村に入れぬ訳1
道中魔物が襲ってこないなんてことはない。
ノワールが常に唸るほどの威圧をしていればそんなことも可能だけどそれでは疲れてしまう。
マギナズくらいの格の魔物になれば自然とそうした魔物を寄せ付けないこともできるがノワールではまだ無理である。
「よっと!」
コボルトという魔物は犬のような顔を持つ二足歩行の魔物であり、体は非常に小柄な人のようである。
これで可愛かったらためらいの1つでもあるのだが容赦なくコボルトをショウカイは切り捨てる。
犬っぽいっちゃ犬っぽいのだけど可愛くない。
牙を剥き出しにして唸っているノワールすらも可愛いと言ってのけるショウカイを持ってしてもコボルトはあんまり可愛くなかった。
だから容赦しない。
知能も高くないのか声を聞いてもショウカイには理解できないしただの魔物だと簡単に割り切れる。
そしてもう1つ変化が訪れていた。
「なんだろうな、体軽いな」
ソリアのような絶世の剣士ではなくてもショウカイの中でかつての自分よりも体のキレが良くなっているような感じがしていた。
熊公がショウカイにとって扱いやすい剣で、切れ味抜群だから簡単だと思っていたのだが体力、というか体の能力そのものが向上している。
コボルトの動きもよく見えるし、こう動きたいと思うと体をそう動かすことができる。
たまたま体の調子が良い日でもなく、なぜなのかわからなくてショウカイは首を傾げた。
「お答えしよう、である!」
「おっ、さすがシュシュ。
なんか分かるのか?」
「このシュシュ、分からないこと以外はなんでも分かるである!」
「うーん?」
分からないこと以外分かるのは誰でもそうだろう。
「ショウカイ様の体に起きている変化。
それは……強くなったである!」
「…………そうか。
おやつ抜きな」
期待させやがって。
分からないことなら分からないと言えばいいのに。
「まま、待つである!
ワタクシの話は最後まで聞くである!」
こんなことでおやつ抜きにされたらたまらない。
時折もったいつけて回りくどく言ってしまうのがシュシュの悪い癖であった。
「文字通りショウカイ様は強くなったであるがそれは魔力が増えたということである」
「魔力が増えた?」
「そうである。
日頃からショウカイ様の魔力が増えているような感じはあったであるが少し前にそれが止まったである。
おそらく成長していて、完全に魔力が体に定着したであるな」
「なにそれ、初耳なんだけど」
「むむ?
分かってなかったであるか?」
知らないとショウカイは思う。
魔力が増えていた感覚も一切ないし、止まったことも感じてない。
魔力が定着したとかも全く意味が分からない。
「うぬぬ……てっきり自覚しているものだと思っていたである……
心当たりはないであるか?」
「魔力が増えるか?
いつ頃から増えてたか分かるか?」
「それは……ちょっと待つである」
割と長いこといるがショウカイの体の変化にまでいつでも気を配ってはいない。
記憶を呼び起こして、どれぐらいからショウカイに変化が起きていたか思い出そうとして、腕を組むように足を組む。
「うむむむむ……正確な時期は分からないであるがテラリアスナーズたちの事件の前後ぐらいからである、思うである」
「テラリアスナーズ……あっ!」
「何があったであるか?」
「血飲んだわ」
「はい?」
「テラリアスナーズの血を飲んだわ」
「……なんであるって?」
思い出した。
その時期にあった魔力が上がりそうな出来事。
あれはシュシュとミクリャをワチカミのところに送り届けてからの出来事だった。
勘違いしたマギナズに殺されかけて、ノワールを助けるためにテラリアスナーズが血をくれた。
その時にショウカイももったいないからと両手いっぱいの血を飲み干したのであった。
なんか人にとってもすごい効果があるとかないとか言っていた気がする。
ノワールやシズクの進化の原因ともなったものである。
前にノワールが進化を始めた時にノワールが血を飲んだとは聞いていたけれどショウカイまで飲んだとはシュシュは聞いていなかった。
「まあ……納得であるな」
人間は魔物のように進化はしない。
体の構造やスキルとして表れることがなく、しかも魔物よりも魔力の吸収が遅い。
だからといって体に取り込まれたドラゴンの血は排出されてなくなるものでもない。
ゆっくり着実に、本人すら分からないほどの早さでショウカイのものになっていった。
完全に体に定着する途中だったので効果を実感できず、今になってようやくショウカイの力となったのである。
魔力が大幅に増えたために体が軽く感じられたのであった。
「ということは俺、強くなった?」
「まあざっくり言えばそうであるな」
「おおおっ!
なんかカンドーだ!」
自分はもうこれ以上強くなれないものだと思っていた。
けれどこういった形でも強くなれるのは嬉しい。
ただみんなに任せて見ているだけというのは嫌だった。
少しでもみんなと一緒に戦えるようになったのなら嬉しいと思った。
「あっ、そういえば……」
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