出会い2
慌てて森に戻りチコニソウを探す。
ギザギザとした葉っぱを手に取って鑑定してみると確かにチコニソウと出る。
森には似たような草も多く草原よりも見つけにくそう。
もしかしたらこの森になら手付かずのチコニソウがあるかもしれないと期待が持てた。
悩んだショウカイは覚悟を決めて森に足を踏み入れた。
「んっ?」
その時何かの物音がしてショウカイは息を潜めた。
「あれは……ウサギ?」
離れたところに一羽のウサギがいた。
ただ頭にツノが生えていてショウカイの知るウサギとは少々異なっている。
『ホーンラビット
小魔物に分類される草食の魔物。
臆病な性格で戦いを好まないが追い詰められると頭のツノで反撃を試みることがある。
耳がよく非常に素早く逃げるので追いかけるのは困難。
肉は食用に適していて、ツノは加工して利用できる。』
「なるほど……」
つまりはあれが依頼にあった小魔物である。
狩ることが出来ればお金になる。
息を殺して慎重にホーンラビットの方に向かっていく。
ガサッ。
衣類が草に触れて小さいが音を立ててしまった。
たったそれだけなのにホーンラビットに気づかれて逃げられてしまった。
「くうっ……残念」
その後もチコニソウはちょいちょい見つかり、ホーンラビットも時折見つかるのだが剣が届く距離まで近づくことができない。
やはり近距離武器でウサギ狩りをするのは厳しいと実感した。
小魔物狩りはひとまず諦める。1人じゃ到底狩りはできないし弓なんかも扱えない。
チコニソウは見つかるのでこちらを優先した方が効率が良い。
これも詳細鑑定の効果なのか、知らない草も反応していたのがチコニソウばかりを意識していたらいつのまにかチコニソウだけが鑑定に反応するようになった。
おかげでかなり探しやすくなったが弊害もあった。
「しかし……ここはどこだ?」
山菜をとっていて遭難する。なぜそんなことになるのか分からなかったショウカイも今ははっきりとその理由がわかる。
ホーンラビットを追いかけたり、チコニソウの採取に夢中になっているうちに迷子になってしまった。
どちらから来たのかちゃんと考えながら移動していたつもりなのに周りは同じような木ばかりで全く方向がわからなくなった。
「へっ!?」
何かの遠吠えのような声。
思わず情けない声が漏れる。
急に怖くなってきた。
他の方向から見たら丸見えなのに大きな木に体を寄せて息を殺して隠れるようにする。
「逃げるぞ、逃すな!」
静かにして聞き耳を立てているとかすかに声が聞こえてきた。
どうやら近くで冒険者が戦っているようだ。
遠吠えのような声も冒険者と戦う魔物の声だった。
自分の方に魔物が来ているのではないとホッと一息つく。
もう少し待って戦いが終わったら帰り道でも聞いてみようと思い、冒険者たちの声に耳を傾ける。
「あっちだ、行くぞ!」
そうしている間にも魔物が逃げ出したのか声が遠ざかっていく。
「えっ、ちょ、待って!」
てっきりそのまま終わると思っていたのに予想外の展開。
「うわっ!」
慌てて追いかけようとして、ショウカイは木の根に足を引っ掛けて転んだ。
そしてそのままどこかに落ちた。
「いてて……」
落ちた時間は短い。
落ちたとしてもそれほどの高さはない。
真っ直ぐに落ちたというより転がり落ちてきた。
体の痛さもそうだけど湿った土のせいでいるも湿ってしまったのが気持ち悪くて最悪な気分だった。
後ろを見ると上の方の穴から光が入り込んでいる
やはりあの下は急な斜面になっていてそこを転がってきたようである。
登るのは楽そうじゃないけど穴まで登って出られそうではあった。
「グルル……」
「なっ、なんだ!」
低いうなり声。剣を抜いてキョロキョロと周りを警戒する。
薄暗さに目が慣れてきて暗いところもうっすらと見えるようになってようやく声の正体に気づいた。
この空洞の奥のより暗いところ。
横たわる1匹の狼がいた。
魔力の属性や生態、住んでいるところなどで様々な呼び方がされることもあるけれど広い分類としてはウルフと呼ばれる魔物。
ウルフはなぜか頭だけを上げてショウカイに唸っていた。
立ち上がって襲いかかってくる気配はない。
「詳細鑑定」
襲いかかってこないのなら調べてみるに限る。
『ウルフ
状態:負傷
野生のウルフ。後ろ足を怪我していて動けない。
同じ群れのウルフの嫉妬によって負傷させられて逃げてきた。
今は人間よりも同じ群れのウルフを強く恨んでいる。
お腹も空いている。』
まさしく知りたい情報。
便利スキル詳細鑑定。
経緯の程はどうでもいいけれどこのウルフは足を怪我しているから動けず、ここに隠れていたようだ。
それにもう1つ。
お腹が空いているとかいう情報ではなく人間よりもウルフの方を強く恨んでいるという文言。
これまでウルガスと一緒に旅をして魔物に出会ったことも何回かあった。
護衛されていたので安全なところで見ていたショウカイは魔物に対して詳細鑑定を使ってどんなものなのか調べていた。
今まで鑑定した魔物はどれも人間に対して恐怖、怒り、恨みなんかを抱いていて相容れない存在であることがはっきりと分かっていた。
このウルフも人に良い印象があるわけではないけれど前面に人に対して悪印象を抱いてるように記載されていないのは初めてだった。
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