままノワールに倒れ込む。
「どうだ?」
「これは……」
体に魔力が流れ込んできて全身を満たし包み込む。
得体の知れない喜びが胸に広がって不思議な感覚に困惑する気持ちを押し退ける。
アンデッドになってから灰色にも感じられた味気ない世界がショウカイを中心に色を取り戻して輝いて感じられる。
「そう、まるでこれは恋の雷に打たれたかのよう……
ドラゴンのブレスに身を焦がされる熱い恋の始まり」
「グオン、カレンデスは何を言っているんだ?」
「カレンがいない時に地下を探してみろ。
こいつが書いた恋の詩がわんさか出てくるぞ」
「それは遠慮しとくよ」
「従属スキルがどのようなものなのか理解できませんがこの不思議と湧き上がる気持ちが従属によるものなのは分かります。
今なら深い深海に閉じ込められようともショウカイさんを一筋の光として私は再び水面に戻ってくることができるのです」
「その訳の分からない詩を歌うのやめてくれ」
「ああ、ショウカイさんのお声が神の祝福の鐘の音にも聞こえる」
「従属ってやめられんのかな……」
『従属を解除しますか?』
「あっ、出来るんだ」
「ちょちょちょ!
待ってください!
ただすごく久々に気分が軽くなったので調子に乗りました!
許してください!」
わさわさとノワールのお腹を撫でているとグイッと鼻先を突っ込んで頭の上に手を乗せさせる。
そのまま頭を撫でてやるとノワールは嬉しそうに目を細める。
「それで魔力はどう?」
「うーん、どうやら従属とやらの方に力は取られてしまっているみたいですね。
あまり魔力は回復していません」
「そっか……」
「ただ」
「ただ?」
「気分は悪くないですね」
忘れていた感情を思い出した。
魔物となって失っていたものを取り戻したような気がする。
ショウカイと繋がって、人であった自分の何かが呼び起こされたのだ。
少し怖い。
けど大切で胸が熱くなる。
「恋じゃないですけど死んでなくなった生きる希望みたいものが胸に湧き起こります。
みんなのためと言い、こんな姿になって生きながらえながらもどこかにあったいつ死んでもいいという重たい感情が消え去ってしまった気がします」
誰か、この場合はショウカイのために生きていたいと思わせられるのだ。
死んでるけど。
「不思議なスキルですね。
あたかもそれが当然であるかのように感じられる。
職業が神によって与えられるならスキルもまた同じ。
まさしく神に与えられた力と言っていい人知を超えた能力です」
「そんなになのか」
「グオンさんもそのうち従属させてもらえばいいとオススメ出来るぐらいに気分がいいです」
「できるならそれもいいかもな。
どのような気分なのか興味がある。
どうせもう自由に生きることなどできないのなら誰かの下で過ごすことだって悪くはない」
「まあ俺がもうちょい強くなれたらな」
ショウカイは肩をすくめる。
今の状態のショウカイがどれだけドーピングしたってグオンを従属できるほどの魔力を確保できるとは思えない。
カレンデスが魔力が少ないから従属できたと考えるとグオンも魔力を減らしてくれればいける可能性はあるけどそうなるほどに魔力を使うとこの谷が全て無くならなきゃいけないぐらいになる。
「いいさ、例えアンデッドだろうとアンデッドでなかろうと与えられた時は長い。
気長に待ってみるぐらいのことは覚えているさ」
「俺の時間はグオンに比べれば短いから期待はしないでくれよ?」
「構わんさ。
クソ貴族が買い占めたせいで待ちに待ったアップルパイが出てこなかったことに比べれば屁でもない」
「……そうか。
じゃあとりあえずカレンデスは魔力の回復に努めてくれ」
「そちらの方は結構いい感じですよ。
アステラさん、スーさんの魔力の質はとても良い。
このままいけば魔法の維持とショウカイさんをお出しできるぐらいの魔力はあっという間です。
もっと魔力を吸収しますので待っててくださいよぉー!」
「アステラとスーも大丈夫か?」
「私はまだ大丈夫です」
「私は疲れた!
お腹すいたー!」
ペシっとスーがショウカイの顔面に引っ付く。
魔力だけ放出してるのも暇だし意外と魔力を消耗していた。
他に行くところも今はないし早めにテントなんかを準備して夜ご飯を作ることにした。
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