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死の谷の魔女2

「それでこのまま死の谷とやらに向かうであるか?」


 ノワールの毛の間からシュシュが顔を出す。

 問題解決した以上死の谷なんて危ないところに向かう必要はない。


 今からでも戻って封鎖を抜ける方が安全である。


「そうだな。


 そうするのが良さそうだけど、さ」


「霧が濃くなってきたであるな……」


 何もかも遅すぎる。

 早いのはノワールの足。


 少し霧がかってきたなと思っていたらあっという間に周りは濃い霧に覆われてしまった。

 少し先も見えなくなるような真っ白な霧。


 なんやかんやとしているうちに多分ついてしまったのだ。

 死の谷やらに。


「どうするであるか?」


「……うーん、引き返そうか」


 無理をして死の谷を突っ切ることはしなくてもよい。

 新しい発見だったりそれを整理して考えているうちに張り切ったノワールのスピードによって死の谷近くまで来てしまった。


 他のルートを通っていけるなら死の谷なんて危なそうなとこ行きたくない。


「ノワール、引き返すぞ」


「承知しました!」


 ノワールの足なら多少引き返して死の谷を迂回してもそんなに時間は取られない。


「ヘッヘッヘッ……」


「おかしいな……」


「ノワールストップ!」


「はい!」


「どうしたであるか?」


「俺たちは霧が出てからすぐに引き返したよな?」


「そうであるな」


「もう結構走っているはずなのに霧が晴れないなと思って」


 死の谷に霧がかかっているのは知っているので霧を抜ければ死の谷の領域を抜けたと言える。

 けれどどれだけ走っても霧を抜けない。


「ちゃんと移動できてる?」


「むむむである?


 ちゃんと走ってるから移動しているはずであるが……」


「足裏の感覚は変わりません。


 ちょっと前の場所は草地でしたが今は草のない土の平原です。


 引き返してもずっと土です」


 ノワールの証言。

 そういえば霧で分かりにくいが地面の状態に変化がない。


 死の谷に入る前は草原だった。

 背の低い草が生い茂っていて走っていても気分のいい場所だった。


 けれど今は茶けた土が見えている。

 ノワールによると走っても走ってもこの土の地面が続いているようだ。


「みんなはどう思う?」


「んー、この霧おかしいよ」


「おかしい?」


「うん。


 ただの霧じゃない……ほら、魔法を使っても吹き飛ばない」


 スーが風を巻き起こしてみるが霧は動かない。

 全ての霧を吹き飛ばすのは無理にしても少しぐらい動いてもいいものなのに。


「もしかしたらこれはただの霧じゃなくて魔法で作られたものかも」


「魔法の霧だって……?」


「スーの言う通りですね。


 魔法かどうかは知りませんがこの周りに満ちているのは魔力です」


 スライムは特殊な魔物で魔力を感知して生きている。

 この霧のように見えているものはシズクにとって濃い魔力に囲まれているのと同じだった。


 魔力にしろ霧にしろ周りの視界が効かないのは同じだった。


「ミクリャは……」


「分からん!」


「そっか」


 ノワールの背中に糸のベッドを作ってそこで寝ているミクリャ。

 フカフカの糸のベッドは意外と気持ちよさそうだ。


「えっ……俺たち死の谷に閉じ込められた?」


 ーーーーー


 景色は変わらぬが時間は経ち、日は落ちて周りは暗くなる。

 死の谷から離れる方向にいくら走ってみても死の谷から脱出できない。


「なんなんだよー!」


 ショウカイは地面に体を投げ出した。

 いくら進んでも環境に変化が訪れない。


 ちょっと前の盗賊たちを見習って薪を買い溜めてカバンに入れておいてよかった。

 日が暮れてきたのでそれを使って焚き火をする。


 脱出もできない不気味さがあって怖いのでちょっと焚き火も強めに焚いている。


「モフモフモフ」


「はぁーん!」


 こう言う時はノワールをモフモフするに限る。

 モフモフが与えてくれる安心感はスゴい。


「主君、私もいますよ」


「プニプニプニ」


 シズクも寄ってくるのでプニプニする。

 なんとも言い得ないこの感触はとても気持ちがいい。


 ついでにひんやりとしていてそこもいい。


「お兄ちゃん」


「ほいよ、ナデナデ」


 ミクリャの頭も撫でる。

 ミクリャの毛はサラリとしていて絹のような手触りをしている。


 撫でている手の方も心地よくて目を細めて気持ちよさそうにするミクリャを見ているとショウカイと気分が良くなる。


「私も撫でて〜」


「良かろう〜」


「んっ……そこそこ」


 スーは羽の付け根付近を妖精はそこが気持ちいいらしく羽がピクピクと震える。

 ほんのりと光る妖精の粉がハラハラと舞い落ちる。


「魔物をはべらかすハーレムであるな」


 モフモフと愉快な仲間たちがショウカイの認識だけどシュシュから見れば立派なメスに囲まれているのだ。


「妖精の粉を振りかけて……」


 貴重な妖精の粉はなんか実験の材料になることは魔塔の一件で分かったが他にも使い道がある。

 それは料理に混ぜるのである。


 そうすることで旨味が増す。

 味気ない食料でも妖精の粉を振りかけるだけでかなり美味しく感じられるようになる。


 聞く人が聞けば勿体無いと騒ぐような使い方だけどスーの背中を撫でて取れる妖精の粉は高が知れているし貯め込んでどっかに売るつもりもないので妖精の粉が発生した時はご飯にしてる。

 最初は抵抗あったけど食べてみると本当に美味しくなるので今では出してくれないかなーなんて思ってる。


 命令して出させるのは嫌なのでこうしてたまに撫でた時に出るものを料理に混ぜるぐらいだ。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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