アラクネもの2
「今日はテント持って帰るか……」
西の森はノワールと出会った森。
ショウカイはまずあの空洞に来ていた。
というのもノワールのために空洞で生活しようとしていろいろと持ち込んでいたものを持って帰るのが面倒くさくてそのまま置いていてしまっていた。
せっかく買ったものだしちゃんと回収しなきゃいけないとずっと思いつつこれまで東の森での依頼だったので回収する機会もなかった。
荷物が増えるけれど帰りになると疲れてしまってどうせ寄らずに帰っちゃうので最初に持って行くしかない。
「うおっ、これは何だ……」
空洞の入り口を隠していた木々を退けて中に入る。
空洞の中は様子が一変していた。
「これは……クモの巣?
ヤバい!」
入った空洞の中は白くなっていた。
壁に細い糸が何重にも張りめぐされている。
異様な光景に呆然と眺めてしまったけどこの状況は異常だ。
ショウカイがハッと気がついて慌てて空洞から出ようとした瞬間上から何かがショウカイに襲いかかってきた。
その時ノワールが飛び出して前足を振り下ろし襲いかかる何かを弾き飛ばした。
地面にバウンドしてそれが空洞の奥に転がっていく。
歯を剥き出してうなり、警戒するノワール。
「ノワール!」
ノワールを置いていくわけにはいかない。
立ち止まって振り返るとそれが何なのか分かった。
クモである。
周りがクモの巣だらけなのだから当然といえば当然なのだが。
「ちっちゃっ!」
いや、小さくはない。デカい。
しかし魔物のクモと言われて想像していたクモはノワールぐらいの大きさの巨大なクモを勝手に想像していた。
握り拳大のクモは普段会えばデカくて大騒ぎだろうがイメージを遥かに下回り、ノワールの攻撃に悶えるクモを見て普通のリアクションが消し飛んでしまった。
「ぐぬぬ……どうしてウルフが人間などと一緒にいるのである!」
「うわっ……しゃべった……」
ひっくり返った体勢からピョンと跳ねて起き上がったクモは人の言葉を発して地団駄を踏んでいる。
お爺さんのような声でアテレコされた映像を見ているようでなんだか妙な気分になる。
「なに? この人間が貴様の主人だと?
貴様! 人に従うなどプライドと言うものはないのであるか!」
しゃべるクモにノワールが吠えて返す。
どうやらとても奇妙なことに会話が成立している。
その後も会話が続く。
クモの話や独り言からしか判断できないもののノワールはショウカイが悪い人ではないと言っているようでクモが困惑している。
困惑したいのはこっちだとショウカイは思う。
襲ってきたクモがいきなり人の言葉を話し出してノワールを会話しているのだ。
全く状況が飲み込めないでいる。
「ふむ……よく聞け! 矮小なる人間……ヒィッ、分かった! 許せ、ウルフ……ノワールよ!
うぉほん! 偉大なる人間よ!」
今度はショウカイにクモが話しかけてくる。
やたら上から目線だなと思ったらノワールのうなり声に怯えあっさりと手のひらを返す。
「私はシュザンクールシュドアーノルド。特別にシュシュと呼ぶことを許そ……呼んでも良いので……呼んでくださいなのである」
ノワールの口元ヒクヒクと動く。
うなりはしないもののシュシュにはちゃんと分かっているようで段々と態度が小さくなっていく。
「このノワールというウルフから聞いたが人間が魔物の主人をしているとは本当のことであるか?」
「まあ、一応」
「なんと……まあそこはこのワタクシにはどうでもよいのである。
人間は話の通じる優しい男だとノワールが言っていたのである。
ここへはワタクシたちを倒しに来たわけではないのであるな?」
「はい、ただ荷物を取りに来ただけです」
クモと会話をしている。
これまでもファンタジー世界で生きている感じがしていたが何だか今が1番不思議な感じがする。
「ならばこのままワタクシたちを見逃してはもらえないであるか?
ワタクシたちは人間に害を加えるつもりはないのである。
今は赤い悪魔から逃げるのに必死であるが普段は人間が立ち入らないようなところで他の魔物を狩ってワタクシたちは生活しているのである」
「赤い悪魔?」
「赤い悪魔である。赤い目をして赤い炎を操るワタクシたちの敵ことである。
大人しく暮らしていたというのにいきなりやってきてワタクシたちを攻撃してきたのである」
サッと頭にサルモスの顔が浮かんだ。
そういえばそんなことを言っていた気がする。
サルモスが追いかけていた相手はこのクモだったのか。
「全く酷い話である……ワタクシの同胞は皆焼かれて死んでしまったのである」
クモに悲しげな表情があるのか知らないが悲しそうに見えた。
「……見逃せばいいんだな?」
もうサルモスにも微妙なウソをついて1度見逃している。
2度も3度も変わらない。
そうすべきだと思ったからそうするんである。
「ほ、本当であるか!?
あぁ……感謝するのである!
進化をして人の言葉を使えるようになったであるがこのように話したのは初めてである。
貴公のような人間に会えたこと嬉しく思うのである」
「俺にできるのは見逃すことだけだから、あとは頑張れよ?」
「何と慈悲深いのであるか……!
みな、出てくるのである」
「まだいたのか……」
シュシュが声をかけると天井からもう3匹クモが糸で降りてきた。
今度はかなりデカい。人の胴体ぐらいの大きさがあるクモである。
「警戒して潜ませていたのであるがそれでは失礼に当たると思い、姿を現させたのである」
「そ、そう……わざわざありがとう……」
流石にデカいと怖い。
「それじゃあ俺は行くよ。
見つからないといいね」
「ふむ、ありがとうなのである、人間!」
1番前の足をフリフリと振るシュシュに見送られ、ショウカイは空洞を後にした。
テントやらなんやらはすでに蜘蛛の巣だらけだったので諦めた。
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