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隣国へ9

「今さらですけどみなさんはこの国に来て良かったんですか?」


「はははっ、本当に今さらな話ですね」


 長い旅も終わりが近づいている。

 隣国のリテュウス王国の首都であるタウモーズまであと1日ほどの距離まで来ていた。


 ふとウルガスのみんなは依頼が終わったらどうするのか気になった。

 自分に余裕がなくて考えなかったのだ。


 依頼が終わってからまた引き返して国に帰るというのも面倒なことではないかと思った。

 だからといって別の国で活動するのもまたハードルが高そうだ。


「大丈夫も何も私たちもこれからはこの国で活動するつもりです」


 ウィランドが答える。

 ずっと一線を引いて固い対応だったウィランドも時間が経つにつれて態度が柔らかくなった。


「このご依頼がなくても私たちはあの国を出るつもりでした。


 大都市周辺はまだ何事もないような顔をしていますが少し外れてみると田舎などは状況が良くありません」


 笑っていたのが一転、焚き火を見つめながら角度によっては悲しげにも見える顔でウィランドは語った。


「戦争の影響でしょう。


 その皺寄せは貧しい民に、そして私たちにも及ぼうとしていました」


 やはり魔王との戦争は王城にいる限りはなんてことはなく見えていただけで民に犠牲を強いて暗い影を落としていた。

 戦線に近いところや財力的に弱い地域は戦争の影響をありありと受けていた。


 ウルガスはたまたま国を出ることを考えて首都にいたが普段の活動拠点はもっと地方であったので影響を感じていた。


 冒険者にもじわりじわりと影響が出てきていて兵士が減って小さな農村などが困っていて安い依頼が増加したり国の仕事がなぜか冒険者まで降りてきたりしていた。

 それだけならまだしも冒険者を兵士として徴兵するなんて噂までで始めたのだ。


「私たちは自由です。

 冒険者が徴兵されるなんてあってはならないことです。


 隣国が魔族の国で王が魔王と呼ばれていますが私たちは魔族に何の恨みもなく、他人の野望のために命を散らしたくはありません。


 実際に徴兵が始まるかは分かりませんが始まってからでは遅いので早めに見切りをつけたのです」


 Bランクに上がることができたのは強さだけではなくこうした強かさ、バランスの良さもある。


「それに、こいつです」


 ウィランドが腕をノーンの首に回して引き寄せる。


「こいつの恋人がこの国にいて、この機会に結婚を申し込むことになったんですよ」


 あっという間にノーンの耳が真っ赤になる。


「に、兄さん、やめてくださいよ」


 困ったように苦笑いを浮かべるノーン。

 ノーンはウィランドのことを兄さんと呼んでいる。


「そんなこともあってこの国を中心に活動してくことにみんなの意見がまとまったんです」


「なるほど、すてきな話ですね」


「もう、やめてくださいよ」


 ランクはギルド員が判定する以上、評判や態度というものも考慮される。

 なので他国で上げたランクは表示通りのものより下に見られがちになる。


 しかしBランクともなれば軽んじられることは少なく、多少下に見られても問題は少ないランクになる。


 Bランクにもなったので心機一転やり直していくにはちょうど良いタイミングだった。


 そこに渡りに船とばかりにリテュウス王国に向かう護衛依頼。

 しかも好条件。


 個人がギルドを介して護衛を依頼するのは訳有りでウルガスは敬遠するのだが条件も良いし向かう先も一致している。

 依頼主が嫌な奴でも我慢して隣国まで行こうと依頼を受けたのであった。


「今ではショウカイさんが依頼主で良かったと本当に思います」


「俺もみなさんで、ウルガスのみんなに依頼して良かったと思います」


 ちょっとした気の迷いで女性パーティーとかに依頼していたらどうなっていたことやら。


(仲間か……)


 とりあえず逃げ出すことにいっぱいいっぱいで今後どうするのかの計画もない。


 ウルガスのみんなを見ていて背中を任せられて信用のできる人といられるのが羨ましくなった。


 Bランクパーティーに入れて欲しいなんてことは言えない。

 だからウルガスとはお別れになるけれど自分もこんなパーティーで活動したいと思わせられた。


「しかし、お前が俺より先に結婚とはな……


 お前もアイツも小さいガキだったのにな……」


「いったいいつの話してるんですか」


「俺はいつになったら嫁さんができるんだか」


「その鈍さが無くなれば多分できますよ」


「俺のどこが鈍いってんだ?」


「全く……そんなところですよ」


 ふとショウカイはテラットの視線が気になった。

 その見る先を辿ってみるとジーがいる。


 焚き火ではない、ほんのりとジーの頬が赤く染まっていることにショウカイは気づいた。


 なるほど、ウィランドという男、どこまでも真面目な人であることは分かっていたが同時にどこまでも鈍感な男でもあるようだ。


 今の季節なんてショウカイには知らないけれどウルガスには春の風が吹こうとしていた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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