悲しみを終わらせて4
ライムがバンシークイーンを袈裟斬りに切り捨てる。
深い切り傷。
すぐには回復しないはずだ。
「ゆ、揺れっ……!」
静かに運ぶなんか期待しないでほしい。
ガンガン揺れるノワールに担がれてバンシークイーンに接近する。
アルダラインが魔法を切り裂いて道を作る。
「あ、熱い!」
人としての感覚がないのでアルダラインには分かっていないが魔法を切ってもその影響は残っている。
炎を切り裂いて進むが肌を焼くような暑さは残っている。
そんな贅沢言ってる場合じゃないのは分かっている。
でも熱いものは熱い。
「もう持たないである!」
バンシークイーンの傷が治っていき、周りに炎を渦巻かせて糸を焼き切る。
「……これでは近づけない」
糸を切ると同時に防御でも攻撃でもある。
バンシークイーンを中心として炎で囲まれてしまって近づくことができない。
アルダラインだけなら強行突破も考えるがアステラやノワールだと厳しい。
「ヨロイ、走り抜けろ」
耳がないアルダライン。
物を聞くというより込められた思念を読み解く、魔物の意思疎通で言葉を聞いていた。
だからノワールの言葉も理解ができた。
言葉が通じないかもなんてノワールは考えてなかった。
ショウカイの命令を実行することだけを考えてノワールは行動した。
「へっ……キャアアアア!」
ノワールはアステラを投げた。
バンシークイーンを囲う炎の上を越えて飛んでいくアステラ。
「おお、おいっ!」
慌てて炎に突っ込むアルダライン。
なんともワイルド。
「あっ……」
「ぎゃあ!」
ちょっとばかり飛ばし過ぎた。
炎の向こうに抜けたアルダラインが見たのはアステラがバンシークイーンの上に落ちるところだった。
想定外に何か重たいものが上から飛んできた。
なんの攻撃かと視線を向けてアステラとバンシークイーンの目が合った。
悲しみをたたえた目、希望をたたえた目が互いの瞳に映る。
「あなたは……私なんですね」
「あ……あぁ」
触れ合うほど近くに来て互いが互いに目の前にいるアステラが自分であるのだと強く感じる。
バンシークイーンは怯えていた。
強い光のような自分自身。
負の感情を覆い隠してどこまでも自分を醜くするようなアステラはとても妬ましく思えた。
「お前が!
……お前ガァ!」
バンシークイーンはアステラの首を掴んで締める。
「アステ……」
炎に囲まれたこの場には2人のアステラとアルダラインしかいない。
首を絞められたアステラを助けに行こうとしたがアステラは悲しげにアルダラインに笑みを向けて制止した。
バンシークイーンがその気だったらアルダラインが止めに入る間も無く死んでいたはずだ。
アステラを殺してしまうと自分が後々不利になるとかそんなことではない。
やはりバンシークイーンもアステラなのだ。
持てる感情は違えども同じ魂を分け合った同一の存在。
自分を殺せるはずなどなかったのだ。
「私はあなた、あなたはは私。
今一度1つになりましょう」
「な、なんだ!?」
全ての魔法が消え、ただ光だけが強く残った。
その場にいた誰もが目を覆い、アルダラインとライムだけが何が起きていたのかを目撃した。
アステラが悲しみをたたえるバンシークイーンを抱きしめるようにしながら溶けて1つになっていく。
バンシークイーンにアステラの明るく前向きな心が流れ込み、複雑で自分でも捉えようのない感情が渦巻く。
バンシークイーンの体が縮んでいく。
「アステラ……なのか?」
美しき女王の姿になったバンシークイーン。
静まり返った王の間で全員の視線がバンシークイーンに集まる。
何が起きたのか理解している人は誰一人としておらず、ただ状況を見守る。
ショウカイはわずかな希望を持つ。
あれがもしアステラの意識を持っていたらことは平和的に収まる可能性もあると。
「違う……!」
俯いて見えなかった顔を上げた。
赤い瞳。
血のように真っ赤な瞳から血の涙が流れている。
虚に見えていた瞳にやや人っぽい色は見えるが凍りつくような冷たさがある。
「耳を塞ぐんだ!」
ゆっくりと口を開いたアステラ。
「アオーン!」
「ノワール!?」
アステラが嘆いた。
同時にノワールが遠吠えをする。
声に魔力を乗せ、音がぶつかり合って相殺される。
「なんと……」
まさかの方法でノワールはアステラの嘆きの声を打ち消してみせた。
ノワールから離れていた冒険者は耳を塞いでいてもなおダメージを受けて耳から血を流したり倒れたりしている人もいる。
けれど近くにいたショウカイはニンファスは無事だった。
ノワールの遠吠えは味方には影響を与えずに守ってくれた。
「どうですか!」
ドヤるノワール。
その価値はあった。
完全物理寄りのノワールはバンシークイーンに近づくのも容易ではない。
基本はショウカイの側で守っていたけど何かできることはないかと考えていた。
声に魔力を乗せるのはマギナズがやっていたことだった。
ノワールなんかを威嚇する時とかによくちょっとだけ魔力を込めて威圧するのだ。
大人気ないというかなんというか、そんなことまでするかと思うがノワールもそんなじゃ引かなかった。
とりあえずその時に声に魔力を乗せればそれは攻撃にもなることを知った。
バンシークイーンの嘆きの声は声に魔力がこもっているので人に対して影響が出る。
ノワールも同じく声に魔力を込めて遠吠えすれば打ち消せるのではないかと思って試したのだ。
結果は見事な成功。
撫でてあげたい気分である。
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