何故飢餓に喘ぐのか3
「クッ……ノワール!」
「お任せください!」
「えっ、ウソ!」
とりあえず相手も興奮しているので落ち着いて話をするためには一度制圧するしかない。
ノワールが魔力の鎖の拘束を引きちぎる。
なんてことはない純粋なパワーによる力技。
「ウォ、ウォーターボール……きゃああああ!」
咄嗟に迫り来るノワールに大きな水の球を打ち出した魔女。
ノワールは怯むこともなく、ウォーターボールを殴り飛ばした。
瞬間的に出したけれど結構な魔力が込められたウォーターボールはノワールのパワーに耐えて破裂はしなかった。
けれど魔女の魔法はノワールのパワーを突破するほどの力がなかった。
結果的に魔法を打ち返される形になった魔女。
魔法まで消しきれず、魔力をわずかに緩めるだけしかできなかった。
大量の水を被って自分で締め切ったドアに叩きつけられる。
「クッ……クソッ……なんて強さなの……」
本当にこの人優秀な魔女なのだろうか。
「お腹さえ……お腹さえ空いていなきゃ……!」
やや言い訳がましく聞こえる言葉を呟きながら魔女が立ち上がる。
「へっ?
ヴッ!」
「ちょ、ノワール!?」
フラフラと立ち上がった魔女に近づいたノワールが魔女の首を掴んで持ち上げる。
片腕で恐ろしいほど軽々と魔女を持ち上げ、魔女は杖を落としてノワールの手を掴んで抵抗するが全く歯が立っていない。
苦しそうに悶えて顔が青くなっていく。
魔女の集中が完全に途切れてショウカイを拘束していた魔法も解ける。
「ノワール、ストップ!
放して!」
「ですがコイツはご主人様を攻撃しました」
「いや、俺は大丈夫だから、怒ってないから!」
ノワールの手を引き剥がそうとしていた魔女の手から力が抜けていく。
「……ノワール、お座り!」
「はい!」
仕方ないので最終兵器だ。
お座りとお手はちゃんとしとかなきゃいけない。
ノワールはショウカイに強くお座りと言われるとどんな時でも即座に従ってしまうのであった。
魔女から手を放してショウカイの前でサッとお座りするノワール。
人の姿でやると違和感ありまくりな光景だけど悠長に説得している間に魔女が窒息死してしまいそうなのでしょうがない。
床に落ちて激しく咳き込む魔女。
どうやらあと一歩のところで助かったようだ。
「話、聞く気になってくれました……?」
これ以上はもう完全にデッドオアアライブになってしまうので出来れば話し合いで解決したい。
「クッ……目的はなんだ!」
「俺の目的は……」
「私の体か!」
「はぁっ?」
「若い男の性欲の捌け口にされてしまうというのか……しかし私は屈しない!
やるならやれ!
ただ乳頭は弱いので優しくお願いします!」
乳頭が弱いとか世界で一番イラナイ情報だわ。
本当にこの人優秀なのだろうかと頭が痛くなってくる。
「どうした……いざ美しい私を目の前にすると怖気付いてしまったのか?
ふふっ、ならば私からリードしてやろうか?」
「……スー!
頭を冷やしてやれ!」
「はーい!」
「なっ……ようせ……きゃああああああ!」
スーが魔法を使って魔女に頭から水を被せる。
冷水も冷水。
少しひんやりとした空気が漂ってくるぐらいに冷たい水が降り注ぐ。
「さささ、寒い!」
歯をカチカチと打ち鳴らして震える魔女。
「話を聞く気になりましたか?」
「は、はいぃ……」
何故話を聞くだけでこんな苦労せにゃならんのだ。
すっかりしょんぼりした魔女が着替えるのを待つ。
今のところ感想としてはドジっ子魔女みたいなもんだけど一瞬くっコロ騎士みたいな謎の側面が顔を覗かせた。
「お、お待たせいたしました……」
「スー!」
「えっ、ちょっと、男の子ってこういうの好きだって……きゃああああ!」
濡れ魔女再び。
ネグリジェみたいなスケスケの服で現れた魔女。
正直美人さんなので悪くはないけど今はもうなんだかお腹いっぱいです。
スーに冷水を浴びせられて魔女は再び着替えに行った。
「シュシュ……お前に会いたいよ……」
こういう時にショウカイの意見を代弁したような冷静なツッコミをしてくれるシュシュが欲しい。
「お、お待たせしました。
こ、今度は普通の服です!」
「ようやくスタートラインかな……」
ドッと疲労が押し寄せてくる思いがしてショウカイは遠い目をして魔女を見た。
「あの……」
「なに?」
「温かいお茶を……淹れてもいいですか?」
2回も冷や水を浴びせられた。
魔女の体はすっかり冷え切っていた。
「好きにしてください……」
「すいません」
魔女がお茶を自分とショウカイ、ノワールとスーの分まで淹れてくれた。
「それでお話とは、そしてあなたたちは何者なんですか?」
「何者だと聞かれてもなあ。
俺たちは旅してる冒険者だよ。
たまたま村に立ち寄ったら非常に困ったことになっているって聞いて、何か力になれないかと思ったんだ。
あなたに話を聞きに行った方がいいと村人に教えてもらってここに来たんだよ」
「そ、そうだったんですか……私ってば変な早とちりをして……」
「変な早とちりってなにを勘違いしたんですか?」
「……私の職業は占星術士というものです。
その人の運命や運勢などを占うことが出来る職業なのですが、そちらの方の運命が私には見えないのです。
どうしてなのか分かりませんが運命が見えない相手は魔物ぐらいなので外にいるはずの魔物がどうにかして中に入ってきたのではと思ったんです……」
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