出会い4
9日目。
ウルフの体調や嫌われた可能性を考えて重たい足取りでウルフのところに向かった。
「おーい……」
慣れたもので入り口の坂をスルスルと滑り降りて中に入る。
「あれ?」
いつもなら入って正面の奥側に横たわっているはずのウルフが見えない。
肉の包みはそのまま置いてあるので場所は間違いない。
「そっか……」
ポーションが効いて元気になったのかどこかにいってしまったのか。
寂しいけれど元気になったのならそれでいい。
なんであんなに気になったのか不思議でならないけれどいなくなっては解明できることもない。
とりあえずここに来ることはもうない。
誰かが気にすることもないだろうけどちゃんと肉の包み紙を回収して帰ろうとした瞬間だった。
「うわあっ!」
何か大きいものに飛び掛かられて地面に組み伏せられた。
死んだ、そう思った。
顔をガードした腕の間に何かがねじ込まれて、ギュッと目をつぶって攻撃に備えたけれど来たのは痛みではなかった。
濡れた生肉でも顔に這わせられたような感触。
目を開けるとウルフがショウカイの上に乗って嬉しそうに尻尾を振りながらショウカイの顔を舐めていた。
「あ、ちょ、ちょっと、待って……」
ウルフの舐める力は強い。顔を舐め続けられて呼吸をする暇がない。
顔がびちゃびちゃになってようやくウルフは満足して舐めることをやめた。
「はぁっ、はぁっ、詳細鑑定」
舐められすぎて窒息死するところだった。
『ウルフ
状態:負傷
野生のウルフ。後ろ足を怪我している。
ポーションのおかげで怪我の状態が良くなり、ほとんど完治している。
あなたのおかげであるとウルフは思っておりあなたに従属してもよいと考えている。
お腹が空いている。』
だいぶ怪我が良くなったことは分かった。
ほとんど完治しているならもう心配はいらない。
「従属しても……よい?」
従属とは、あの従属だろうか。
『従属スキルを使いますか?』
ショウカイのつぶやきに反応するように目の前に詳細鑑定と同じ表示が出る。
ただし書いてあるのはこの一文のみ。
「これは……詳細鑑定、なのか?」
ショウカイの疑問に答えるものはいない。
ウルフはショウカイのお腹の上に顎を乗せて上目使いに様子をうかがっている。
従属スキルを使いますか以外に何も書いていないのでどうしたらいいのか分からない。
ハイと答えるのか、スキルを発動させようとすればいいのか。
「ええと、はい、従属スキルを使います」
とりあえず声に出して答えてみる。
すると魔力が体が抜ける感覚に襲われて軽く目眩がした。
『従属スキルが成功しました。
ウルフが従属スキルを受け入れました。』
「……えっ、終わり? 成功?」
魔力が無くなったことと成功の表示が現れたことは分かったがそれ以外に変化を感じない。
どうやらウルフが従属したらしいのだけれど、ショウカイの腹に顎を乗せるウルフは従属する前から従属しているような態度である。
表示から視線を落としてウルフと目が合うと、ウルフは尻尾を振る。
『ウルフ(従属)
状態:従属
マスターに従属する使い魔のウルフ。
マスターに恩を感じていて、従属スキルを受け入れた。
マスターの魔力をもらい怪我が完治した。
お腹が空いている。』
鑑定してみると従属となっているのでちゃんと成功していることがわかる。
ここまで来れば大丈夫だろうと思いながら手を伸ばして頭を撫でてやると風が来るほど尻尾を振って感情を表現する。
こうなってしまうと大きな犬みたいで可愛い。
職業図鑑では魔石からしか魔物を呼び出せないみたいに書いていたのにそれは間違っていたみたいだ。
魔石から呼び出した魔物を従属させる必要があるのだと思っていけれど野生の魔物も心を開いてくれれば従属させられる。
これは大発見だった。
『ウルフはあなたに名前を付けてもらいたがっている。』
また勝手に表示がショウカイの目の前に現れる。
これは詳細鑑定なのかそれともサモナーのスキルが分かりやすく目の前に現れているのか。
「名前? 確かに、ウルフのままじゃ何かと不便か」
ウルフに再び目を落とす。
ショウカイに撫でられてうっとりとした顔をしたウルフの手触りは良くない。
野生の動物だからしょうがないけど毛は固くてボソボソとしている。
でも程よく温かく、毛の中に手を突っ込んでみると下の方の毛は柔らかかった。
「名前は……ノワールだ」
ショウカイにネーミングセンスはない。
下手に捻った名前よりも多少厨二ぽくてもシンプルで分かりやすいのがよい。
やや黒みかがった毛色から連想してそう名付けた。
オスかメスかも分からないのでどっちも良さそうな響きの名前にした。
「いや、待てよ……」
『ノワール(従属)
性別:メス
マスターに従属する……
』
ウルフのところは名前が入るところだったのか。
もう受け入れられてしまったようでノワールの表示に変わっていた。
このウルフ、ノワールはどうやらメスだったようだ。
これまで性別を知りたいと意識してこなかったために詳細鑑定で出てきていなかった。
オスっぽい名前をつけなくてよかったと胸を撫で下ろす。
人の仲間ができる気配はいまだにないのに、とりあえず魔物の仲間ができた。
「しかし、だ」
これからどうする。近づいてみるとノワールはかなりデカい。
人ほどの大きさもあるウルフを連れて町中なんて歩くことはできない。
町中大騒ぎになってしまう。
犬と誤魔化すこともこのサイズ感では厳しい。
首輪をつけてリードを引いていたってショウカイなら近寄らないだろう。
明らかに討伐対象になってしまう。
ひとまずノワールにはここにいてもらってショウカイは一度宿に帰った。
「これは……」
『ノワールが寂しがっています!』
ベッドに寝転ぶショウカイの前に表示が浮かぶ。
虫でも払うように手を振って表示を消してもまたしばらくするとこの表示が出てくる。
「あんなにうなっていたのに1人は嫌なのか……」
空洞を出る時も寂しそうな目でこちらを見ていたことを思い出してショウカイはため息をついた。
ほんの少し、ほんの少しだけ別れる時のレーナンに似ていると思った。
『ノワールが寂しがっています!』
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